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トコヨのクニ  作者: 立花 葵
7 コージマヒロシver1.2
27/50

7-3

 ふと、隣に誰かが座った。

「リリィさん……」

 言い訳に夢中で、彼女が乗って来たことに全く気が付かなかった。

 リリィはズイと顔を寄せ、スンスンと鼻を動かした。

「幸島くん怪我をしてるんですか?」

「え、ええ……まぁ」


 幸島が答えると同時に、スルリと頭に手を回して抱き寄せた。

「どうですか? 元気になりましたか? なれそうですか?」

 いつぞやと同じく、柔らかい物がムニムニと顔を包み込んだ。

「ちょ――大丈夫です、元気出ました――いや出ます!」

 もちろん何処がとは言わない。


「何処を怪我したんですか? 直接挟んで元気にします」

 その申し出に身を任せてしまいたくなる衝動を抑え、今度ばかりは力ずくでリリィの拘束から抜け出した。倫理的にまずいというのも理由だが、今は痛覚的にも非常にまずい……。元気になられては、ようやく落ち着いた痛みがぶり返してくるかもしれない……。


「大丈夫です……! 大丈夫です!」

 リリィは残念そうに首を傾げたが、直ぐに気を取り直してヒタリと腕に抱きついた。

「幸島くん。うちの子になりませんか?」

「だ、旦那に言いつけますよ……」

「ウフフ、本当の事を言うとね、ダーリンはむしろ喜ぶから大丈夫ですよ」

「へ……?」

「ウフフフ」

 リリィはいつものごとく、心ゆくまでスリスリと頭をこすり付けた――

 

 

 ◆



 ややガニ股で帰宅した幸島を、ナナさんが出迎えた。

「ナナさんただい――」

 幸島の挨拶を遮り、「お帰り」の代わりに早口に問いかけた。

「コージマ、コージマ。コージマはハチスカさんと結ばれたいのよねー?」

「……うん。まぁ」

「ハチスカさんはきっと良い人だよー。匂いで分かるのー」

「うん」

「どんなブサイクでも、むっつりスケベでも、気持ち悪くても、ドーテーでも」

「……」


「気持ち悪くても、気持ち悪くても、ドーテーでもドーテーでも」

「……」

「誠意を持って接すれば受け入れてくれる。きっとそういう人だよー」

「……ソウデスネ」

 ナナさんはジトっと幸島を見つめた。


「なのにどうしてコージマからはミネシマのニオイがするのー?」

 悲しげな視線に晒され、幸島はバツ悪そうに項垂(うなだ)れた。

「その……いろいろありまして……」

 再び使う時が……。

 気まずい空気は勢いで――


「ナナさぁ~ん!」

 素早くナナさんを引き寄せて顔を埋め――

「シャーー!!」

 っと一閃、幸島の鼻先から鮮血が舞った。



 トントンと傷口を拭かれ、幸島は顔を歪ませた。

「痛っ……」

「我慢しなはれ」

 クイと幸島の頬を掴み、アレクサンダー・ザンダー三世は傷の手当てを続けた。

「幸島はん……あれはあきまへんわ」

「……はい」

「まだリキャストも終わってまへんし、使いどころも間違うてますわ」


「……はい」

「だいたい、幸島はんのスキルは、同じぐらい経験値の少ない相手にしか通用しまへんで」

「……」

「ちと大袈裟ですけど、一応貼っときますか」

 そう言うと鼻の頭に四角い絆創膏をペタリと貼り、救急箱を閉じた。


「デートの件は後で詳しゅう教えてもらえますか? 太陽はんに報告せんとあきまへんのや」

「……はい」

「ほな、わては夕飯の用意が残ってますきに、気晴らしに散歩にでも行ってきなはれ」

「……はい」


 ――言われるがままに裏口から出た幸島は、とぼとぼと果樹園へ向かった。

「遠藤さん。こんにちは」

「やぁ、幸島くん。ナナさんがとっても怒ってたけど、どうしたんだい?」

「まあ、ちょっと……」

「ふ~ん。ところで幸島くん、種を持っているね」

「え?」


「右の~ポケット」

 言われるままにまさぐってみると……本当に種が出てきた。

(これって……)

 仕舞った覚えはないのだが……間違いなく、睦美が口に押し込んできた種だろう。


「……」

 これが押し込まれた時の感触を思い出――慌てて首を振り、それを散らした。

 こんなものは捨てしまうべきなのだが……。

 手に乗せた種と、口を開けて投げ込まれるのを待つ遠藤さんを交互に見つめた。

(……まぁ、いっか)


 投げ込まれた種を受け止め、遠藤さんはモグモグと口を動かしておもむろに呟いた。

「ん~、蓮花さんに嶺洲さんかぁ~」

「え――は? ちょ……遠藤さん?」

「うん、うん、なるほど~。ナナさんが怒るのも無理ないよ~」

「種食ったら分かるんです……?」

 エントにそんな能力があったのかと首を傾げた。


「うん。種だからねぇ~」

(いや……意味分からんって)

「ナナさんは怖いよ~。幸島くんが知っているナナさんはほんの一部。あまり怒らせちゃだめだよ~」

「……」


「たくさん話したからくたびれちゃったよ。実は好きなだけもいでって良いからねぇ~。お休み~」

 むにゃむにゃと……遠藤さんは眠りに落ちた。

『ナナに気を付けろ』

 ふと、玄関の言葉が甦った。


 振り返ると、遠くからナナさんがじっとこちらを見つめていた。

 果樹園と庭を隔てる垣根の扉から、半分だけ体を覗かせてじっと幸島を見つめていた。

「……」

 その時、裏口から洗面器を手にしたアレクサンダー・ザンダー三世が顔を覗かせた。


「ご飯でっせー」

 プイと踵を返したナナさんは、見せつけるように大人しく足を洗われていた。

「はい、次後ろです」

「……」

(あてつけか……?)

 

「ほら、幸島はんも手洗ってきなはれ」

 そう言うと、ナナさんに続きアレクサンダー・ザンダー三世も中へ引っ込んだ。

「……」

 暫くの間、じっと裏口の扉を見つめていた幸島だったが……首を振って遠藤さんを振り返った。


(あ……また葡萄(ブドウ)が生ってる)

 一房手に取り、家に戻った。

2019/8/29:誤字脱字等修正

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