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トコヨのクニ  作者: 立花 葵
9 猿と猫と犬と太陽と……
35/50

9-3

 翌朝……幸島が覚めるとナナさんは戻っており、早速玄関に絡んでいた。

「玄関、体直ってよかったねー」

「……おう」

「でも爪研ぎにくーい」

「や、止めろ! 体が減る!」

 ナナさんが空けた襖の穴に、小さな扉が取り付けられた。


「おい幸島!」

「なんだ? 約束は守ったぞ」

「……」

「言いたい事は分かるけど我慢しろよ」

 幸島はかつて玄関があった場所を指した。

「見ろよ。枠どころか壁もねぇ。屋根だって半壊してんだ。今お前を取り付ける場所はそこしかない」


「……」

「分かってるよ……家が直ったらちゃんとした物に換えるって」

「……じゃぁ早く家を直せ。だいたい、見習いとはいえ大工の端くれが何時までほったらかしに――」

 と何やらブツブツと溢していたが、無視して食卓に着いた。


「おはようさん」

 挨拶と同時に、アレクサンダー・ザンダー三世が湯気の上る茶碗を置いた。

「おはよう」

 炊きたてのご飯。具沢山の味噌汁へと姿を変えた筑前煮が食卓に並び、立ち込める芳しい香りを胸いっぱいに吸い込んだ。


「頂きます」

 はふはふと飯を食い、味噌汁を(すす)り、だし巻きに食らいついた。

(ああ……この生活は捨てがたい)

『処分は貴様に任せる』

 言ったことは守るようだし……不満は溢すかもしれないけど、茶々は入れて来ないだろう。

(これはなんとか維持の方向で行きたいな……)

 その時、表に車が止まる音が聞こえた。

「誰だろ……?」

 階段の向こうに、ひょこりとムサシが顔を出した。

「よう」


「ん? なんで?」

「今日は仕事は入っていない。出勤するだけ無駄だ」

「そっか……」

 ムサシは破壊された壁や屋根を眺め、焦げ跡を指で掻いた。

「話には聞いてたけど……。ヒデぇな」

「ムサシ朝飯は?」

「食ってきた。茶をもらえるか?」


 ――テーブルに茶が置かれ、席に着いたムサシは茶を啜って呟いた。

「これも削った方がいいな……」

 そう言って、テーブルの焦げをコリコリとほじった。

「もしかして……直しに来てくれたの?」

「お前もやるんだよ」

「そ、それは、もちろん……」

「ったくよ……見習いとはいえ、大工の端くれがこんな所に住んでちゃ示しがつかねぇだろ」


「ホレみろ! このエセ大工!」

 っと、すかさず玄関が割り込んだ。

「うるせ!」

 ようやく玄関の存在に気が付いたムサシは目を丸めた。

「何処に行ったのかと思えば……ずいぶん小さくなったな」

「そうなんだよ! 見てくれよコレ! ちょっとナナに爪研ぎされただけでこの有り様……」


 傷だらけになった体をパカパカと動かすと――何処かからポロポロと釘が抜け落ちた。

「……」

 積み木を崩すように……小さな扉はバラバラに崩れ、ドアノブがコロコロと床を転げた。


「ムサシ……悪いがお前の弟子は信用できねぇ。頼む! 頼む! お前が作ってくれ! お前の家に連れてってくれぇぇー……!」

 床を転げ、オイオイと泣き始めたドアノブへ――ナナさんが躍りかかった。

「ちょ――、待て! ナナ、落ち着け!」

「ごめんねー、この本能は押さえられないのー」


 クリクリと尻を振り、再びドアノブへ躍りかかった。

「ナ、ナナ! 落ち着け! 止め――」

 ナナさんは自ら弾き飛ばしたへドアノブを追いかけ、パクリと咥えて何処かへ連れ去った。

「……まあ、なんだ。とっとと食って着替えてこい」

「はい……」



 ――昨日と同じく、寸法を測り材料を切り出す。今日は何時も通り、ムサシと一緒だ。

「ねえ、ムサシ」

「ん?」

「俺みたいな素人に仕事を教えるのって大変だったよな」

「……だった(・・・)じゃねぇよ」

「そうだった……」


 ふと、ムサシは顔を上げて幸島を見つめた。

「何かあったのか?」

「いや、すっげー腐心してくれてたんだなーって事が分かってさ」

「ハンッ、今更かよ」

 ムサシは呆れたように笑い、作業に戻った――


 程よい日差しに心地の良いそよ風が吹き……暑苦しい太陽の顔も、心なしか何時もよりマシに思えた。

「ねえ、ムサシー」

「んー?」

「後でモフっていい?」

「おう」

 っと返したムサシの尻尾は、地面を掃くようにパタパタと揺れていた。


 その時、再び車の音が聞こえた。

(今度は誰だろ?)

 コツコツと足音を響かせ、鈴端(すずはし)糸葉(いとは)が現れた。

「糸葉さん……どうしたんですか?」

 その問いには答えず、糸葉は半壊した幸島宅を眺めていた。

「あの、糸葉さん……?」

「幸島くん」

 クルリと――糸葉が振り向いた。

「はい……?」


 そのまま、じっと幸島を見つめた。

「あの……何か?」

「幸島くん。私と付き合わない?」

「何か……運ぶんスか?」

「ちょっと付き合って、じゃなくて付き合わないかと聞いてるの」

「何処へ……?」

 ため息を漏らし、コツコツとヒールを鳴らして詰め寄った。

「な、な、なんスか……? 俺……何かやらかしました……?」

 キョドる幸島の胸ぐらを掴み、グイと引き寄せた。


「私と男女の仲ならないかと聞いてるの」


「……はぁ!?」

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