沙汰
「あっはっはっはっはっは!」
室内に響いたのは若い女性の盛大な笑い声だった。
「笑い事じゃないですよ。いったい軍人にどんな教育をしているんですかおたくの国は」
「いやすまない。まあ許してやってくれ、彼女たちもお前たちと同じくらい若いんだ。バカもするさ」
ことの顛末を聞き、盛大に笑ったセリーヌ少佐の言葉に俺はため息をついた。
「というか、なんで俺よりも若い子が軍人に?あんま言いたくないですけど、アテナ国って少年兵も使わないといけないほど切羽詰まってるんですか?」
「そういうわけじゃない。まあ彼女たちは特殊だ。達也艦長、アイギスについてはユイ中尉から聞いたか?」
「ええ、まあ」
「あれは人のほうにも特殊な処置を施していてな。アイギスオペレーターは皆その処置を受けている」
「処置…ですか?」
「インプラントというやつさ。脳の一部をナノマシンで変質させ、ギアスの演算装置と直結させるんだ」
「なるほど、アイギスが驚異的な反応を見せられるのはそのせいなんですね」
「その通り。そして、アイギスオペレーターにはコンピューターとの適性がないと受けられない。言い方を変えれば、適性があればならざるを得ない」
「……彼女たちは否応なしにアイギスを着せられるわけですか」
「その通りだ。そしてインプラントができるのが大体16歳、二次性徴を終えて身体的に安定してからになる。彼女たちの将来は決まっているからな」
「無駄に遊ばせておく必要もないからあの年で軍務に励むと」
「そういうことだ。だからまあ、あまり怒らないでやってくれ。彼女たちには権威も権利もあるが、自由はないんだ」
「もう説教しましたよ。これ以上をする気はありませんけど」
セリーヌ少佐の言葉に、肩をすくめながら俺はそう答えた。
「とりあえず、報告は以上になります」
「了解した。あとはこちらで引き継ごう。ご苦労だった」
「はっ!」
「それと、達也艦長。君に面会だ」
「は、面会、ですか?」
「私だ」
疑問に思う前に、答えがドアからやってきた。
出てきたのは俺が捕まった時に乗っていた船の艦長、要は教導艦の艦長をしていたその人だった。
「………へい艦長、よくも俺の前に現れましたね。三葉の件俺に押し付けてくれたおかげで半殺しにされたんですよ」
「聞いてるよ。今度は標的艦に乗せられるって嘘ついたんだったな」
「……ぐぬに」
「知らぬと思ったか馬鹿者め。冗談はこれくらいにしておこう。仕事だ」
艦長はそういうと、セリーヌと入れ替わりで俺の正面に座った。セリーヌ少佐は部屋を出ていく。おそらく今正座している彼女たちの様子を見に行ったのだろう。
「それで艦長、仕事って何ですか?」
「なに、少々この船について教えてほしいだけだ」
「この船に?」
「ああ。しばらく使ってみて、どう感じた?」
艦長、いや今は元艦長か。元艦長の言葉に疑問を思いつつも、とりあえずはその質問に俺は答えた。
「砲門の数が少ないことと射角に制限がかかることについてはやや不便を感じました。ミサイルや魚雷のおかげで死角は思ったほどではありませんが、やはり船体下方と後方へ火力を投射する能力がないのは少々不便に感じました」
「ふむ」
「ただし、Lサイズタレットの火力と最適化されたシールドは信頼感と安定感を感じました。死角からの攻撃は心理的に負担になりましたが、しかし半端な攻撃はシールドで防げるので思ったほどの負担にはなりませんでした。また火砲についても砲門数は減りましたが火力そのものは向上しており、そのため火力の投射量そのものはあまり変わっていません。むしろ、射程は伸びているのでそれだけ優位に立てる場面もありました」
「ふむ、」
「運用するにあたっては以前ほどの柔軟性はなくなりましたが、その代わりできることが明確なので悩む必要はないですね。今までと船の使い方は全く違うので困惑しましたけど、慣れてしまえばこれはこれでアリとも思えます」
「なるほどな。よくわかった」
そう答えた元艦長に、おれは思った疑問を口にした。
「艦長、なんでそんなことを?」
「ふむ、アルフォンスはこの船について何と言っていた?」
俺は記憶の隅を確認した。
「今までの船が旧式化すると」
「だろうな。私のところの青龍も同じことを言っていた。本拠点のところでも同じだと」
その言葉を聞いて、俺はピンときた。
「つまり、艦の更新をしようとしているってことですか?」
「そういうことだ。今までの船が旧式化するなら対抗できるように船も更新せねばならん。だが今まで作ったことのない船だ。使ったときにどんな不具合が出るかわからん」
「だから俺たちに使わせてその反応を見てみたと」
「わかりやすく言うと、そうだ」
「また実験台ですか……」
「すまんな」
元艦長が肩を叩いた。
「だが必要なことだったんだ。私たちでは古い船の癖が染みついているからな。お前たちでないと新型の評価を正確にできるやつがいなかったんだ」
「むう……」
そういわれては、俺にそれを否定することはできなかった。
「じゃ、俺たちの働きはちゃんと評価するよう上にも報告してください」
「善処しよう」
俺の要求に、元艦長は短くそう答えた。
後日、ロザリア達謀反を起こした彼女たちの事情聴取を終えたセリーヌ少佐は一度彼女たちを連れて帰ると、再び彼女たちを連れて戻ってきた。
俺たち白鯨の処遇を伝えるためだ。今回の一軒と、今までの活動が評価されて、俺たちにはある程度の権限が与えられるらしい。
詳細は追って通達するということで、つまりセリーヌ少佐がやってきたのはそれが目的だった。
ブリッジにセリーヌ少佐がやってきた。その後ろにはロザリアが控えている。
なぜ彼女が?とも思ったが、セリーヌ少佐の護衛だと思うことにした。何するかわからないからな。おそらくは自分のそばで監視するつもりだったのだろう。
「まずは君たちに労いの言葉を贈ろう。ここ最近活発だった海賊行為は収束に向かいつつある。それは君たちの活躍の結果だ」
「はっ。ありがとうございます!」
「君たちの活躍と、その有用性には我が国だけでなく、銀河連邦でもその有用性を検討されている」
その言葉に、ブリッジクルーたちがざわついた。俺たちの活躍が、銀河連邦も注目していた。そんなことは聞いていなかった。
「銀河連邦が、ですか?」
「そうだ。正確には、独立警備艦隊という組織と、その運用についてだがな」
「ああ、成程」
俺は納得した。独立警備艦隊は言ってしまえば予備兵力だ。手の足りないところに投入して問題の解決にあたるために存在する。それぞれの部署と役割のある各艦隊ではうかつに持っている戦力を動かすことはできず、その手間は莫大なものとなる。
そんな中で、独立警備艦隊という存在は特定の持ち場を持たないためにとても使い勝手のいい代物だった。
だが、うまく使えなければ遊兵になりその存在に価値がなくなる危険もあった。だからどこの国も作らなかった。
そこに出てきたのが俺たちで、その有用性を証明したわけだ。
「連邦との協議の結果、独立警備艦隊はその一部を連邦治安維持艦隊として各国に派遣し、より多くのデータを集めることで話がついた。睦原艦長」
「はっ!」
「君には連邦治安維持艦隊の司令として艦隊を率いてもらうことになった。ただし、連邦の各地に向かう関係上、派遣先の指示はこちらから行うが現地での作戦立案や装備品の補給更新などはこちらから行えない。よって君にはある程度の権限が与えられる。詳細は指令書を確認するように。おめでとう、睦原司令!」
「はっ!全力で職務に尽くします!」
形式的なやり取りとともに指令書が渡された後、艦内が沸いた。
銀河連邦から自分たちのやっていたことが評価されていたのだ。また権限もそれなりに拡充され、できること、やっていいことも増えている。元海賊とは言えない待遇だ。
給与面でも手当はつくだろう。皆の喜びもうなずける。
そんな中、アルが話しかけてきた。
「やったな、達也」
「ああ、頑張った甲斐があったってもんだ」
「だな、ついこないだ船の艦長に任命されたと思ったら、今度は艦隊の司令か、異例の出世スピードじゃないか」
「ああ、そうだな。―――――――――」
そこで俺はその言葉に疑問を持った。
俺は白鯨の艦長で、しかし今度からは艦隊の司令。
白鯨一隻でももちろん艦隊と名乗ることはできるだろう。
だがしかし、わざわざ、艦隊と発言した。
言っちゃったのだ。
おれは発言元、セリーヌ少佐に目を向けた。
彼女はとても、とてもいい笑顔で俺を見ながら、口を開いた。
「さて、艦隊を率いる以上、最低でももう一隻君は船を指揮しないといけない。そのため、船と人員をアテナ国から派遣。君たちの指揮下に入らせる。派遣する船は輸送船<パラスアテネ>。そしてそれを指揮するのは—」
「私ですわ達也司令!」
セリーヌ少佐の言葉を遮って、その言葉とともにこちらへとその身を飛び込ませてきたのは、セリーヌ少佐の背後に控えていた少女。
つまりはロザリアだった。
「うおおおおお!?ロザリア!?」
「はい!」
思わず抱き止めてそんな声を出した俺に元気よく彼女は答える。
「不肖ながらこのロザリア、あなた様のために粉骨砕身活躍させていただきますわ!!」
彼女はそう答えて俺にしがみついてくるが、しかしそれはすぐに阻止された。
「ロザリア、あなたはまたそんなことをして!」
「達也に何しようとしてんのよ!」
「離しますの、離しますの!私を追いかけ、捕まえてくれた殿方に仕えますの!」
「だからってくっつかないでよ!」
三葉と相沢中尉だった。後ろから引きはがし、訳の分からない事をわめき合いながら部屋を出ていく。
「セリーヌ少佐!」
それを確認しながら、俺はセリーヌ少佐に声をかけた。
セリーヌ少佐はとてもいい笑顔だった。
「彼女たちが暴走した原因はアテナ国の上層部も思うところがあったのだろうさ。実際、今の我々はまだまだ銀河連邦という大枠は捉えていてもそれを構成する各星間国家は全く把握できていないからな。各国の情勢や風俗を知る必要があった。多少の問題はあったが、その活動にはこいつ等が最適だったというわけだな」
「おしつけたな!!」
「さあ、何のことやら。命令は以上だ。派遣先は追って知らせる。それまでは艦隊の練度向上に励むように。それでは」
俺が押しとどめる間もなく、彼女はブリッジを出ていった。
後に残るのは、少し離れたところでこちらに聞こえないように器用にわめき合っている3人と、困惑するブリッジクルーと、腹を抱えて笑っているアルフォンスだけだった。
「おいアル。笑いすぎだ」
「ひっひっひ………。すまん、腹が痛い…ひっひっ……」
とりあえず、アルは引っ叩いた。
はい、というわけで星の海の竜とクジラ。ここで一つの区切りとさせていただきます。
書いてみた感想ですが、うん。
詰め込みすぎた。
いろいろ詰め込みすぎて設定すらろくにかけてない感じ。もうちょっとスマートにできたかな。
あと週一の投稿にしてみたけどこちらもどうにも合わない感じ。今度はもうちょっと集中してみよう。
何はともあれ、とりあえず一区切りまで行けたのでよしとしましょう。今までお読みになってくださった皆様、ありがとうございました。




