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星の海の竜と鯨  作者: 葛原
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作戦会議


三葉、状況を報告。


「はい。現在、ビーハイヴ海賊団は主要航路を外れチャートに無い航路を航行中です。我々はその後方0.1光秒を追跡中。捕捉はしているはずですが未だに動きは見られません」


敵の規模は?


「アイギスの母艦と化している客船<パラスアテネ>を中心に装甲化した民間武装船が30隻。<パラスアテネ>を中心にして並走しています」


スクリーンに敵の現状が表示される。概ね言葉の通りだ。

和泉。お前ならどう動く?


「船舶はどれも脅威になりません。現状でも無力化は可能でしょう。尤も、ハチの巣にいるハチたちのことを無視すれば、ですが」


ハチの巣?…なるほど、ハチの巣(ビーハイヴ)ね。良い命名だ。

まあ、概ねその通り。問題はハチの巣の中に居るアイギスたちだ。で、和泉はコイツにどう対処する?


「どうもこうもありませんよ。こっちに通用する武器が無いんです。尻尾巻いて逃げるしかないじゃないですか」


無理か?


「少なくとも、アイギスのスペックを知らないことには何とも」


まあ、な。じゃ、教えてもらうとしますか。相沢中尉。


「はい」


アイギスについて教えてほしい。ことここに至って、機密も何もないだろう。


「それは………そうですね」


相沢中尉は逡巡したが、しかしすぐに頷く。

そしてスクリーンに映し出されたのは、アイギスの詳細なモデルだった。

相沢中尉が口を開く。


「アイギスは私たちの持つ空間機動戦力であり、アテナ国の主戦力です。慣性制御と反重力推進器で空間を飛翔し、シールド機能を持ち攻撃をある程度防げますが、それ以上に驚異的な反応速度でもって攻撃の殆どを回避します。射撃兵器の類は光速のレーザ兵器でも命中は困難です。反面、武装はそこまで強力ではなく、また射程も非常に短いため艦船にダメージを与えることはできません」


ふむ。アル、要約するとどうなる?


「最強の空間制圧戦闘機ってところか。極限まで小型化した有人戦闘機といってもいいかもしれん。慣性制御は質量が小さければ小さいほどその効果は大きい。それを最大限生かした代物だな、人の身体にエンジンを取り付けたトンデモ兵器ともいえる。運動性能だけはどこにも負けんだろう」


成程な。で、こっちの武装は。和泉?


「主砲の三連装レーザー砲が二基と、魚雷発射管が4つ。ミサイルセルが40基とあとは対空兵器がいくつかですね。弾薬の残りは魚雷が12、ミサイルが28です」


ふむ。で、和泉としてはそれで勝てるか?


「無理です。アイギスの反応速度に対処できません」


だよなあ。となると、白鯨で対処はしない方がいいか。


「そうですね。」


じゃあ、竜に来てもらうか。相沢中尉。


「はい」


あの竜について教えてほしい。


「はい、アレは機竜と言います。機種名は<ペンドラゴン>。アイギスは高い機動性を有していますが、しかし火力が貧弱です。艦船の装甲やシールドを破壊することは難しく、その撃破には時間を必要とします。それに対抗するための兵器が機竜です」

「ははあ、成程。こいつは対艦攻撃機な訳だ」


アル?


「アイギスには積めない強力な武装を乗せることができて、その巨体はアイギスよりも速度が出るから敵艦が逃げる前に捕まえることができる。取りついたら後はその爪と主砲で粉微塵ってところだな。なかなかえげつない」


…成程な、つまりアイギスに対しては、


「まさしく無力だな。こいつははるか昔、そうやって戦闘機の種類が分けられていた時代からの宿命だ。まあ、竜だからな。竜は城を破壊するが、しかし人に討たれる。今もそれは変わらんってこった」

「あの、それは?」

「ああ、相沢亜中尉は知らないか、私達の文化の中でのじゃんけんさ。一般的な三竦みの慣用句ともいえるな」


話を戻すぞ。で、俺達がアイギスを倒せる確率は?


「船も竜もアイギスには対抗できない。竜にでも祈った方が確実だと思うよ私は」


つまり無理ってことだな。じゃあアイギスの撃破をしないで彼らを無力化するしかないな。


「そんなこと、出来るんですか?」


西部機関長、いい質問だ。

まあ、アイギスにも弱点がある。和泉。


「はい。アレが空間機動兵器なら、その弱点は明確です」


つまり、


「絶対的な航続距離の短さです。アレが有人機である限り、中の搭乗員は疲れもすれば腹も減ります。いかに推進器のエネルギーが無尽蔵でも、中にいるパイロットの活動限界が空間機動兵器の航続距離になります」


という訳だ。アイギスは航続距離の面から言えば、ステーション連絡艇くらいの性能しかない訳だ。

まあ早い話、アイギスの運用にはその母艦の存在が不可欠って訳だな。母艦がなくなれば大海に漂う小舟に早変わり。


「つまり、アイギスを無視して船舶を無力化すると?」


その通り。逃げ足だけはこっちの方が上だ。アイギスからは徹底的に距離を保ちつつ、敵の船舶を無力化する。


-----------------------―――――


その後、詳細な計画を作った後、会議は終了した。

まあ、大まかには何も変わらない。アイギスが近づいたら逃げつつ、敵の船を動けなくしていくだけだ。

それは今までに比べればはるかに高難易度だったが、しかし不可能じゃなかった。


「まあ、あの母艦は難しいかもしれんがな」


俺は誰にともなくそう言った。それを耳聡く聞いたのはアルだった。


「難しいのか?」

「さすがにこいつ落とされたら全滅だからな。アイギスたちも全力で守るだろうよ。こっちの射程まで近づけられるかわからん」


流石に彼女たちも馬鹿じゃない。母艦を落とされないように動くのは必然だ。

こっちは一機でも取りつかれたらオシマイ。不用意には近づけない。


「何か一手あればいいんだがな」

「ふーむ……」


その言葉に、アルは何かを考え込むそぶりを見せる。


「何かあるのか?」

「何かというか、気になるところがな。ほら、前に話したろ。アイギスのおかしいところ」


アルの言葉に、俺は一瞬だけ頭を巡らせる。目的のモノはすぐに出てきた。


「ああ、牢屋の中での件か。アイギスの演算装置が変なんだっけ?」

「そ、少なくとも、俺達が使っている量子コンピューターじゃない。可能性はあるんだが、どうにも確証が持てなくてな」

「じゃあ、聞いてみるか。相沢中尉!」


勝算はあった方がいい。俺は相沢中尉に声をかけた。


「なんでしょうか」

「アルが、アイギスの演算装置について聞きたいらしい。量子コンピューターじゃないんだな?」

「ええ、はい。私たちは独自の演算装置を使用しています」

「教えてもらってもいいか?」

「そうですね……そこも含めて説明します」


そう言うと、相沢中尉はスクリーンに映像を出した。

それは玉というのにふさわしい、綺麗な球を描いた結晶体だった。

そいつは内側から淡く青い光を放っており、それがただの宝玉ではないことを知らせている。


「これが私たちの使う演算装置、精霊石です」

「これが、演算装置?」

「はい」


俺の疑問に、相沢中尉が素早くこたえる。

そして表示されるのはその精霊石の処理速度。俺にはその内容は詳しくわからないが、横ではアルが何か計算をしている。


「アル、どうした?」

「あれをこうしてああしてああやって―――――――。相沢中尉、質問があるけど良い?」

「何でしょうか」

「この演算装置。精霊石だっけ?こいつは二個積んだりすることはできるの?」

「いいえ、精霊石を二つ搭載した機械を私は見たことがありません」


相沢中尉が首をかしげながらもそう答える。

正直、アルの言葉は俺も理解ができなかった。


「ふーむ、成程成程、なるほどなぁ」


だが、アルはそうではないらしい。


「おい、アル。何かわかったのか?」

「ああ、精霊石、こいつが何かようやくわかった」


続く言葉は、とても簡潔なものだった。


「こいつ、重力演算素子だ」



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