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静馴と幸島もバスを降り、一先ず近くにあった茶屋へ入った。幸島一行は一番奥のテーブル席へ腰を下ろし、運ばれてきたお茶を含んでホッと息をついた。
「連中は全員外だ」
窓際に置かれた巾着袋から外を窺い、ドアノブはそう言った。
「入ってきそうですかい?」
「いや……大丈夫だろ。打ち合わせ中っぽいな……お、糸葉まで居やがる」
そう言うと、ドアノブは改めて集まった見学者達を見渡した。
「しっかし何人居んだよ……。村を挙げてきてんじゃねぇのか?」
ふと、ドアノブはご機嫌斜めに愚痴り始めた。
「……ったくよ、どんだけヒマなんだよ。そんなに暇なら一人くらい俺の体を直しにきてもいいじゃねぇかよ……。どいつもこいつも――」
ブツブツと愚痴り続けるドアノブへ幸島が声をかけた。
「家が直ったらちゃんと作るから」
「ふん、どうせまたテキトーなガラクタを押っつけるつもりなんだろ? 悪いがテメェは信用できねぇ」
「ムサシに頼むから! それでいいだろ!?」
「フンッ、初めからそうしろってんだ」
権太は、キッと睨み合う幸島とドアノブの間に割り込み話を戻した。
「まあまあお二人とも、それは後で存分に。今はこっちに集中してくだせぇ」
「お……、おう」
「……はい」
さてと……。っと仕切り直した権太は幸島と静馴へ向き直った。
「お二人とも一体どうしなすったんで? リハーサルと全然違いますぜ?」
そう言って、俯いた幸島と静馴へ交互に視線を送った。
「それが……」
「えっと……」
と、一旦は顔を上げた二人だったが、目を見合わせたかと思うと頬を染めて再び俯いてしまった。
「なんで今更そんな……」
呆れたように権太が呟いた――その時、冴子が割り込んだ。
「ね、お二人さん」
幸島と静馴の視線を引き付けた冴子は、掲げた台本を引き裂いた。
「おい冴子、何して――」
止めようとする権太を制し、冴子は台本をビリビリに引き裂た。
「もうこんなんは止めて、そのままでいいよ」
「でもこれじゃ……あいつらを喜ばせるだけで……」
俯いた二人を見上げ、冴子は続けた。
「幸島さん、静馴ちゃん。そもそも、二人は何をしにきはったの?」
「なにって……」
「デートしに、やろ?」
「……」
「周りの目なんか関係ない。惹かれおうたもん同士ならなおさらよ。二人だけの世界、二人だけの時間を過ごすもんよ」
冴子は幸島と静馴の手を引き、そっと重ねてみるみる赤くなる二人を見上げた。
「みたい奴には見せつけておやりよ。見せびらかしておやりよ。みんな羨ましくて羨ましくて、きっと泡吹いて歯噛みしはるよ」
頬を染めて俯いたままの二人へ、冴子は問いかけた。
「これからどうしたいん? 心は何て言うてはるの?」
暫しの沈黙の後……重なっていた二人の手が絡み合い、きゅっと結ばれた。
「レンゲちゃん。外、歩かない……? 一緒に……、色々見て回りたい」
静馴の手に力がこもり、上気した顔を上げて頷いた。
「うん!」
――茶屋を出る二人を見送り、権太は呟いた。
「あの二人はいってぇどうしたってんだ?」
「恋をしてはるのよ」
何処かうっとりと答えた冴子へ、権太は口を尖らせた。
「そのぐらい見りゃわかる。俺が聞いてんのは、なんで急にドギマギしはじめたんだってところよ」
「ちょっとね、順番があべこべになってたんよ」
「うん?」
「あの二人はね、昨日まで頭で恋をしてはったの。ああだから好き、こうだから好き、ああだから、こうだから、自分はこの人に恋をしてるんだ。って……」
「今は違うのか?」
「本当の恋に落ちはったんよ」
「本当の恋?」
「心でね、恋をしてはるのよ。心が恋をしてはるの。
理屈は抜き、その人を見つめるだけで、なにげない仕草にも、声を聞くだけでも胸が高鳴って……」
冴子は紅の差した頬に手を当て、身悶えするように首を振った。
「やー、もう! 羨ましいわぁ……!」
権太へヒタリと寄り添い肩にもたれた。
「ねぇ、あんたぁ。うちも昔みたいにドキドキするデートがしたいわぁ」
うっとりと見上げる冴子から目を逸らし、権太が照れ臭そうに俯いた。
「ちょ――よ、よさねぇか……、さえ……ちゃん」
イチャつく二人へ、巾着袋から吐き出される殺気が絡みつき……ハッと我に返った。
「と、とにかく俺らも追うぞ」
権太は慌てて巾着袋を担ぎ、幸島と静馴の後を追って駆け出した。
「じゃ、邪魔が入らんように守らんとね」
権太の後を追い、冴子もテーブルを飛び立った。




