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トコヨのクニ  作者: 立花 葵
10 いんてりじぇんす
40/50

10-4

 湯飲みを置いた幸島は、居住まいを正した。

「レンゲちゃん。明日なんだけど……」

「うん?」

「先輩の企み事が動いてまして……」

「……やっぱり」

「童貞と処女のデートを見物する。という企画をしてチケットを捌いているようです」

 静馴は思わず目を伏せたが、幸島はいつになく強気で身を乗り出した。


「お、俺は……! 先輩を、童貞だの処女だのと小バカにする連中に一泡ふかせてやりたい!」

「……」

「でも……、レンゲちゃんが嫌なら……」

 静馴は首を振り、期待を忍ばせた瞳を向けた。

「わ、私は、何をすれば良いの?」

 パン! と手を打ち、権太がちゃぶ台の中央に躍り出た。


「そいつをこれから話し合うんでさぁ!」

「じゃ、ウチは召集かけてくるねー」

 そう言い残し、冴子はスイーっと窓を飛び出した。

「召集って……?」

「一家総出でお手伝いさせていただきやす」



 ――程なく、餌台とその周辺に権太一家が集結した。

「お前……すごい奴だったんだな」

 餌台を埋め尽くすカワイイ一団を見つめ、幸島は目尻を下げた。

コイツ(餌台)がなかったら散りじりになるところだたんでさぁ……」

「なるほど……」

 静馴もとろけ落ちそうなほどに目尻を下げ、いそいそと種や果実を追加していた。


 シマリスとモモンガに紛れ、ハリネズミにハトとフクロウ……。

 フクロウ?

「フクロウって……大丈夫なの?」

「失敬な、言葉の通じない連中と一緒にしないでいただきたい」

 餌台で何かをついばんでいたフクロウがクルリと首を回して幸島を見た。

「す、すみません」


 モノクルと横に尖った髭を付けたらさぞ似合うだろう……。謝罪を口にしつつ、そんな事を思った。

「それに、そもそも私は肉を食べませんので」

「ベジタリアンのフクロウ……?」

「フルーツタリアンです」

「……?」


「果物しか食べないのです」

「ああ、なるほど……」

 フクロウはこちらへ向き直り、傾げるように動かした首は直角を超えた。

「ところで……幸島さんですね? 存じ上げておりますよ」

「はぁ……」


「遠藤さんにはお世話になっておりますので」

「あ、なるほど……」

「最近種類が増えてありがたいです。特に唇の形をしたさくらんぼは、なかなか刺激的な味でしたな」

「……何それ?」


「初めて聞く名前でしたね。遠藤さんはミネシマノオンネンと仰ってましたが……」

「……」

 間違いなく、この間遠藤さんに食わせたアレだ……。

(なんか……思ってたのと違うんだけど……)

 安易に種を与えるのは控えた方がよいかもしれない……。


「ところで兄さん……」

 権太が声を潜めた。

「散々手伝うと言って焚き付けといてアレなんですが……」

 言いにくそうに切り出したその中身は見当がついている。

「餌台の拡張だな?」

「それと……」


「巣箱だな?」

「お願いできやすか……?」

「俺は構わないけど――」

「姐さんの許可はもらっておりやす」

 先回りして答えた権太へ幸島は指を差し出し、ガッチリと握手が交わされた。

「よろしくお願いします」

「こちらこそ。全力でお手伝い致しやす」



 ◆



 帰宅した幸島を、アレクサンダー・ザンダー三世が出迎えた。

「遅くまでお疲れさんでした」

「ただいま」

 幸島に続き、ナナさんもスルリと玄関を潜った。

「おや、ナナはんも一緒やったんですか?」

「いや、そこで会ったんだ。」

 あらかじめ遅くなると伝えていたため、別段怪しんでいる様子はない。


「ナナさんの足をお願い」

「はいはい。夕飯は食べてきはったんですか?」

「うん。でも軽く何か食べたいかな……」

 当然、幸島も何食わぬ顔で普通を演じている。

「ほなヤカンの中にエエもんありまっせ。ちょうど出来上がったところですわ」

 キッチンに置かれたヤカンを覗くと、ホイルに包まれた何かが良い匂いを漂わせていた。

「さつまいも?」


「デンプンの王様ですわ。ぎょうさん貰いましてね、お裾分けですわ」

 早速一本取り出し、ホイルを剥いてあつあつのさつまいもをはふはふとほおばった。

(やはり……この生活は捨てがたい)

 足を拭かれているナナさんへ目配せを送り、芋を頬張りながら席に着いた。

「どうでっか?」

「うん。旨い」

 ナナさんの足を拭き終え、アレクサンダー・ザンダー三世は急須を手に向かいに腰を下ろした。


「詰まらせんように気いつけなはれよ」

 そう言って茶を入れる彼の後ろに、さりげなくナナさんが位置取った。

「どうぞ」

「ありがと」

 幸島は差し出されたお茶を一口含み、ホッと息をついた。

 そして――不意に切り出した。

「あのさ、先輩のところは辞めて、こっちに来ない?」


 アレクサンダー・ザンダー三世ゆっくりと顔を上げ、背もたれに深く身をもたせた。

「あらま……、知ってはったんですか?」

 湯飲みを置き、幸島は穏やかに返した。

「まあね」

 双方そのままピタリと動きを止め、ジッと視線を交わした。

 答えがNOであれば、その瞬間にナナさんが飛びかかる。そして、少なくとも明日は一日簀巻(すまき)きになってもらう。

「……」

「……」

 アレクサンダー・ザンダー三世が、ゆっくりと身構えた――

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