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炭化したテーブルと椅子を前に、幸島は憤った。
(ふざけんなよ……! 気に入ってたのに! 床まで焦げてるし――)
怒り満ちた瞳をもたげると同時に、ズイと太陽が顔を寄せた。
「ヌハハハハハハ! 幸島大! さぁ、悩みを話すのだ」
(このヤロウ……)
その時、ドアノブが囁いた。
『幸島、何でもいい。嘘でいい。何か相談して早々にお引き取り願え』
『はぁ? ふざけんな……! たとえ嘘でも
このクソヤロウに――』
『この調子だと家ごと燃やされるぞ』
『……』
『何でもいい。適当に当たり障りない事を言ってお帰り願え』
『……たとえば?』
『そうだな……。息子がなかなか帽子を脱いでくれないとか、右手以外愛せる自信がないとか、イヤらしい本のカバーを替えて本棚に堂々と並べて隠してる俺スゴイと悦に入っていたが、そもそも家に尋ねてくる人が居なかった――ん? なにプルプルしてんだ? 小鹿ちゃんか?』
『テメェイツカコ○ス……』
「さぁ、迷える小鹿よ! 悩みを打ち明けるのだ!」
(クソッ……とにかく帰ってもらおう)
「……すきなこをでーとにさそいたいんですけど、そのひがはれるかふあんでしかたありません」
「ヌハハハハ! そんな事か! そんな事か! バンビ幸島! そんなくだらぬ事に悩んでおったのか!」
「……」
「安心するが良い! その日は吾輩が晴れを約束しよう! 満天の青空の下、吾輩の熱き魂が降り注ぐ事を約束する!」
「ありがとうございます。これであんしんしてねむれます。たいようさんもきをつけておかえりください」
「で、それは何時なのだ?」
「え?」
「如何に吾輩とて、何時晴れさせれば良いのかを知らぬ事にはどうにも出来ん。何時を予定しておるのだ?」
「え……と……。らいげつ……ちゅうには」
「ヌハハハハハハ! 幸島大! 幸島大!! 遅いぞ! 遅い過ぎるぞ幸島大!! 他に拐ってくれと言っておるも同じではないか!!」
太陽は顔を寄せ、頭突きでもするように額を合わせた。
「男子たるもの、惚れた女は死に物狂いで拐いに行かぬか!! 何を悠長に構えておる!! 男を見せろ! 幸島大!!」
太陽は合わせた額をグリグリと押しながら続けた。
「貴様はまだ世間的には男ではない。だがそんな事は関係ない! 男を見せろ! 一皮剥けて己が息子に手本を見せてみたらどうだ!」
っと、太陽は上目遣いに幸島を見上げてニタリと笑みを浮かべた。
「我ながら上手い事を言った。ヌハ! ヌハ! ヌハ! 文字通り一皮剥けるのだ幸島大!! ヌハハハハハハ!!」
(クソ……クソッ……! チクショウ! 何だよ!? 俺が何をした!?
……いやしていない! そうとも、していない! ああそうさ、シタかったけど出来ないまま人生を終えんだよ!! それが悪いのか!? それが罪だと言うのか!? なんでそんなに貶されなきゃならないんだよ! チクショウ……!)
『おい! ベソかいてねぇで早くお帰り願え!』
(クソッ! クソッ! クソッ!)
「……きまったられんらくします」
「ヌハハハハハハ! ヌッハー!!」
太陽はゴロゴロと幸島の回りを転げて荒々しい鼻息を噴き出した。
額に頭突きを入れ、エビ反りの幸島を更に押し続けた。
「幸島大!! そんな事だから男に成れぬのだ!! ムケぬのだッ!!」
「……さ、最後のは関係な――」
「黙れバンビ!! プルプルと鬱陶しい!!」
『バンビ! しっかりしろ!』
「吾輩に手があれば活を入れてやるところだ……」
『おいバンビ! 早くお帰り願え!』
(コイツら……何時かぶっ殺してやる……!)
っとその時、幸島の背にビタン! っと何かが打ち下ろされた。
「――ッ痛!!」
思わず振り返った顔を戻すと、ニョキリと腕を生やした太陽がしたり顔で微笑んでいた。
「出来ぬと思ったか? 思ったか? この程度雑作もない。
吾輩は、『太』、『陽』、であるぞ?
ヌハハハハハハ!!」
太陽は一頻り笑うと、敵意を剥き出す幸島へ視線を戻した。
「案ずるな、吾輩とて鬼ではない。今回は特別に貴様の背を押してやる」
「……?」
「十日だ。十日以内に逢い引きの約束を取りつけてくるのだ。自力で出来ぬとあらば吾輩に助言を求めるがよい」
「……」
「なんだその目は? 女に関する悩みを吾輩以外の誰が答えられようか……。
吾輩は太陽!! 男の中の男! 男の象徴! 世界が崇める男ぞ!」
「……女に例えられる月は太陽から逃げてるって聞いた事はあるんだけど」
「……」
「……」
「……あッ! 止めろ! 眩――分かった! 分わりました!!」
幸島は目を瞑り、手をかざして力の限りに叫んだ。
「助言を求め十日以内に約束を取り付けてきます!!」
……恐る恐る目を開くと、ニカッと笑う太陽がスレスレに迫っていた。
「……」
何を言うかと思いきや……太陽はクルリと踵を返し、ホッと胸を撫で下ろした――その時、太陽が振り返った。
「十日以内に約束を取り付けられなかった場合は、吾輩が直々に輪廻の螺旋へ戻してやろう」
「……は?」
っと、太陽は素早く幸島に詰め寄った。
「案ずるな。痛みなど感じる間もなく灰にしてくれる」
「何の話だ……?」
太陽は額をぶつけ、エビ反り幸島をグリグリと押した。
「貴様はここを何だと思っている? 使命を果たせぬ者など不要だ」




