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星の海の竜と鯨  作者: 葛原
22/23

拿捕と懲罰


その宙を竜は飛んでいた。

背後での攻防を振り切り、向かう先は敵のハチの巣。客船<パラスアテネ>の撃破だ。

アイギスの全機は白鯨の相手をしている。つまりかの客船は丸腰だ。

仮に何らかの武装を施していたとしても、正規の運用ができないそれでは十全な効果を発揮できない。竜の持つシールドはそれに十分耐えられる根拠があった。

後方、白鯨はアイギスたちをうまく罠にはめることができたらしい。

母船と、その中にいる大馬鹿者を捕まえるだけ。簡単だ。


「……っ!」


もっとも、出撃したアイギスたちが全てであれば、の話だが。

光条が竜に迫る。しかし、それはシーズドに阻まれて貫くには至らない。

しかし、その一撃は目の前にその存在がいることを知らせていた。

レーダーに反応。前方、光条を放った方向からこちらへ向けて真っすぐと向かってくるのはアイギス。

細いが、長い。人が持つには大きく、しかしアイギスにとっては程よいサイズの、アイギス用のレーザーライフルを持った機体が竜へと迫る


「ごきげんよう。少しお時間を頂いてもよろしいかしら!」

「ロザリア!」


指揮を執るために残っていたのだろう。ロザリアは単機で竜へと迫る。

竜は口を開く。迫るアイギスを迎撃するためにその口先に光を溜める。

その光は放たれた。しかし、その一撃は当然のようにロザリアに避けられる。

そのままロザリアは竜の頭に到達し、するりと抜け、その首元、ユイのいるコクピットへと辿り着く。

そこでロザリアは武器を振るう。アイギスの主兵装は近接武器。彼女の獲物はその長銃。その先にある銃剣だ。

その切っ先がコクピットに迫る。


「くっ!」


ユイはそれを避ける。機体をロールさせ、コクピットの位置からロザリアの加害範囲からずらす。

ロザリアの攻撃はシールドに阻まれ、そしてその上を滑って後方へと抜けた。シールドにそれなりの負荷を与えたが、しかしそれだけだ。

だがロザリアはその程度では諦めない。すぐに反転し、竜を追いかける。

本来ならエンジンの出力差もあり追いつけることなど不可能だが、しかし竜も無理な機動で速度が出せなかった。すぐに追いつき、もう一撃。竜は再び回避。

致命的な一撃は避けることができた。しかし、シールドに再び負荷がかかった。

その量を計算すれば、こちらが<パラスアテネ>にたどり着く前に、竜のシールドが飽和させられることが察せられた。

仕方なしに、ユイはロザリアとの相対を余儀なくされる。が、竜とアイギスとの相性は最悪だ。

必然的にそれは防戦になる。アイギスの攻撃を腕や足で防ぎ、後方へ抜けたら尻尾を振りその軌道をかく乱する。

それで辛うじてロザリアとの戦況は膠着する。しかし、おかげで竜の進行速度は大きく削がれ、離脱を図る<パラスアテネ>と拮抗してそちらも膠着した。


「ロザリア、貴女は自分が何をしているかわかっているの!?」


状況に苛立ち、ユイが言葉を投げかける。ロザリアは即座に返した。


「当たり前でしょう!軍を無許可で抜けて装備品を無断使用して略奪に明け暮れてますわ!」

「堂々と言うな大馬鹿者!」


竜の口がロザリアを挟まんとその鎌首をもたげたが、しかしロザリアは容易にその攻撃をかわしつつ、ユイの言葉に言葉を返す。


「馬鹿者で結構!私は愛に生きますの!」

「そのせいでこの星系にどれだけの迷惑をかけていると思っているの!」

「ムサイ男どもの相手はもう嫌ですの!」


ロザリアの悲痛な叫びが轟いた。それと同時に、ロザリアの一撃がコクピットに直撃する。

シールドの耐久地が大きく減少した。

ロザリアは言葉を続ける。


「もうババアだのウザいだの罵られるのは嫌ですの!」

「仕事をしたのに文句言われるのは嫌ですの!」

「挙句にその口でセクハラを働かないでほしいですの!!」


その心の暴露と共に、ロザリアは武器を振る。ユイはその行動に対処できない。

腕の装甲が割れ、爪にひびが入り、そしてその武器の切っ先がコクピットへと向く。

そこへと切っ先が届くにはシールドが邪魔をしているが、しかしその負荷も限界を迎えかけていた。


「誰か、誰か私のことを評価してくださいませ。褒めてくださいませ!」


その叫びと共に、切っ先がユイへと迫る。


「私のことを見てくださいませええええええええ!」


そしてその切っ先がシールドを今にも飽和せんと突き込まれたその時。


「わかった、俺が褒めてやる!」


その言葉と共に、彼女の身を光が照らした。

それは白鯨の主砲の一撃。それが彼女を照らし、穿った。

シールドはその一撃を耐えたが、しかしその身は大きく吹き飛ばされた。

吹き飛ばされたロザリアの視界に映るのは、彼女が拿捕せんと標的にした白鯨。そして、彼女の視界に拡張現実(AR)で表示されたのはその船の艦長、睦原 達也だった。

不意の一撃を受けたロザリアはしかし、その存在に身構えるでもなく、先の言葉を反芻する。


「……褒めて、くださいますの?」

「ああ。褒めてやるよ。俺達と年もそう変わらんのによくも今まで不満一つこぼさずそんな状況でやってこれたもんだ。ここまで問題起こすまでよく耐えたな」

「ですけど、結果としてこんなことしましたのよ?それが褒められることですの?」

「つまり海賊共をそれだけしょっ引けたってことだろう?挙句にそいつ等手駒にして海賊行為。そこで稼いだ資金と装備を基に新天地で脱出か、よくもまあ考えて、そして行動したもんだ。」

「しかし、許されることでもありませんわよね?」

「だがその状況に改善もせず放置していたのは俺らの“上”の連中だろう。労働環境の改善は管理側の仕事だ。こんなことになったのはお前だけの責任じゃねえよ」

「そうですけど、けど……」


龍也の言葉にロザリアは狼狽える。白鯨は近づき、ブリッジ越しにそこにいる彼本人の姿も見える。

龍也は彼の言葉になびく彼女に対し、言葉を放った。


「お前はよくやった。あとのことは俺に任せろ」

「あ……ハイぃ……」


その言葉にロザリアは完全に抵抗する意思を失い、


「だから、まずは説教な?」


その言葉と共に、近づいてきた白鯨の砲身にその身を引っ叩かれるのであった。



-----------------------――


そこで趨勢は決した。

アイギスを失った<パラスアテネ>は即座に降伏し、ロザリアも白鯨に帰投、アイギスを降りて俺達の捕虜になった。

そのことを聞き、残りのアイギスオペレーターたちも降伏し、発泡剤に固められた身から解放されて捕虜としてとりあえずおとなしくしてもらっている。

離脱した海賊船たちが気がかりだが、しかし彼らはもう脅威にはならない。いずれどこかの警備隊につかまるか、割に合わないと海賊をやめていくだろう。

セリーヌ少佐とも連絡が取れる状況になり、彼女がすぐにこちらへと向かう旨も聞いた。

状況がひと段落し、一呼吸突くことができた俺が行ったのは、


「まったくお前らというやつは!」


説教だった。

目の前に正座させられているのは二人の少女。

相沢中尉と、ロザリアだ。

それぞれ『命令を無視して敵陣に突っ込みました』『私は職務を放って海賊行為に明け暮れました』と書かれた板を首から下げている。

その状況に、ロザリアが口を開いた。


「なぜ私だけこのような仕打ちを受けますの?」

「主犯格がなに言ってやがる」


俺は深くため息をついた。


「ロザリア、あんた事情が事情とはいえ海賊になったんだからこうなることくらい覚悟しろよ」

「まあ、仕方ありませんわね」

「相沢中尉も、命令違反は許さないからな」

「申し訳ありません」

「まったく……」


俺は深くため息をついた。

その時、通路の先から三葉がやってきた。どうやら俺に用事らしい。


「達也館長、セリーヌ少佐がお見えになりました」

「早いな。わかった」


三葉に短くそう答えると、俺は視線を目の前の二人に向ける。


「聞こえたな。セリーヌ少佐に報告してくる。それまでおとなしくその格好でいろよ」


俺は彼女たちにしう命令すると、その場を後にした。


ーーーーーーーーーーーーー


俺が去ったその場所で、二人は言葉を交わす。

正座でさらし者にさせられてはいたが、口を開くなとは言われていなかった。


「貴女、真面目が過ぎて周りに迷惑をかけるのはこれっきりにしたらどうですの?」

「ロザリア、貴方がそんな口をきけますか。学生時代(ついこのあいだ)まで散々訓練から逃げ出しておいて」

「貴女に言われたくはないですわ。私を訓練に連れ戻すという命令を受けて、命令のために市街地でアイギスの兵器を平気で乱射しまくっていた貴女が。貴女、集中すると周りが見えなくなる癖は直したほうがいいと思いますわよ」

「じ、自分の都合で遊びまわっていた貴方には言われたくないです。貴女のおかげで訓練できなかった人たちがどれだけ迷惑だったかわからないんですか」

「私だって遊んでなんかいませんわ。エンフィールドの家訓は”自分の旦那は自分で探せ”ですもの。今後の人生のパートナーを探すためならそれくらいの汚名何ともありませんわ」

「そのために亡命を受け入れてくれた他国で海賊行為までしないでください。達也艦長の配慮のおかげで貴方たちの処罰もアテナ国で処理できるんですから」

「まあ、そうでしたの?」

「そうです。達也艦長に感謝しておいてください。そして、今後こんなことをしないでくださいね」

「そうですわね”もうする必要もありませんもの”」

「?」


ロザリアの最後の言葉にユイは首をかしげたが、しかしその意味を理解することはできなかった。

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