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トコヨのクニ  作者: 立花 葵
8 チェリー&チェリー
32/50

8-4

 早々に仕事を切り上げ、帰宅した幸島は静馴の家へ急いだ。

 一応大工仕事をしているだけあって材料の調達はあっさり終わった。そして、大破している自宅の修理という大義名分を用いて車を出し、材料と道具は輸送済みだ。


 昨夜、自分も作業に加わりたいと言う静馴と綿密に打ち合わせを行った。

 餌台の作成に静馴が加わる事は全くもって問題ない。むしろ歓迎だ。welcome。

 しかし! 睦美と喫茶TOKOYOのマスター……この二人にそれを気取られてはならない。


 静馴は、今や喫茶TOKOYOの看板娘で稼ぎ頭だ。仕事の少ない暇人幸島とは訳が違う。

 静馴は大丈夫だと言っていたが……果して上手く抜け出せただろうか……?

 不安だが、静馴を信じるより外ない。

 無論、幸島も今日の事は誰にも話していない。話せば喜んでくれるであろうナナさんにもだ。

 唯一気がかりなアイツは……。


「痛って!」

 走る幸島のポケットから飛び出したドアノブが地面を転げた。

「あ――っ」

 っと踵を返し、駆け寄った幸島にドアノブは悪態をついた。

「おい! もっと丁寧に扱え!」

「……」

「なんだよ? その面は……いっそこのまま埋めてしまおうとか考えてなかったか?」

 そう言うと、何か言いたげな幸島へ、ドアノブは最近急速に積もり行く不満を吐き出した。


「んだよ……クソッ、この間まで敬語だったのが、今じゃなんだ……偉そうに、邪魔そうに。それが今まできっちり務めを果てしきた者への態度かねえ……」

「いや自業自得だろ」

「いいや、さっさと体を直さないお前の所為(せい)だ。俺は玄関としての務めを果たした。不審者を阻み、戦い、そして体を失ったんだ」


「途中からその不審者と一緒になって攻撃してたのは何処の誰だったか……」

「そ、それは謝っただろ……。それに、仕返したじゃねぇかよ」

「……」

「……」

 無言の睨み合いの末……幸島は妥協案を持ちかけた。

「今日、(えさ)台を作った余りでお前の新しい体を作る。それでチャラだ」

「……いいだろう」


 と、合意したドアノブだったが……ふと気が付いた。

「あ……でも今日の事を黙っとくってのは貸し一つだよな?」

「……」

「おい、幸――」

 無言で手拭いを取り出した幸島は、グリグリとドアノブに巻き付けた。

 マナーモードのように震える手拭いボールを鞄に放り込み、先を急いだ。



 ◆



 静馴の家へ着くと、シマリスの権太が出迎えた。

「ご苦労様です。姐さんはまだなんですが……入って待っててくれと」

 許可を貰っているといっても……はやり主不在の家へ入るのは躊躇(ためら)われた。一先ず庭へ回り、道具や材料のチェックをして時間を潰した。

(デザインを考えるって言ってたけど……どんなんだろ?)

 あまり凝った作りだと自分の技術では……などと不安を膨らませていると静馴が帰宅した。


「幸島くん、お待たせ」

 バス停から走って来たのだろうか……静馴は肩を大きく上下させ、ドタドタと裏口から顔を出した。

「着替えてくるから、待ってて」

 しばらくして……つなぎに身を包んだ静馴が庭に現れた。

「帰りに急いで買って来たんだけど……ちょっと小さかったかな……」

 胸がつっかえて上まで閉まらないファスナーを見つめていた幸島は……ハッと視線を引き剥がした。


 ジトっと見つめる権太へ言い訳をするように、静馴へ尋ねた。

「し、仕事の方は大丈夫だった?」

「うん。バッチリ。権太さんも協力してくれて……」

「姐さんと入れ替わりに、ウチの連中を送り込みやしたんで、余計な事を考える暇もないくらいに今頃てんやわんやしてるはずですぜ」

「なるほど……」


 静馴は頭にタオルを巻き付け、昨日描いたという餌台のデザイン画を取り出した。

「権太さんに聞きながら描いたんだけど……」

 シンプルな餌台が描かれていた。小ぶりなテーブルのような形をしており、その上に枝分かれした支柱が取り付けられていた。

「デッキの上に置くんだ」

 地面に突き刺す事を考えていた幸島は、ウッドデッキを振り返った。

「できれば屋根の下がいい、って権太さんが」


「なるほど」

 相づちを入れながら……幸島はウッドデッキを見つめ、そこに餌台を描き込んだ。

 小動物達が集まり、静馴が歩み寄る……。

(高さは……胸少し上ぐらいがちょうど良いかな)

「ここに鳥さん用のをぶら下げて……土台の所は重りの代わりにプランターを置こうかと思って……」

 静馴は上の支柱を指し、台座の方へ指を滑らせた。

(ならもう少し低めがいいか……)


 何れにせよ、予想していた物より遥かにシンプルな作りだ。内心ホッと安心すると同時に、静馴がほんのりと纏う不安を拭った。

「なら支柱は回せた方がいいよね。脱着もできた方がいいかな?」

「そんな事出来るの?」

 驚きと期待に満ちた瞳が、とてもくすぐったく、思わず視線を逸らした。

「も、も、もちろん」

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