4-2
ドス、ドス――と、玄関がノック? された。
「ちょっ――止めろ! 壊れる! 呼ぶから! 呼ぶから!」
玄関の声が響いた。
「おい幸島! どうにかしてくれ!」
「誰?」
と玄関に尋ねてみるも、「知らん!」とにべもない返事だった。
まさか睦美がトドメを刺しに……とも思ったが違うようだ。
その間も、ドスドスと玄関を叩く――いや、体当たりしているような音は響き続けた。
「幸島!! 早くしろ!!」
蝶番の辺りからパラパラと落ちる埃を認め、幸島は慌てて玄関に駆け寄った。
「はい、はーい! どちら様――」
玄関を開くと、大きな球体が転がっていた。灰色の大きな球体……。
それはゴロリと転り、見覚えのある顔がニカッと笑みを浮かべた。
「太……陽……?」
「幸島大! 悩みを抱えているようだな、幸島大!」
「え……あ、はぁ? なんで……太陽が……?」
「幸島大! 女の悩みなど吾輩がたちどころに解決してくれる! 男の中の男、男の象徴であり世界が認め、崇める男! 吾輩に任せるがよい。 ヌハハハハ!!」
関わるな。
本能がそう叫んでいる。
無言で扉を閉めようとするも……シュッと体を薄く変形させた太陽が隙間に滑り込んだ。
「ヌハハハハ!! 幸島大! 幸島大! 恥ずかしがる事はない、吾輩に話してみよ!」
「間に合っ……てる!」
隙間から徐々に室内へ侵入してくる太陽を足で押し返し、ありったけの力でノブを引き続けた。
「ヌハハハハ!! 童貞であることを恥じているようだが気にする事はない! さぁ、吾輩に打ち明けて楽になるのだ!」
プルプルと震え始めた幸島の足を押し返し、太陽は着実に体を滑り込ませてくる。
「帰……れ!」
間に挟まれ、軋む玄関が苦し気な呻きを漏らした。
「あ……ヤバい、壊……れる……」
『もう少し踏ん張れ……! つか、必殺技みたいなのはねぇのかよ!』
『アホか! 九十九をなんだと思ってる!? 喋るので精一杯だ!』
「ん~? 聞こえないぞ! 幸島大! 童貞など些細な問題だ! 嶺洲睦美に弄ばれるのも些細な問題だ!
さぁ、早く吾輩に悩みを打ち明けて男らしく立ち向かえ!」
(こいつはおちょくりにきたのか……!?)
「いいから帰りやがれ……!」
幸島はありったけの力を足に注いだ――
「――ん? あッ! 止めろ! 光るな! 眩し――熱ッ!!」
怯んだ隙を突き、太陽は幸島を突飛ばして文字通り室内へ転がり込んだ。
「ヌハハハハ!! なかなか良い家に住んでいるではないか幸島大! ヌハハハハ!!」
(クソッ……)
身を起こすと……室内をゴロゴロと転げ回る太陽と、丸々と目を見開き毛を逆立てたナナさんの姿が見えた。
「ナナさ――」
「コージマ! コージマ! 玄関燃えてる!!」
振り返ると、玄関は半分ほど炎に包まれていた。
「ああッ!! み、水! 水!! ナナさん離れて――」
……半分炭化した玄関から、色味の変わったノブがコトリと落下した。
「痛ッ……」
(そういえば、本体はノブだったな……)
「大丈夫?」
ちょいちょいとナナさんにつつかれ、ドアノブは円を描くようにコロリと転げた。
「早急に新しい体を頼む……」
弱々しく呟いたドアノブを拾い上げ、幸島はため息を漏らした。
「コージマ直せる? 玄関直る?」
「大丈夫。まぁ、全く同じってのはムリだけど……」
「良かった。玄関居ないと爪が研げないのー」
と言って、背伸びをしたナナさんは炭化した玄関にパリパリと爪を立てた。
「――ッあ! ちょ、ナナさん! ……あーあー手が真っ黒」
抱き上げられたナナさんは、瞬時に次の行動を察して素早く腕を逃れた。
「あ! ま、まってナナさん!」
「やー。コージマ足洗うつもりでしょ」
「だって、それはさすがに洗わないと……」
「やー。お水嫌いー」
伸ばされる手をかわした彼女の足下に、黒い肉球ハンコがペタペタと押された。
「ちょっと、ナナさん、待って! お湯、お湯使うから! お願いします!」
「やー、お湯もやー。濡れるのやー」
逃げるナナさんの足下に、その軌跡がペタペタと印されてゆく。
「ナナさん待って! 待って! お願い! 洗わないから! 洗わないから! お願いします! 待って下さい!!」
っと、追いかけっこをするナナさんと幸島の間に太陽が割り込んだ。
「ヌハハハハ!! 幸島大! 幸島大!! 早く座れ。座って我輩に悩みを打ち明けるがよい!」
ナナさんの足を早急にどうにかしたいが……それよりもまずコイツをどうにかしなければならない。
幸島はムスっと席に座り、テーブルを挟んで太陽と向き合った。
「さぁ、我輩に悩みを話してみるがよい!」
「太陽が帰ってくれない」
「太陽とかいう奴に体を燃やされた」
っとドアノブが続いた。
「……」
「……」
「ヌハハハハハハ!!」
「太陽とかいう奴のせいで家が汚れた! 焦げ臭くなった!」
「……」
「……あッ! 止めろ! 眩――熱ッ!!」
幸島は素早く飛び退き、燃え上がる椅子とテーブルへ残ったバケツの水をぶちまけた。




