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トコヨのクニ  作者: 立花 葵
7 コージマヒロシver1.2
28/50

7-4

 赤飯に鯛のお造り……(尾頭(おかしら)付き)

「何の……お祝い……?」

「そら、幸島はんの脱ドーテーの前祝いですわ」

「……」

「一発――いや、三発はキメてきなはれよ」


「あの……それはまだまだ先の話かと……。初デートの約束を取り付けたというだけで……」

「何を言うてはるんですか……そないな弱気でどうしますねん。もっとガッついていかなあきまへんで」

「はぁ……」

 っと言う幸島の頼り無い相づちに、アレクサンダー・ザンダー三世は、目から口から鼻からため息を溢した。


「まあ……ダメやったら嶺洲(みねしま)はんに頼みなはれ」

 視界の隅で、ナナさんの耳がピクリと反応するのを捉えた。

「ドーテーなんて、捨てられるんやったらとっとと捨てましょ。後生大事に抱えとくもんと違いま――」

 ペラペラとしゃべるアレクサンダー・ザンダー三世を制するように、幸島が割り込んだ。


「ごもっとも。でもそれはない。先輩とだけは絶対にない」

 と、彼を向いて返したが、言葉はナナさんへ向けられていた。

「そうですか……」

 大きなため息を溢したが――切り替えて赤飯をよそった。

「ま、ともかくしっかり食うて、気張りなはれよ」

「……はい」


「ま~たそんな頼りない……。気張りなはれよ!」

「はい……!」

「……まぁ、ええでしょ。ほな、頂きまひょか」

 手を合わせ、同時に頭を垂れた。

「いただきます」

 赤飯、鯛のお造り、煮物に吸い物……。

 相変わらず、この猿が作る料理は旨い。


 ナナさんはテーブル乗って別皿に分けた鯛を食べている。

 普段はテーブルに乗るのは禁止なのだが……。

(ま……いっか)

 祝い? の席だ。

「それで……デートは何処に行きますのん?」

 箸を動かしながら、アレクサンダー・ザンダー三世は尋ねた。


 デートの約束は取りつけた。

 だが、それだけだ。その先は全く考えていなかった。ダメ元で勢いに任せて言っただけなのだ。

 病院へ付き添った静馴へ、白く染まった脳みそから絞り出したものは……。


「……おば……お化け、屋敷。……妖怪(あやかし)の里に」

「……」

「ちょ、チョイスが悪いのは分かってるよ……」

 そう言うと、幸島は伏し目がちに口を尖らせた。

「でもしょうがないだろ……デートって言えば、映画館か海かお化け屋敷しか浮かばなかったんだよ……」


「幸島はん。それは何というコミックで得た知識ですのん?」

 膨れっ面で赤飯を掻き込む幸島を見つめ、アレクサンダー・ザンダー三世はため息を漏らした。

「それにその三択なら海でっしゃろ……」

「海はこの間行ったし……」

 ふと顔を上げ、ポカンと幸島を見つめた。


蓮花(はちすか)はんと?」

「うん」

「二人で?」

「うん」

「……それ、詳しく」



 数分後――

「幸島はん。それデートとちゃいますの?」

「……え?」

「二人きりで、買い物行って観光。帰りは自宅に寄ってモジモジと茶をすすった。これをデート以外の言葉で説明できますか?」

「……」


「もぉ~~たのんますで、ホンマにもぉ……。1.0から1.2くらいにバージョンアップしたんかと思うとったら、退化してますやん……。0.8ですわ。性に目覚めた中学生レベルですわ」

「……」

「ウイルスですわ。幸島はんのOSはウイルスにやられてしもうたんですわ」

「……」

嶺洲睦美(みねしまむつみ)。ウイルスの正体はこれしかおまへん」

 一足先に食事を終え、毛繕いするナナさんの視線が突き刺さった。

「幸島はん。嶺洲はんと再会してからの事を詳しく教えてもらいまひょか」



 ――何処か懺悔(ざんげ)にも似た幸島の話を聞き終え……険しい顔のナナさんを制し、アレクサンダー・ザンダー三世が口を開いた。

「幸島はん。幸島はんは成長してますで」

 摘まんだ葡萄(ぶどう)を口へ運び、皿の端に皮を戻した。

「……」


「まあ、自然に接近して、自然に誘って、自宅にまで上がり込んで……学生時代の幸島はんにそんな事ができましたか?」

「……いえ」

「幸島はんは、ちゃんと成長してまんねん。しょうもない讒言(ざんげん)に耳を貸したらあきまへん」

 そう言って、プッと種を吐き出した。

「……」


「いいですか? 幸島はんは、成長してます。ちゃんとバージョンアップしとるんです」

 再び葡萄をつまみ、ちゅるりと身を吸い出した。

「バージョン、いってんにぃーデスワ」

 吐き出した種が、カツンと皿を叩いた――



 ◆



 翌日――。

 リビングの陽だまりに寝そべるナナさんと、彼女をグルーミングするアレクサンダー・ザンダー三世の姿があった。

 破壊さ――開け放たれたままの窓から射し込む陽射しを浴び、ナナさんは心地良さそうに体を伸ばした。


「ねぇ、コージマは本当に成長してるのー?」

「加齢による羞恥心の欠如と、それに伴う(こだわ)りやプライドの喪失。これらを成長とするのであれば、そう言えるんとちゃいますか」


「ふーん。でもバージョンアップしてるって」

「放っといても歳は食いますし」

「そっかー」

 ナナさんは再び心地良さそうに体を伸ばし、ごろりと向きを変えた。


「今日のゴハンはなーにー?」

「リクエストはありますか?」

「お魚がいいー」

「昨日は鯛……海のもんでしたから、今日は川の魚にしますか?」

(あゆ)がいいー!」


「ほな、早速釣りに行きまひょかね」

「あたしも行くー」

「つまみ食いはありまへんで?」

「んんー、がまんするー」

 手早く支度を整え――竿と魚籠(びく)を手にしたアレクサンダー・ザンダー三世に続き、外へ出たナナさんが尋ねた。


「ねぇ、これはデートー?」

「それもええですな~。ならそれっぽくエスコートしなあきまへんな」

 連れ立って出かける後ろ姿を、戸棚に鎮座したドアノブが見送った。

「んな事より……俺の体は何時になったら直るんだ……」

 扉も壁も無くなった玄関から、はらりと落ち葉が舞い込んだ。

2019/8/30:誤字脱字等修正

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