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トコヨのクニ  作者: 立花 葵
12 ムズムズイライラ! チェリー&チェリー鑑賞ツアー(後)
46/50

12-2

 ――不意に路地から現れた影が幸島にぶつかった。

「あ……ッ、す、すみません! ……あれ、運転手さん?」

 目出し帽シーツの妖怪は軽く手を上げ、会釈してスタスタと立ち去った。

(……?)

 首を傾げる睦美を他所に、それ以上何事もなく二人は路地を通過した。


(どうした? 目撃者などは気にするなと言っておいたはずだが……)

 続いて路地に差し掛かった睦美は、仕掛人が潜んだはずのそこを覗き込んだ。

(……)

 狭い路地に彼らの姿はなく……隅で顔を洗う黒猫と、少し顔のひきつった一つ目小僧が立っていた。

(……あいつら(仕掛人)は何処へ行った?)

 一方の幸島と静馴は、目的のお化け屋敷の前で足を止めた。


「遊園地とかにあるのもこんな感じなの?」

 看板を見上げ、静馴が尋ねた。

「まあ、お化け屋敷って言ったらこんな感じかな。幽霊の類いはいないんだけど……中身も一般的なお化け屋敷とそんなには変わらないと思うよ」

「ふ~ん、そうなんだ……」

 そう言って、静馴は改めて看板を見上げた。

 おどろおどろしい背景をぶち壊す……何処か間の抜けた提灯お化けの飾りを見つめ、クスリと笑みを溢した。


「ちょいとお二人さん」

 受付からにゅるりと首を伸ばしたろくろ首が二人に声をかけた。

「新しいアトラクションはいかが?」

「ん? ああ、バスの中で宣伝してたやつ?」

「そうそう。本番前の最終調整中でね、べーたーテストっていうの? 今ならタダよ。あと、要望出しとけば採用されるかもよ」

「どうしよう……。行ってみる?」

「う~ん、せっかくだし……、両方入ってみたいかな」

「ほいじゃ、お二人さんご案な~い」


 もう一つの入り口へ案内された幸島は、見上げた看板を読み上げた。

「VR地獄巡り……」

「狐と狸と(しん)の合作よ」

「なるほど……」

「リアルだけど幻だから安全よ。どちらかと言うと、驚いて転んだりとかの方が心配ね。ヘルメット被る?」

「いや、大丈夫」

「それでは、ごゆっくり」

 ろくろ首がするりと引っ込み、幸島は静馴の手を引いて扉に手を掛けた――


「ああ、そうそう。一度閉めるとそっちからは開けられないから、出口まで進んでね」

 扉が閉まる直前、そんな言葉が投げ込まれた。

 パタリと閉じた扉が、外の喧騒と灯りを追い出した。しんとした室内は暗く、前方に小さな光の点が見えた。

(とりあえず、あそこまで進めって事かな……)

「行こうか」

 静馴の手を引くと……ヒタリと身を寄せた彼女の肩が二の腕をくすぐり、思わず体に力が入った。顔に熱を感じつつ……強張った体を解すように、幸島はゆっくりと歩を進めた。


 一歩進む毎に光の点は大きくなり――その向こうに広がる景色が、少しずつ……ハッキリと形を成した。

「……」

「ここは……?」

 二人は、小さな和室に出た。振り返っても、今まで歩いていた道はない。

(ここって……)

 静馴には全く見覚えのない場所であったが、幸島には覚えがあった。何故ならば、この部屋は――


 スッと襖が開き、一人の男児が現れた。漫画雑誌を手に、鼻をほじりながら現れたそいつは……。

「こ、幸島くん……?」

 静馴は思わず幸島を振り返った。

(間違いない……ここは、実家の俺の部屋だ。そしてそのガキは俺だ……)

 リトル幸島は鼻をほじっていた指を引き抜き、収穫物をコネコネと丸めて机の下を覗き込んだ。

 ビッシリと並ぶ干からびた収穫物にニタリと笑みを溢し、取れたてのそれを擦り付けた。


 幸島は慌てて静馴の前に立ち塞がり、リトル幸島を隠した。

「ちょ――な、な、何だろうね……これ……。入るところ間違えたのかも……」

 静馴の視線が、思わず幸島の指先に向かった。

「こ、子供の頃の話だから! もうこんな直接的な掃除はしてないから! 大丈夫だから! キレイだから!」


 っと狼狽(うろた)える幸島の背後から、リトル幸島の大音声(だいおんじょう)が響いた。

「波◯拳!!」

 それが当たったのか……幸島か呻いた。

「ぐッ……」 

「今日こそ出そうな気がする……」

「止めろ! 止めろ! 止めてくれ!!」

 再び身構えるリトル幸島を止めようと手を伸ばすも……当然ながら触れる事はできない。手はするするとすり抜け、制止する幸島を嘲笑うようにリトリ幸島は鍛練を続けた。


 ……幸島は頭を抱え、嗚咽(おえつ)するように声を絞り出した。

「この頃は……訓練すればできるようになると思ってたんだ……。そう信じてたんだ……」

「カ~メ~◯~メ~ハァァー!!」

「止めろ! 止めてくれ……! もう許してくれ……」

 その時、ふと景色が変わった。


(……?)

 幸島は辺りを見回し、ポツリと呟いた。

「病室……?」

 ベッドの上に、半身を起こして人形で遊ぶ可愛らしい女の子の姿があった。

(これって……もしかして?)

 振り返ると、色を失った静馴が女の子を凝視していた。

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