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妖怪の里。その名の通り、妖怪達が暮らす集落だ。
彼らは夏になると各地を巡り興行を行う。興行言えば、テントなど持ち込み何かしらの演目を上演する。っというのが普通だが……彼らの場合、大半は単に行った先の町や村をウロウロするだけだ。
ここでは、夏になれば妖怪と出くわすのが普通だ。気が向けばそこで脅かしてみたり化かしてみたりと、彼等の言う興行とはそんな感じだ。
もっとも、本気で脅かされたり化かされる者はそうそういない。乗っかってそれを楽しむ。トコヨが夏の風物詩だ。
もちろん、毎年出し物的なものも用意するが、どちらかと言えばそれはオマケだ。
――初めて妖怪達を目にした静馴は、当然ながら驚いた。しかし、「ここではこれが普通だから」と至って普通な様子の幸島が、彼女の心を落ち着かせた。
「日傘はどうですか?」
ピョンピョンとついてくる唐笠、首を飛ばして客を引く茶屋のろくろ首、薬研を転がす河童 、踊る化け猫……。
静馴はキョロキョロと首を振り、ショーウィンドのように並ぶ家々から覗くそれらを飽くことなく眺めた。
事前に配した手下達に誘導されながら、権太と冴子は屋根伝いに二人の後を追い様子を窺った。
「なかなか良い感じなんじゃねぇか?」
そう言う権太へ、冴子は相変わらず何処かうっとりとした様子で頷いた。
「うん、良い感じ」
見学コースを回る幸島と静馴は、ずいぶんとぎこちなさが抜けたように見えた。
「吹っ切れたんかね」
「自然になったんよ」
「ふ~ん」
「頭が心を理解し始めてるんよ。あべこべやった順番が戻っただけ」
「なるほどな……」
「初めて出会った時に、二人の心は恋をしてはったのよ。でもそれを理解する前に離れ離れになってしもうて……」
「不意の再会で順序があべこべになってしまったってわけか?」
「たぶんねー」
そう言って、うっとりと二人を見守る冴子が頷いた……その時、ドアノブが鋭い声を割り込ませた。
「おい……! テメェらいい加減に――」
「ちょ――旦那、声がでかい」
チッと舌打ちを洩らし、声を落としてドアノブはイライラと続けた。
「テメーらは援護にきたのか、見学ツアーに飛び入り参加しにきたのか、いってぇどっちなんだ? ああ?」
「そりゃ幸島の兄さんと蓮花の姐さんの援護に決まってるじゃねぇですか……。二人の所に戻る隙を窺ってるんでさぁ」
権太は巾着袋を担ぎ直し、幸島と静馴の動きに合わせてカサカサと屋根を移動しながら返した。
「ふ~ん……」
不満そうなドアノブへ、冴子はそっと囁いた。
『ごめんねドアノブさん。でもちょっとだけ許してほしいの。あの二人を見てたらついつい昔を思い出して……』
『ふ~ん』
『ところで……ドアノブさん』
『あん?』
『なんだかんだ言うて、幸島さんの事になると真剣なんやね』
微笑んだ冴子へ、ドアノブは口を尖らせた。
『あぁ? か、勘違いするな。俺は一刻も早く体を直したいんだ、あいつに協力するのが……い、一番近道だからってだけだ』
楽しげに微笑んだ冴子は、更に声を落として耳打ちするように囁いた。
『ウチはね、生前は人間やったんよ』
『ふーん……。あ、もしかして飼い主か?』
チラリと権太へ目を動かし、微笑んだ冴子は尋ねた。
『ドアノブさんは?』
『……』
悪戯っぽく微笑む彼女に押されるように、ドアノブはポツリと答えた。
『……キーホルダー』
『幸島さんの?』
『ああ』
『大事にされはったんやね』
『まさか、ガキの頃は噛るわ投げるわ……後は文字通り死ぬまで鞄につけっぱなしで、洗いも磨きもしねぇ。
わ、分かるだろ、そんな野郎に義理立てなんぞするか。さっきも言ったが、俺は自分の体を直す為にやってんだ。か、勘違いしてんじゃねぇ……』
――一方、同じく幸島と静馴をつけるもう一つの集団は……。
ぎこちなさは残るものの、思ったよりも自然に振る舞う幸島と静馴を眺め……睦美は内心舌打ちを洩らした。
(これはこれで美味しいんだが……)
正直なところ……どうしもうないグダグダっぷりを期待していた。
他の見学者達からもそんな気配は感じるが……睦美と同じくこれはこれで美味しい見せ物のようだ。
時折思い出したように赤くなる二人に合わせ、カサカサと孫の手を動かす音が溢れ聞こえた。
(まあいいか……)
しかし、それはそうと……そろそろお約束なハプニングが欲しい頃合いだ。
突如現れたチンピラに絡まれるとか、婆さんが撒いた水をか被るとか、謎の美少女に助けを求められるとか……。
ちらと送った目配せを受け、後ろに控えていたガラの悪い数名がコソコソと先の路地へ身を潜めた。
(思ったより余裕がありそうだからな、チンピラからいってもらおうか……)
路地に差し掛かった幸島と静馴を見つめ、睦美は唇を舐めた――




