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トコヨのクニ  作者: 立花 葵
4 熱き男
14/50

4-2

 ドス、ドス――と、玄関がノック? された。

「ちょっ――止めろ! 壊れる! 呼ぶから! 呼ぶから!」

 玄関の声が響いた。

「おい幸島! どうにかしてくれ!」

「誰?」

 と玄関に尋ねてみるも、「知らん!」とにべもない返事だった。

 

 まさか睦美がトドメを刺しに……とも思ったが違うようだ。

 その間も、ドスドスと玄関を叩く――いや、体当たりしているような音は響き続けた。

「幸島!! 早くしろ!!」

 蝶番(ちょうつがい)の辺りからパラパラと落ちる埃を認め、幸島は慌てて玄関に駆け寄った。


「はい、はーい! どちら様――」

 玄関を開くと、大きな球体が転がっていた。灰色の大きな球体……。

 それはゴロリと転り、見覚えのある顔がニカッと笑みを浮かべた。

「太……陽……?」

幸島大(こうじまひろし)! 悩みを抱えているようだな、幸島大!」

「え……あ、はぁ? なんで……太陽が……?」

「幸島大! 女の悩みなど吾輩がたちどころに解決してくれる! 男の中の男、男の象徴であり世界が認め、崇める男! 吾輩に任せるがよい。 ヌハハハハ!!」


 関わるな。

 本能がそう叫んでいる。

 無言で扉を閉めようとするも……シュッと体を薄く変形させた太陽が隙間に滑り込んだ。

「ヌハハハハ!! 幸島大! 幸島大! 恥ずかしがる事はない、吾輩に話してみよ!」

「間に合っ……てる!」

 隙間から徐々に室内へ侵入してくる太陽を足で押し返し、ありったけの力でノブを引き続けた。


「ヌハハハハ!! 童貞であることを恥じているようだが気にする事はない! さぁ、吾輩に打ち明けて楽になるのだ!」

 プルプルと震え始めた幸島の足を押し返し、太陽は着実に体を滑り込ませてくる。

「帰……れ!」

 間に挟まれ、軋む玄関が苦し気な呻きを漏らした。

「あ……ヤバい、壊……れる……」

『もう少し踏ん張れ……! つか、必殺技みたいなのはねぇのかよ!』

『アホか! 九十九(つくも)をなんだと思ってる!? 喋るので精一杯だ!』


「ん~? 聞こえないぞ! 幸島大! 童貞など些細な問題だ! 嶺洲(みねしま)睦美(むつみ)(もてあそ)ばれるのも些細な問題だ!

 さぁ、早く吾輩に悩みを打ち明けて男らしく立ち向かえ!」

(こいつはおちょくりにきたのか……!?)

「いいから帰りやがれ……!」

 幸島はありったけの力を足に注いだ――

「――ん? あッ! 止めろ! 光るな! 眩し――熱ッ!!」

 怯んだ隙を突き、太陽は幸島を突飛ばして文字通り室内へ転がり込んだ。


「ヌハハハハ!! なかなか良い家に住んでいるではないか幸島大! ヌハハハハ!!」

(クソッ……)

 身を起こすと……室内をゴロゴロと転げ回る太陽と、丸々と目を見開き毛を逆立てたナナさんの姿が見えた。

「ナナさ――」

「コージマ! コージマ! 玄関燃えてる!!」

 振り返ると、玄関は半分ほど炎に包まれていた。

「ああッ!! み、水! 水!! ナナさん離れて――」



 ……半分炭化した玄関から、色味の変わったノブがコトリと落下した。

「痛ッ……」

(そういえば、本体はノブだったな……)

「大丈夫?」

 ちょいちょいとナナさんにつつかれ、ドアノブは円を描くようにコロリと転げた。

「早急に新しい体を頼む……」

 弱々しく呟いたドアノブを拾い上げ、幸島はため息を漏らした。 

「コージマ直せる? 玄関直る?」

「大丈夫。まぁ、全く同じってのはムリだけど……」

「良かった。玄関居ないと爪が研げないのー」


 と言って、背伸びをしたナナさんは炭化した玄関にパリパリと爪を立てた。

「――ッあ! ちょ、ナナさん! ……あーあー手が真っ黒」

 抱き上げられたナナさんは、瞬時に次の行動を察して素早く腕を逃れた。

「あ! ま、まってナナさん!」

「やー。コージマ足洗うつもりでしょ」

「だって、それはさすがに洗わないと……」

「やー。お水嫌いー」

 伸ばされる手をかわした彼女の足下に、黒い肉球ハンコがペタペタと押された。


「ちょっと、ナナさん、待って! お湯、お湯使うから! お願いします!」

「やー、お湯もやー。濡れるのやー」

 逃げるナナさんの足下に、その軌跡がペタペタと印されてゆく。

「ナナさん待って! 待って! お願い! 洗わないから! 洗わないから! お願いします! 待って下さい!!」

 っと、追いかけっこをするナナさんと幸島の間に太陽が割り込んだ。


「ヌハハハハ!! 幸島大! 幸島大!! 早く座れ。座って我輩に悩みを打ち明けるがよい!」

 ナナさんの足を早急にどうにかしたいが……それよりもまずコイツ(太陽)をどうにかしなければならない。

 幸島はムスっと席に座り、テーブルを挟んで太陽と向き合った。

「さぁ、我輩に悩みを話してみるがよい!」


「太陽が帰ってくれない」

「太陽とかいう奴に体を燃やされた」

 っとドアノブが続いた。

「……」

「……」

「ヌハハハハハハ!!」

「太陽とかいう奴のせいで家が汚れた! 焦げ臭くなった!」

「……」


「……あッ! 止めろ! 眩――熱ッ!!」

 幸島は素早く飛び退き、燃え上がる椅子とテーブルへ残ったバケツの水をぶちまけた。

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