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トコヨのクニ  作者: 立花 葵
10 いんてりじぇんす
39/50

10-3

「お茶入れてくるね」

 席を立った静馴を見送り、権太(ごんた)が報告を始めた――



「――っとまあ、そんな具合です」

 一通り報告を聞いた幸島は、腕を組んで静かに唸った。

金枝(かなえ)さんが持ってたチケットはそれか……」

「基本的に喫茶TOKOYOに出入りしている者は疑った方が良いかと」

 それだけではない。妖怪(あやかし)の里にも手が回っていると考えた方が良い。

「先輩の事だ、妖怪の里にも手を回しているだろうし……、現地の連中も疑った方が良いな……」


 呟いた幸島の背で、ナナさんは爪を研いだ。

「ええー、ショックー。お猿さんミネシマのスパイだったのねー」

 そのまま背伸びをして、パリパリと爪を研ぎ続けた。

「ちょっと、ナナさん……服が痛むんで止め――」

「期待してたのになー」

 ナナさんは鼻息を荒げ、バリバリと爪を研いだ。

「痛たたたたた、痛ッ――痛ったい!」

「ごめーん。つい興奮しちゃってー」


「しかし……、さすがに妖怪の里に知り合いは居りませんで……手が回っているとは言い切れやせんが、用心するに越した事はありませんな」

「うん……」

 しかし、用心するといっても……不案内な土地でどうしたものかと幸島は項垂れた。

「じゃあ、あたしも一緒に行ってあげるー」

「ナナさんが?」

「あたしは猫又よー」

「……あ、もしかして」


「そーよー。去年の興行で幸島を見つけてここに住み着いたけど、あたしは元々妖怪の里に住んでたのよー」

「おお、ソイツは心強い」

 思わず手を打った権太へ、ナナさんは得意気に返した。

「それなりにコネもあるのよー」

「良かった……何とか妨害を避けて過ごせそうだな」


 ホッと胸をなで下ろした幸島の服を、何か言いたげな権太がクイと引いた――その時、ドアノブが割って入った。

「だーかーらー! なんでテメェはチャンスを棒に振ろうとするんだよ!!」

「いや……これはチャンスじゃなくてピンチ――」


「どっちも同じだ!」

 バッサリと切り捨て、ドアノブは続けた。

「よく考えろ! 宣戦布告してきた敵が、余裕こいて敵の作戦行動見物ツアーなんて舐め腐った事をやろうってんだぜ!? カウンターを打つならここだろ!? ここで攻めなくてどうする!!」

「でも……、相手は先輩なんだぜ……」


「だから何だ!? なんでオメェは下がる事しか考えねぇんだよ!! ちぃぃっとぐらい攻める事も考えろよ! つーかここで動けねぇってんならテメェーにゃ一生勝ち目はねぇ! 諦めろ! 傷口広がる前にとっとと帰れ!」

 帰れ! 帰れ! と喚き散らすドアノブをなだめ、権太が幸島の前に座った。

「兄さん。あっしも、ここは攻めるべきだと思います。ここで攻めなきゃ男じゃねぇ。

 もちろん、出来うる限りのサポートを致しやす」


「権太……」

 続いて、ヒタリと幸島の頭に着地した冴子が付け加えた。

「ウチも居るよー」

「冴子さん……」

「で、どうすんだ? 帰るか?」

「……よ、よろしくお願いします」

 っとそこへ、盆にお茶やらを乗せて静馴が戻ってきた。

「できたよー。みんな座ってー」


 ――ちゃぶ台を囲む面々へ、静馴は盆から皿や湯飲みを一つづつ下ろした。

「ナナさんは猫さんミルクね」

「ありがとー」

 ピチャピチャとミルクを飲むナナさんに目尻を下げ、冴子と権太の前にも皿を下ろした。

「サエちゃんは果物ジュース」

「おおきに~」

「権太さんは……お水でよかったの?」

「へい。ありがたく」

「幸島くんと私はお茶ね」

 この前と同じ湯飲みが幸島の前に下ろされた。

「ありがとう」


 続いて……ドアノブの前に、しっとりとした……やや透明感のある白い固形物が置かれた。

「……これは?」

「ワックスだよ」

「……」

「あ、金属はニスだったっけ……?」

「あ……いや、ワックスで……」

「床用なんだけど……大丈夫かな?」

「お、おう、大丈夫、大丈夫。待ってたぜ。あ、ありがとよ」

 静馴はホッとしたように微笑み、眠たげな視線で催促するナナさんの背を撫でた。


『それ、どうするんだ?』

 上ずった声で幸島が囁いた。

『とりあえず……塗っといてくれ』

 プルプルと笑いを堪える幸島に、ドアノブは口を尖らせた。

『お、おめーだったら……、あの笑顔を壊せるのかよ』

『いいや』

『……』


『なんだかんだ……お前は良い奴だな』

『フン、今更かよ』

『余計な事さえ言わなきゃな』

『うるせ』

 幸島はちゃぶ台の面々を見渡し、湯飲みに口を付けてホッと笑みを浮かべた。

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