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星の海の竜と鯨  作者: 葛原
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「何だ、アレは」


格納庫の中から姿を現したそれに、その姿に、俺達は驚愕する。


「柳葉!」

「わかりません!あんなものは仕入れていません!」


柳葉が叫ぶ。そりゃそうだ。あんなものどうやって仕入れるんだ。

だが現実としてこいつは格納庫から姿を現していた。

その原因が何か俺には心当たりがあったが、それはすぐに確信に変わった。


『こちら空間龍騎兵(ドラグーン)<ペンドラゴン>。ブリッジ、聞こえますか?』


艦橋に響く通信。それが移された龍から発せられたことだとはなんとなくわかった。

そしてその声色から、その声の主もなんとなく予想がつく。


「相沢中尉か。その竜に乗っているのか?」

『はい、黙っていて申し訳ありません』


相沢中尉が謝罪する。だが、今重要なのはそこじゃない。


「相沢中尉、そんなことをしてどうするつもりだ」

「撤退を援護します」


どうやって、そう聞く前に、相沢中尉は行動を起こした。

艦隊に衝撃。龍が船を蹴り、その体を宇宙空間に解き放ったからだ。


「相沢中尉!」

「私が時間を稼ぎます。その間に離脱してください」

「囮になるつもりか!」

「はい。心配しなくても大丈夫です。彼女たちとは知合いです。捕まっても乱暴にはされないでしょう」


相沢中尉はそう言うが、しかしそうなるという保証はどこにもされていなかった。


「落ち着け、まだ可能性はある。そのまま後部甲板から援護するだけでも十分だ」

「―――ありがとうございます。けど、ごめんなさい」


俺の言葉に感謝の言葉を投げかけつつも、しかし帰ってきたのは拒絶の言葉。


「この一件は私達アテナ国に非があります。これは、アテナ国が解決しないといけない問題なんです」

「相沢中尉!」

「貴方たちに迷惑はかけられません。そのまま離脱して、セリーヌ少佐に報告してください」


相沢中尉はそう言うと、一方的に通信を切ってアイギスの群れに突撃していった。


「包囲、狭まっています」

「艦長!」


そんなことが起こっていても、外の状況は刻一刻と変化をしていく。

俺がこの船の指揮官だ。この船と、船員の運命は俺の口先一つで決定される。


俺は決断をしなければならなかった。



-------------------―


鈍色の装甲を持つ、機械仕掛けの竜。

その竜の首元にあるコクピットに、相沢の姿があった。

アイギスと同じ空間戦闘用のスーツに身を包んだ彼女は、同位の存在たるアイギスの前に立ちふさがる。

数は24。6個戦隊。部隊としてまとめて運用する際の標準数だ。

彼女はその群れに突撃した。

口腔からのエネルギー砲が宙を割き、アイギスの一機へと突き進む。

しかしそれは宙を切る。狙っていたアイギスはこちらの攻撃に反応し、その加害範囲から機体を離脱させていた。

損害は皆無。しかし敵の注意は引いた。

白鯨を追う際に、背中から追撃されるのを嫌ったのだろう。

アイギスの攻撃が竜の身体に降り注ぐ。

しかし、その攻撃は届かない。まがりなりにも竜だ。その巨体が貼るシールドは艦砲の一撃すら余裕で防ぐ。

アイギスたちが持つ火器はそもそもの重要性が低い事もあって軽火器だ。それらがシールドを飽和させることは叶わない。


だからこそ、彼女たちは主武装を使う。


彼女たちは各々が使う獲物を持つ。

それは剣であり、槍であり、鎚であり、一般的にいうなれば近接武器と呼ばれるもの。

人がその歴史を紡ぎだしたその時から使うことを始めた古い古いそれである。

光の速さで、隕石すら蒸発させる威力の攻撃が当たり前に飛び交うこのご時世に、そのような骨董品が主武装として猛威を振るうのにはもちろん理由がある。

彼女たちが相対する敵は、同位の存在たるアイギスだ。特殊な演算装置の助けもあり、彼女たちは光速の一撃をすら避けることができる。必然的に、射撃武器の優位は落ちる。

また、シールドに対する攻撃には近接武器に優位がある。シールドは質量攻撃で継続的に負荷をかけ続けられると途端に飽和してしまう。

それができるのは接近し、切り結び、敵の姿勢を崩して不可避の一撃を叩き込める近接武器しか残っていなかった。


故にアイギスたちは襲い掛かる。手にもつ獲物を掲げ持ち、龍殺しの異名を轟かさんと相沢の乗る機竜<ペンドラゴン>に襲い掛かる。


竜はそれを迎撃する。口腔からは光を放ち、巨大な腕は宙を切る。その鋭い爪は何物をも切り裂き、振り回した尾の一撃はアイギスたちを彼方にまで吹き飛ばすだろう。

しかし、それは叶わなかった。

光速の一撃すらアイギスは避けるのだ。竜の放つ攻撃、強力な一撃はパワーこそあるが、いかんせん遅すぎた。

アイギスたちは宙を舞い、竜を次第に追い詰めていく。強固なシールドも近接武器には頼りない。

それはあまりにも分が悪すぎた。

相沢中尉はその中を戦い抜く。白鯨を逃す一心で。

ここで何分、何秒時間を稼げば彼らが逃げられるのかを相沢中尉は把握できない。


しかし、そんなことは把握する必要が無かった。


竜のシールドが飽和される一歩手前まで迫った時、その竜を光の一撃が襲い掛かったのだ。

それは白鯨の主砲の一撃。それは竜を包み込むと、その竜のシールドに幾ばくかの負荷を与え、そしてその身にまとわりついていたアイギスたちを残さずに吹き飛ばしていた。


「なっ!?」


その事実に、相沢中尉は驚愕の声を上げる。

それは白鯨の前部に装備された主砲の一撃。白鯨は離脱のために背を向けているはずだ。

前部にしかないそれが背後に届くはずがない。その事実は、つまり一つの結論を示していた。


『無事か、相沢中尉』

「睦原艦長!?」


見れば、白鯨がこちらめがけて突進をしていた。


『ようしそのまま。砲身へのエネルギー供給を安全域ギリギリまで下げたまんま射撃続行。相沢中尉に羽虫を近づけさせるな』

『了解!』


白鯨が持つ主砲はその砲身にエネルギーを流すことでエネルギーを収束させる。そのエネルギーをカットした場合、収束ができなくなる。

出来る結果は、砲身から飛び出したエネルギーの急速な拡散だった。

それはエネルギー弾の急激な威力減を招いたが、より広範囲への加害を可能にした。さながらエネルギーの散弾だ。

その範囲にいたアイギスたちはその攻撃にさらされ、その反動で大きく弾き飛ばされる。

そして機竜にも諸共に襲い掛かったが、しかしそれはシールドに少々の負荷をかけただけだった。

そんな攻撃を行いながら白鯨は竜へと近づいていく。


『相沢中尉、俺達はこのまま突撃する。速度は落とさないからな。うまく掴まれ!』

「睦原艦長、何で来たんですか!?」

『そんなもん後だ後!いいから掴まれ!そのまんま離脱する!』

「しかし!」

『やかましいわこの阿呆!』

「っ!」


睦原の怒声に相沢中尉は押し黙る。


『お前はこの船の船員(クルー)なの、俺この船の船長なの。つまり、お前は俺の部下なの!俺はお前たちを責任もって生きて返さないといけないの!お前は俺に部下を見捨てろっていうのか!部下の分際で偉そうに!』

「しかし」

『しかしじゃねえ!さっさと乗れ!ああ、乗らなくてもいいぞ、そんときゃ反転してもう一回だ。お前、俺達離脱させたいんだよな?そのために残ったんだよな?じゃあお前がついてくるまで離脱してやんねえ。お前の目的絶対に潰してやる。ふっはははははははは!』

「なっ!正気ですか!?」

『お前が言うな馬鹿野郎!もうすぐ時間だ。よく考えろよ?』


そう言って睦原は通信を切った。白鯨は竜めがけて突進。もう間もなく接触する。

残された時間はあまりなかった。その中でも考えて、相沢中尉は決断する。

竜は白鯨を回避した。その身をずらし、竜が避けた空間を白鯨は突き進む。

竜は白鯨との衝突を回避して、しかし反転して今度は白鯨へとぶつかりに行った。

衝突先は船の後方、格納庫の先にある小さな甲板だ。

竜はそこに着地した。その四肢で甲板につかまり、振り落とされないようにその身を固定する。


「いまだ、捕まれ!」


捕まったのは竜だけではなかった。白鯨の攻撃を受けながらも、竜を回収する一瞬のスキを突いて白鯨に取りついたのだ。

白鯨は速度を上げる。一度振り落とされたら二度と追いつけない。だが、捕まってさえいればいずれ船の制圧はできるとアイギスオペレーターたちは考えていた。

しかし、それは叶わない。

強力な一撃が彼女たちを襲う。

それは竜の尾の一撃。竜は四肢を固定し、しかしその尾は自由に動かせた。

それは質量の一撃。アイギスのシールドは一撃で吹き飛ばされ、彼女たちはまとめて船外へと放り出されてしまった。

身体に張り付いた敵を白鯨は振り落とし。故に全力で前を行く。それにアイギスは追いつけない。海賊たちも追いついたが、その前進を止めることは叶わなかった。



白鯨と竜は、何とか危機を逃れたのだ。



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