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星の海の竜と鯨  作者: 葛原
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新しい船


長い通路を歩いていく。

俺の目の前には先導するように歩く、アテナ国の軍人のセリーヌがいる。

艦長は俺と話をすると、自分の船を引っ張る必要があるとそそくさと逃げて行ってしまった。あのシャツと股引に腹巻装備で副長に会うつもりだろうか……。その後のことを想像するが、うん、知らねーや。


「それで、セリーヌさん。俺たちはこれからどうなるんです?」


俺は前を歩く彼女に向かってそう声を発した。俺達の今後についてだ。


「そうだな。まず、君たちはアテナ国の国籍を与えられて、私の管理下に入る」

「それ、冗談じゃなかったんですね。貴方が上司」

「不満か?」

「そう言うわけではありませんが、貴方のことはどう呼べばよいのでしょうか」

「セリーヌで構わない。階級は、そちらの基準では少佐階級だ。」

「了解です。セリーヌ少佐」

「よろしい。私は君たち以外にも、似たような連中の面倒をまとめてみることになっている」


俺達と似たっていうと…


「同じように試験を受けていた連中や、それ以下の見習いたちのことですか?」

「そうだ。君たち以外の海賊の分も含めてな。君たちの育成と再教育も含めて面倒を見ることになった。尤も、教育は他の専門家がやるが」

「やっぱり、セリーヌ少佐は船乗りじゃないんですね」


この人はパワードスーツを着て強襲を仕掛けてきた。宇宙艦艇乗りとはまた違うんだろう。

そこを指摘されたセリーヌ少佐はやれやれと言った感じでその疑問に答えを返した。


「君たちと状況は一緒さ。私たちの艦隊は君たち海賊団を編入させて規模が何倍にも膨れ上がってしまってな。それらの管理と督戦に駆り出されて君たちを管理する余裕すらなくなってしまったのさ」

「督戦ですか…」

「元が海賊だからな。監視しないわけにもいくまい」

「まあ、そうですね」

「ま、私に艦隊のイロハは解らないが、それでも君たちに仕事を割り振ることはできるからそこは心配しないで良い。どうせ大した仕事も回されないからな」

「それは俺達に割り振る仕事ということですか?」

「そうだ。君たち含めて三つ。一人前に成りたてで経験の浅い連中には私の指揮の元、領内の治安維持に当たってもらう。訓練を兼ねたパトロールと思ってくれて構わない」

「それは、了解しましたが…」

「どうした。何か疑問か?」

「俺達の乗る船はどうなるんでしょうか」

「当然、我々が用意する。…ココだ」


セリーヌ少佐はそう言うと、今までの会話の途中にも行っていた移動の終着点を教えた。

目の前には一つのドア。それが開き、俺はセリーヌ少佐に促されてそのドアを潜る。


「わお」


ドアを抜けた先は、広大な空間。

それは宇宙ステーションの乾ドックだった。艦船の大規模な整備や修理を行う、機密の保たれた隔離空間。

そして、そこに一隻の船が停泊していた。


「アレが君たちの乗る船。ナガス級汎用護衛艦『白鯨』だ」


白い塗装を施されたその船を見て、セリーヌ少佐はそう言った。

白鯨と呼ばれたそれは全長が200m程度。断面は潰れた六角形のような八角形の葉巻型。

艦体の中ほど、その下側に巨大なフィンスタビライザーらしきものがあり、その前後にはビルジキールのようなものが走っている。

エンジン部は露出しておらず、おそらくは艦体に格納されている。船体の形状からエンジン配置は一つだけ。そのエンジン出力部を覆うように水平に舵が走っている。

ブリッジは艦体中央部に位置し、背びれのように小さく飛び出たその後方には細長く格納ブロックのようなものが見える。

その艦体の形状は、鯨に似た。さながら海洋ステーションで見た巨大な海洋性哺乳類生物を連想させた。


武装は見える限りでは艦体の上部前方に二基のタレット。そこには露出式の3連装砲塔が取り付けられているが、それ以外は確認できていない。おそらくは対デブリ防御用に格納されているんだろう。

現状確認できるのはそれ位だ。


「細かいスペックは後で資料を見せるとして、今なにか質問はあるか?」

「この船って中古品ですか?」

「ああ、そうだ。我々が船団護衛に使っていたものを払い下げたものになる」

「未だ使えそうですけど、何故、払い下げに?」

「改装用のテストモデルとしていじくりまわしたからだそうだ。我々の船は独自規格で銀河連邦の星海共通規格との互換性がない。経済的、運用的な利便性から我々の船を星海共通規格で運用できるように改造することになった。こいつは改装するにあたっての実証試験のための一隻として使われ、役目を終えたので退役。それをこちらで譲り受けたというわけだ」

「改造したことで何か不具合はありましたか?」

「重大な欠陥は発見できなかった。ただし、我々と君たちでは運用に差異があるかもしれない。その結果欠陥が発見される可能性は残っている」

「装備は俺達のモノと互換が効くという認識でいいですか?」

「ああ、エンジン、武装、その他モジュール。全て互換可能だ。現状は我々のモノを星海標準規格向けに改造したものを取り付けてある」

「成程…」

「他に質問は」

「もう一ついいですか?」

「言ってみろ」

「この船は何を想定して作られ、運用されていたんですか?この船の武装はどんな敵に使い、その装甲はどんな攻撃から守るためにあるのか、それを教えてほしいんですけど」

「汎用護衛艦は汎用の名の通り、あらゆる状況に対し、可能な限りの対処が可能なように設計された。私見での運用は、文字通りの“何でも屋”だな。移民船団の安全確保のための偵察行動や、小惑星などからの資源回収における護衛、デブリの破壊任務。少しでも武装の必要性がある場合は真っ先に使われるような存在だ。一隻での独自行動、隊伍を組んでの艦隊行動、また小規模なら艦体の旗艦としての能力も持たせてある。明確な敵を想定して作られてはおらず、武装は艦体に見合ったもの、防御能力は自身の攻撃に耐えられる程度だ」

「ふむ…、俺達の基準で言うなら、こいつは巡洋艦といった方がいいのか」

「我々が運用していた艦艇は君たちの常識からみて少々独特だからな。一概にはカテゴライズできないが、この船に関してはその認識で構わないだろう」

「成程」

「他に何かあるか?」

「特に見つかりません。あとは実際に運用してみないことには解らないでしょう」


一通り聞きたいことは聞けた。だからそう答えた。


「よろしい。では他の乗員も集めて早速艦内の把握を……と、そうだった」

「どうかしたんですか?」

「君たちが乗る船に、アテナ国からも乗員を一名追加する予定だったからな。先に紹介しておこう」


セリーヌ少佐の言葉に、先ほどまでの会話から、その乗員がなんであるかを俺は思いついた。


「それは、俺達の監視役ということですか?」


俺達は元海賊。俺達だけで船の運用を任せることはできない。だからそのお目付け役としての人員ということだった。


「まあ、そう言うことだな。船での役職は副長をやってもらう。何か意見はあるか?」


新たな乗員は副長。俺が元居たポジションだ。他の乗員と役職が被ることもないし、何かあれば俺がフォローできる。何とかなるだろう。

問題があるとすれば、


「一人だけですか?」

「そうだ、何か不満か?」

「いえ。ただ、元海賊の集団にたった一人で放り込むのはどうかと思いまして」


俺の言葉を聞いた途端、セリーヌ少佐の目の色が変わった。

後になってみてみれば、それは“面白いものを見つけた”といった類のものだったろう。

今の俺には全く気付けなかったのだけれど。


「ふむ。つまり、君はそれに手を出すというつもりか?それがどういう意味を持つかわかっているのか?」


セリーヌ少佐の言葉を反芻する。そして気づく。

そんなこと、いつまでも隠し通せるわけじゃない。いつかはセリーヌ少佐の元へ帰還しなければならないし、その時に何かあれば絶対にバレる。帰還命令に従わなくてもバレる。

そうなると、俺達の所属元、星龍海賊団にも責任が追及される。

つまり、星系の割譲の話も没になる。

俺達にそんな真似ができるはずもなかった。


「いえ。失言でした」

「“別に手を出しても構わないぞ”」

「申し訳ありませんでした!以後気を付けます!」


俺がそう叫んだ時だった。

俺達の入ってきたドアが開く。当然、その先にも人が居て、その人はこちらへとやってきた。

それは若い女性。俺達とそう歳の変わらない様子で、肩で切りそろえられた黒髪がとても印象的だった。


「失礼します。有沢 ユイ 参上しました」


彼女はそう言うと、きれいな敬礼をした。

俺達に割り振られた監視役。それが、目の前の少女だと認識するのは、セリーヌ少佐の言葉があってからだった。


「彼女が君たちの乗る船の副長だ」


俺が考えにふける間に、セリーヌ少佐はユイと呼ばれた彼女の背後に回り込み、その肩を掴んだ。


「どうだ、“手を出してみるか?”」


その言葉と、その言葉を発した少佐の表情を見て、俺は少佐に遊ばれたのだと、ようやく今になって気づく。


「あの、少佐?それはどういう……?」


そして、その間に立たされた少女はその状況に理解できず首をかしげたのだった。


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