6-2
「幸島くん。お見舞……いに……」
戸口に立った静馴は、その光景に言葉を失った。
無造作に転がる服、裸の睦美――彼女を押し倒している幸島。
その横には、それを咎めるように立つ糸葉。いや、直前に聞こえたセリフから察するに、止めに入ろうとしていた……?
「あ……え、えっと……あの、その……これは」
と、青ざめて行く幸島の口から、震えるようなうめきが溢れた。
「ご、ごめんなさい。私……あの……」
「……ち、違う。多分……誤解してる。これは……その、そうじゃなくて」
しどろもどろの幸島見つめ、糸葉は額に手を当ててため息を漏らした。
「……私までダシに使ったわね」
「え、えと……、お、お見舞い。ここに置いておくね」
と、慌てて立ち去ろうとする静馴を、糸葉が呼び止めた。
「静馴ちゃん待って」
ツカツカと歩み寄り、彼女の手を引いて二人の元へと戻った。
「嶺洲さん、説明なさい」
そう言って、脱ぎ捨てられた睦美の病衣を投げ返した。
「あと服を着なさい」
「説明など不要だろう。見たままだ」
「ま、ず、服を着なさい」
服を着る様子はないが……一先ず隠す所は隠したので、糸葉は切り出した。
「静馴ちゃんはこの二人の関係を聞いているかしら?」
「高校生……時代の知り合いだって……」
マスターが……っと付け加えて、幸島と睦美から目を逸らすように顔を俯けた。
「それだけ?」
「はい……」
「この二人はね、そんな単純じゃないの。ねじ曲がった関係なの。性格悪い子供とお人形よ。
経験のない幸島くんをこうして挑発して、手を出す根性がないのを良いことにおちょくり放題。
ああ、経験がないっていうのは女性経験ね。女性との性交――セ◯クスをしたことがないって事ね。彼女いない暦=年齢。つまり童貞ってことよ。
確かにこの年で童貞どころかキスもしたことがないなんてどうかとは思うけど、流石にバカにしすぎ――」
「ハッハッハ」
っと、睦美の笑い声が遮った。
「お前もなかなかだな。もう少し手加減してやれ……」
あっ、と幸島に目を向けると……真っ赤な顔を俯けてプルプルと震えていた。
「あら、ごめんなさい。そんなつもりじゃなかったんだけど……。でもあなたも悪いのよ、一体どうしたらその年まで童貞でいれるのよ? 盛りのついた時期に、その気になれば何時でもヤレる女が目の前に居たっていうのに……何か腹が立ってきたわ」
「そのぐらいにしてやれ。見ろ、産まれたて小鹿のように震えているじゃないか。それに――」
睦美は静馴へ視線を滑らせた。
静馴は赤く染まった顔を俯けてそっぽを向いていた。
「生娘にも少々刺激が強いようだぞ」
「あら、ごめんなさい。でも大丈夫よ、あなたの場合は仕方がないもの。それに、私は別に経験が無いことを責めたりましてやそれに腹を立てたりなんてしないわ。
コイツみたいにチャンスに恵まれていながらモノにせず、うだうだウジウジやってた事に腹が立つのよ。そのくせ、どうせそう言う話になると、やろうと思えばあの時に……とか言って敢えて手を出さなかった紳士を気取っていそうでムカつくわ。それから――」
っと幸島くんから再びコイツへ降格された。
その光景を眺めながら、睦美はようやく身を起こして服を羽織った。
(ちょっと予定外の展開だな……)
正座の幸島と、同様に顔を俯けたままの静馴に視線を滑らせ――ニヤリと笑みを浮かべた。
一方、幸島は……。
「……すみません」
っと、糸葉の口撃にさらされ思わず謝罪を口にした。
「は? すみませんって……何? 何が?」
「……すみません」
「だから何? 何がすみませんなの? 誰に謝ってるの? ねえ?」
「すみません……すみません……」
「意味がわからない。何なの? 何に、誰に謝ってるの?」
っと、幸島の謝罪は糸葉の怒りに油を注いだ。
「私は貴方を責めてるんじゃない。まして謝罪なんて要求してないわよ」
「はい……すみません」
「だ、か、ら! 何が『すみません』なのよ!? 何に謝ってるの!? 脱童貞のチャンスを棒に振り続けたこと? 目の前で挑発する女を押し倒す事もできない腑抜けた根性に? だったら鏡にでも向かってやんなさいよ! 童貞でごめんなさい、腑抜けでごめんなさい、腰抜けでごめんなさいって!」
「……す、すみません……ごめんなさい」
浮き上がった糸葉の血管に、ドクンと血が流れ込む様子が見てとれた――その時、
「幸島……」
睦美がズイと身を寄せて割り込んだ。
「は……い?」
次の瞬間、睦美は幸島の口へ吸い付き腕を絡めた。
「――ッッ!!?」
唇押し広げ、熱いものがヌルリと滑り込んだ。
「んん――ッ!? んんッ――ッッ!!」
一瞬何が起こったのか理解できていなかった幸島がようやく抵抗を始めるも……睦美は足を絡め、ゴロリと押し倒して動きを封じた。
「ちょっ――何やって」
言いかけて、糸葉ため息をと共にクルリと背を向けた。
「あーアホくさ……」
っと、引き戸を押し開けてズンズンと歩き去った。




