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トコヨのクニ  作者: 立花 葵
6 大人の階段
24/50

6-4

 正直、この惨状を気にも留めないナナさんの言動に違和感を覚えた。しかし、いくらなんでもこれにナナさんが関係しているとは考えにくい。

「……」

 首を振り、踏み出した足がコツリと何かを蹴飛ばした。

「……よう、幸島」

「玄関……」

 しばらく迷ったが……大袈裟なため息を洩らしてドアノブを拾い上げた。

(ナナさんが拾ってきたのかな……。何となくだけど仲も良さそうだったし……)

 そう思うと、先ほどのナナさん言動も合点が行く。

(照れ隠し的なものかな……)


 そう結論した時、ドアノブが囁いた。

「ナナに気を付けろ」

「ん?」

「あいつは、文字通り猫を被っている」



 ◆

 


 翌朝。目覚めた幸島は布団の中で考えていた。

 ナナさんが猫を被っている。

 猫が猫を被っている……。

「……」

(文字通り……ってどういう意味だ?)

「分からん」

 そして何より、あの惨状が理解出来ない……。

 昨日、幸島の脳は機能不全に陥り考える事も片付ける事も放棄して早々に寝た。正直なところ……起きてみたら夢でしたー、なんて展開をちょっぴり期待もしていた。しかし――


「……現実は厳しい」

 (ふすま)の穴から覗く現実に、深い深いため息を漏らした。

ナナさんが空けた穴(襖の穴)なんてとるに足らないものだったな……)

 のそりと身を起こし、襖を開くと更なる現実が姿を表した。


「あ、どうも。お目覚めですか?」

 ニッカポッカにねじり鉢巻のニホンザル――

「アレクサンダー・ザンダー三世……」

 がリビングで朝食を取っていた。

「ささ、どうぞ冷めないうちに。冷蔵庫の中とそこら辺に落ちてたもんを勝手に使わしてもらいました」

 っと、幸島の分も用意されていた。

「……」

「コージマおはよー」

 もう食事を終えたと思しきナナさんは頻りに口の周りを舐めている。

 

 何故お前が居る? 何故我が家でメシを食っている? 俺の至福の一時であるナナさんのごはんも……? 

「おサルさん撫でるのじょーず。コージマよりじょーず」

(クッ……)

 無断で他人(ひと)の家に上がりこんでメシを食らい、ナナさん心まで……。

 っと、嫉妬と怒りを(たぎ)らせた――


 蹴り出されたって文句は言えまい……大義は我にあり!


 ――だが、だが! だがしかし! だ、が、し、か、し!

(コイツは太陽の使い(パシリ)……)

 歓迎していない意を盛りに盛ったしかめっ面で席についた。

(……タケノコご飯にお味噌汁と卵焼き……焼き魚)

 魚?

 この家にそんなものあったか? という疑問にはアレクサンダー・ザンダー三世が答えた。

「魚はあたしが獲って来ました」

「獲って……?」

「ええ、今朝釣ってきました」

「へぇ……」


 卵焼きを口に放り込んだアレクサンダー・ザンダー三世は、疑わしげな視線に応えるように言葉を続けた。

「たしかに、あたしは太陽はんに言われてきました。ですが、それだけです。様子を見てこいと言われただけです」

「へぇ……」

「様子見ついでに、なんや色々あったみたいですし、メシの用意でもと思っただけです」

 っと、器用に箸を使い飯をかき込んだ。


「そう……」

 しばらくして……幸島は箸を手に取り卵焼きをつまんだ。

(……美味い)

「どうです? 口に合いまへんか?」

「いや……、美味しいです……」

「そらよかった――」


 ほどなく……。

 完食した幸島の前にお茶が差し出された。

「ありがとう……」

 アレクサンダー・ザンダー三世は器用な足も使い、お茶を差し出しながら片付けも同時に進んでいる。

(嫁さんとかいたらこんな感じなのかな……?)

 皿を洗う彼を眺めながら、幸島はぼんやりと考えていた。


 美味い飯が食えて、一息ついて、一緒に皿を洗ったりなんかして……たまには俺が料理したりして……。

 この際猿でも……。

(なんてな)

 胃袋を掴むという言葉を実感していた。

「で、コージマはん。一体何があったんです?」


 改めて荒れたリビングを見渡し、幸島は首を振って茶を(すす)った。

「あちこち燃やしたのは太陽だ。他は知らん。俺が聞きたい」

「ふ~ん、そうですか。それで、首尾の方は?」

「……」

「ダメやったんですか?」

「いや……その、昨日はそういう場合ではなくなってしまったというか……」


「そうですか……。ま、場の空気っちゅうんは大事やと思いますし、太陽はんには上手いこと言うておきますわ」

「……はい。……お願いします」

 太陽とつるんでいるからって……。

(そういうところで判断しちゃあいかんな……)

 と、静かに反省していた幸島の思考を、ナナさんが遮った。


「でもコージマ昨日からニヤケた臭いがするー。イヤらしい事考えてる時の臭いー。ハチスカさんを上手く誘えたんだと思ってたー」

「そりゃ嶺洲(みねしま)はんと濃厚なキスをしてはりましたからな。たぶんソレでっしゃろ」

「え……? 何で知っ――」

「ミネシマってだーれー?」

「新たな女ですわ。コージマはん、ハーレムを目指してまんねん」


「は!? ちょっと待て! たしかにニヤケてたかも知らんけど、それはない! と言うかあれは事故だ! 俺はレンゲちゃん一筋だ!!」

「コージマ言ってる事とやってる事が違うー!」

「いや、だからあれは事故で、不可抗力――」

「やー、不潔ー! キモーい! 玄関ー! コージマがキモーい! キモーい!!」

「だーかーらー、元々気持ち悪いんだって」

「ちょっ――ナナさん、誤解だって!」

「やー、触らないで! 不潔ー!」


 幸島の受難は続く……。

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