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星の海の竜と鯨  作者: 葛原
3/23

開放感のある狭い部屋


空調の行き届いた清浄な空気。清掃の行き届いたきれいな部屋。

おまけにこの狭い空間でストレスを感じないよう,空間を確保するために用意された特別な壁。

そうそれは鉄、格、子。


「このクズ」


連邦を構成する星系国家の一つ、俺達が海賊家業に精を出していた宙域の支配権を持つ国家“オセアン”が持つ星海警備隊の留置場。


「このボケ」


武装解除を行い、捕まった俺達はそこへと押し込まれ。


「この、ド 無 能 !」


俺はそんな鉄格子の隙間から背中をゲシゲシとけたぐられていた。


「やっかましいわこのボケェ!ゲシゲシゲシゲシ痛いわ!いい加減にしろ三葉ぁ!」


その衝撃に耐えかね、乗っていた船のレーダー観測官、三葉 和美に抗議の声を上げる。


「うっさいわ龍也ぁ!」


しかし、帰ってきたのはより勢いを増した足の裏だった。


「なにが『船の出力で引きはがす』よ、どや顔で言っちゃってさ。ガッツリ取りつかれて捕まってるじゃないの!」

「仕方無いだろうが、あんなん見たこと無いんだから!」

「それで捕まってたらザマァ無いのよ!この落とし前どうしてくれんのよこれからぁ!」

「あだだだだだだだ」


より勢いを増してこちらを蹴ってくる三葉。それはもうマシンガン、いやガトリングだ。ガトリングゲシゲシだ。

というか看守さーん。お願いだから止めてくださーい。あの、見て笑ってないで止めて、ホント。

あ、痴話ゲンカだし興味ないっすか。そうですか。腹抱えて笑ってんじゃねえぞこの野郎。


「しかし、アレっていったい何だったんだろうな」


そんな三葉の暴行現場をサラッと無視しつつ、話しかけてきた男が一名。

青い髪が特徴的なそいつの名前はアルフォンス・D・青龍。艦での役割は技術者だ。

そんなんだから、やっぱ襲った時のあの空飛ぶパワードスーツのことが気になるのだろう。


「どうした、アル?普通にパワードスーツじゃないのか?」

「まあ確かに外装(ガワ)の方はそう変な部分は無かったけどな。問題は中身(ソフト)の方だよ」

「どういうこっちゃ?」

「忘れたのか?重力推進に必要な物」


さて、アルに言われて考える。

推進器と呼ばれるものは、大雑把に二つの要素からできている。

それはつまり、出力装置と、動力源だ。

原始的な風力推進なら帆が出力装置、風が動力源。もうちょっと進んで、タイヤ付きの自動車ならエンジンやモーターが動力装置、電池やガソリン、発電機が動力源になる。

重力推進を使った船の場合は反重力ジェットエンジンが出力装置で、核融合炉(電気)が動力源となる。


で、重力推進の場合、追加でもう一つ必要な物がある。

その最期の一つが演算装置だ。

重力推進は空間量子学の応用らしく、まあ詳しい事は俺には解らない。

空間の歪みに指向性を持たせることで空間そのものに流れを作り、推進部から空間そのものを放出させることで自分の位置座標を変化させるなんて言われても解らん。

ただまあ、空間を歪めるなんてことする以上、それ相応の出力が要る訳で、その制御のためにも高性能な演算装置が必要ってことだと思えばいいだろう。


で、この三つが重力推進に必要な要素な訳なんだが。


「エンジン、主機、コンピューターだろ?」

「そう。で、だ。エンジンはまあいいとして、動力炉もまあ気になるが置いておいて。問題なのは演算装置だな」

「どうしたん?」

「小さすぎるんだよ。重力場の制御に必要な演算装置を懐に入れられるサイズにまで小型化するなんて聞いたことが無い」

「ふうん」


まあ、どうでもいいが。


「あの状況で振り飛ばされずに船に取りつけたのも納得だ。彼らにとってはどれだけ早かろうと止まって見えるだろう」

「なんだと!マジかよソレ!?」

「嘘ついてどうするのさ。理屈的にそれくらいはできるでしょう」


わお、なんてこった。ヤバイな空飛ぶパワードスーツ。


「そんなことどうだっていいじゃない!」


と、アルとの会話に没頭していたところで。再度三葉が俺の背中を蹴りあげてくる。


「どうでもいいわけないでしょう。知らないことは解明しないと、次に生かせませんよ」


そしてそんな状況の三葉に対して、マイペースに答えるアル。

言いたいことは解るが、しかし三葉にそんなこと言っても無意味だぞ。


「これから死ぬってのに何言ってんの!」


ほら、思った通り。


「私達海賊やってたのよ!?犯罪行為よ!?捕まって何されるかわかってる!?縛り首よし、ば、り、く、び!」

「いや別に死ぬと決まったわけじゃないでしょう?落ち着いてくださいよ」

「落ち着ける訳ないでしょうが!じゃあ何!?死なないならどうなるの?無罪放免?違うわよね?じゃあ何!?何されるの!?ダイソンリングで燃料生成に20年懲役って?喜べるわけないじゃない!」


三葉はその場に頽れる。目元を覆い、溢れ出る涙を拭うが、しかし拭いきれずに手の端から零れ落ちる。


「嫌だよぉ。これからなのに、私の人生こんなんばっかじゃないぃぃっ…」


三葉は悔しそうに恨めしそうにそう呟く。こいつも俺達もまだ20年生きていない。

海賊という犯罪行為に手を染めた自業自得とはいえ、ここで人生終わりってなったらまあ三葉みたいにはなるのだろう。


「ああもう、落ち着けって。大丈夫だって」


流石に見るに堪えなかった。三葉の頭を撫で、落ち着かせようと試みる。


「何が大丈夫よ、どう大丈夫っていうのよぉ」

「殺すつもりなら最初からぶっ殺してるって。案外、俺たちに交渉事があるのかも」

「私たちと交渉なんてしてどうするのよ」

「まあ、俺達じゃないかもしれないけどさ。艦長が何とかしてくれるって」

「本当に?」


勿論口から出まかせだ。

ただまあ、希望は無きにしも非ずって感じだ。実際、艦長は俺達とは別に連れていかれたからな。


そして、口から出た言葉はどうやら真になったらしい。

入り口から制服を着た人間が二人、看守と共にやってくる。


「睦原 龍也はここに居るか。いたら出てこい」

「ここに居ますけど」


制服の呼びかけに俺は応える。


「どうしたんですか?」

「出なさい。話があります」


制服を着た人間の言葉は簡素で、その中身は伺えない。

ただし、俺達に拒否権は無かった。


「わかりました」


制服の言葉に従って、牢屋から出ようと立ち上がる。

そして歩き出そうとした矢先。俺の手が何かに掴まれた。

見てみれば、三葉が俺の手を掴んでいる。


「待ってよ龍也。ほんとに行くの?何されるかわからないんだよ?」


そう言う三葉の顔は涙で濡れ、そして心配そうにこちらを見ていた。

安心させるように、俺は言葉を紡ぐ。


「そうはいってもな。流石に拒否できないだろ」

「そうだけど……。そのまま殺されちゃったりしないよね」

「大丈夫だって。殺すなら話があるなんて嘘つかないから」

「本当に?」

「まあ、大丈夫だろ」


安心させるように、三葉の頭を何度か軽く叩く。

三葉はなおも心配そうにしていたが、しかし指の力を緩め、離してくれた。


「しかし、話って何なんだろうね」


そして今度はアルが声を出す。


「さあな。案外、俺達の海賊の腕を見込んでスカウトしに来たのかも」


俺はそれに冗談を返し、そしてその言葉にアルは大笑いした。


「あっはっはっはっは!そりゃないわ!」


馬鹿笑いするアルにニヤリと笑ってから、俺は牢屋の中から外に出た。


さて、話し合いとはいったいどういうことやら。


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