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星の海の竜と鯨  作者: 葛原
12/23

アイギス


「ウボアアアアアアアア…」


そして俺は倒れていた。

頭がとてもガンガンする。中和剤は呑んだが、血中に回るまでは今少し時間がかかっていた。

身体をよじろうが苦痛の原因は体の内からやってきていた。逃げることなどできなかった。


場所は……格納庫ブロックだ。本来は艦載機を搭載する場所だが、生憎俺達には艦載機も人員もいない。ただの荷物搬入口として利用されている。

俺は酔ったままホールから抜け出して、いつの間にかここへと迷い込んだらしい。


「ふむ、ずいぶんと楽しんだようだな」


本来誰もいないそこから声が聞こえた。


「セリーヌ少佐…。どうしてここに…」

「仕事だ。運んでくれ」


セリーヌ少佐の言葉と共に、巨大なコンテナが格納庫内に運び込まれる。

細長の格納庫の、断面積の半分をその巨体で埋めながら、そのコンテナは格納庫の奥へと運び込まれていく。


「少佐、これは?」


俺はセリーヌ少佐に聞いた。こんなものを運び込む予定は聞いていなかった。


「ふむ、そうだな…。相沢中尉の嫁入り道具とでも思ってくれて構わないな」

「嫁入りて…」


こんなメカメカしい嫁入り道具なんて聞いたことない。いや他所の文化がどうなっているからホントかもしれんが、セリーヌ少佐は楽しそうに笑っているからおそらくは冗談なのだろう。

もっとも、この荷物が相沢中尉の物である点は間違いないだろうが。


「……中身を聞いてもいいですか?」

「ふむ、何か当ててみるか?」


セリーヌ少佐はそれをクイズにした。


「……。例の、セリーヌ少佐たちが使っていたパワードスーツでしょうか」


俺は少しだけ考えて、そう答えた。


「パワードスーツ…。アイギスか」

「アイギス?」

「君たちがいうパワードスーツのことさ」


成程、あれはアイギスと呼ばれていたのか。


「それで、何故アイギスだと思った?」

「理由としては、見た目からしてまず軍用の備品ですし、コンテナそのものが何らかの維持装置のように見えます。相沢中尉の私物であると言っている以上、個人で支給されている備品の可能性が高いです。また、この格納庫は空間機動艇を格納するには少し狭すぎです。しかしこのコンテナはこの格納庫に規格を合わせてあるように思えます。おそらくアイギスが貴方たちの空間機動戦力にあたり、この格納庫もアイギス用のものなのでは?そうであるならばこのコンテナはアイギスの整備モジュールである可能性が高いですし。何より、相沢中尉はセリーヌ少佐の部下ですから」

「なるほど、だから彼女もアイギスオペレーターだと」

「まあ、そう言うことです。合っていますか?」


俺はセリーヌ少佐に予想の是非を聞いた。


「まあ、そんなところだ」


セリーヌ少佐は肯定した。


「何故、これをここに?無駄とは言いませんが、単機ではできることも限られます。私たちの任務には必要ないのでは?」

「まあ、任務には必要ないが。問題はコイツのシステム上の問題だな」

「システム?」

「細かい説明は省くが、アイギスは個人に専用化されている。他の人間が装着することはできない」

「専用化?それは、軍事としては欠陥なのでは?」

「パーツは共通化されているから言うほどじゃない。何より、性能は体験した通りだろう?」

「……」

「まあ、専用化にも問題が無いわけでも無くてな。アイギスは長期間、オペレータと離れることができないんだ」

「なぜですか?」

「ザックリ言ってしまえば、アイギスの操縦は半分、アイギスのコンピューターに任せているところがある。長期間の隔離は、その操縦のリンクがズレるんだ」

「………連携訓練をサボって腕が落ちるようなものですか?」

「そう言うことだな。訓練というほどじゃないが、最低でもそばにいる必要がある訳だ」

「なるほど……。」


俺は頷いた。任務前に持ち込まなかったのは俺達が信用されていないか、もしくは大規模なメンテ中で間に合わなかったか。まあ何かあったのだろう。


「こいつのことはどうすればいいでしょうか」

「放っておいていい。相沢中尉の仕事だからな」


セリーヌ少佐はそう言った。


「中身の詳細を教えてもらってもいいでしょうか」

「ああ……いや、詳細は伏せておこう」

「…えらくもったいぶりますね。理由をお聞かせいただけますか?」

「一応、アイギスは我々の切り札だからな。詳細を教えることは出来んのだ」

「……成程」


そう言われては仕方がない。今の俺達はアテナ国の軍人だが、いずれ独立するつもりなのは彼らも知っている。

他国に自国の機密は漏らせないだろう。


「本当に俺達は何もしなくていいんですね?」

「ああ、メンテナンスは自動だし、細かい調整は相沢中尉でないとできないからな。放っておいてくれて構わない」

「了解しました。船員にもそう伝えておきます」

「頼んだ」


「さてと、仕事も終わりだ。私はそろそろ戻る」

「了解です。お疲れさまでした」

「そうだな、明日はがんばれよ」

「? はい」


俺はセリーヌ少佐の言葉にちょっと引っかかるものを感じながら、敬礼を返した。

その疑問は翌日に判明した。


-------------------


『頭が、頭があああああ』


始めて飲んだ酒に浮かれて騒ぎ過ぎた連中が、見事に二日酔いになっていたからだ。

艦内を倒れる船員たち。その口から洩れるのは苦痛の呻き。


「今度から、酒だけは強く言おう」


他のまともな船員たちと共に彼らを介護しながら、それは心の中にそう誓うのであった。

知らなかったとはいえ、これは少々目に余る。


「あうううううううう………」


おお、三葉よ、二日酔いとは、なさけない。


「調子に乗って飲みすぎたな。ほら、中和剤飲め」

「うう、ありがとう。龍也」


三葉が頭痛に苦悶の表情を浮かべながら、その手を俺の手にある中和剤に伸ばしてくる。


「…………」


俺は、苦悶の表情をしながらこちらに縋ってくる三葉の表情を見て………


「…?龍也?」


中和剤を持っている手を引いたのだった。三葉の手が空を切る。

もう一度、三葉の取れそうな位置に中和剤を持って行く。

三葉はそこへ手を持って行き、そして掴みそうなところで俺は再び中和剤を逃がした。

それからも二度、三度と中和剤を逃がしていく。


うん、これはお仕置きだ。

いくら初めての飲酒とはいえ、加減も知らずにかぱかぱと飲みまくった三葉に対するお仕置きだ。

飲むなとは言わんが、人様に迷惑をかけるんじゃありません。あと自分の身の安全を確保するためにももう少し呑み方を覚えなさい。

というわけで、もうちょっと苦しめ。


決して、決っして。三葉が苦しんで縋って悶絶しているさまを見たくてやっているわけではありません。……無いと言いたい。


「龍也ぁ。いじめないでよぉ……」


あ、いかん。ガチ泣き一歩手前だ。

本気で泣かれちゃかなわない。流石にそこまでやる気はなかった。


「まったく、ホラ」

「んくっんくっ」


俺は三葉に中和剤を飲ませた。嚥下用の水を使って飲ませていく。


「これに懲りたら、呑み方には気を付けろよ?天国から地獄に早変わりだからな?」

「ふぁい……」

「まったく……」


中和剤を飲んで気分的にも楽になったのだろう、三葉はスヤァしてしまった。

まあ、中和剤が効くのも時間がかかる。もう少し休ませておこう。

他の奴等にも中和剤は行き渡ったみたいだ。とりあえずはひと段落出来るかな。

そんなことを考えていたら、通路の向こうから元気な姿がこちらめがけて走っているのが目に入った。

つまり、俺に用事だ。


「おい、龍也。龍也!」


この予定外の事態で皆がてんやわんやしている中でさらに騒ぎを持ってきた奴が約一名。

そいつはアルフォンスだった。


「何だよアル。というかお前二日酔いになってないのな」

「そら飲んでないからな。血中アルコール0%で酔えるわけないだろ」

「さよけ。で?いきなり興奮して何なんだよ」

「格納庫のアレなんなんだよ!」

「アレ?ああ……」


一瞬混乱し、すぐに思い至る。相沢中尉の私物の件だろう。


「例のパワードスーツだよ。アイギスっていうらしい。」

「マジで!?何で!?」

「相沢中尉の機体だとさ。アテナ国じゃ機体は専用化してるらしいな」

「ああ、それは以前聞いた。艦外活動用の宇宙服的なものだから個人で保有するのが一般的なんだと」

「私服とか軍服みたいなもんか?いや、自家用機みたいなもんか。てか個人所有って民間もあんなん持ってんのか」

「さすがに民間と軍用じゃ性能に開きはあるけどな。民間向けはギアスっていうらしい。というよりはギアスっていう大分類の中にアイギスがあるのか」

「へえ」


以前、相沢中尉からそのあたりを聞いたのだろう。


「てかそんなもんはどうでもいいんだよ。触っていいよな、アレ!」

「駄目だぞ」

「何で!?」

「機密だからだよ」


アルが興奮するのも理解はできるが、しかし許可は出せないぞ。

コイツ知識欲の塊だからホントにそう言うのは理解できるが。


「セリーヌ少佐から直々にそう言われた。詮索は禁止」

「なんでだよ!」

「上からの命令だよ。あと勝手に触るのも禁止だからな」

「うっ…。わかったよ」


コイツこっそり触るつもりだったな?


「アル、俺達の行動が、俺達の今後に繋がることは理解できるよな?」


ここで機密を暴くようなことがあれば、アテナ国からの信頼は消えてしまうだろう。

それは俺達の組織についても同様だ。下手なことはできない。


「わかってるよ。………わかったよ」

「頼んだぞ?」

「わかったって。他の技術科の連中にも伝えておくよ」


そう言って、アルは背中を見せて歩き出す。


「うっ」


しかし、3歩ほどで立ち止まった。何か声を漏らしたが、大丈夫か?


「うおおおおおおおおお…。目の前に、目の前に未知の塊があるのにいいいいい…」


その場に頽れて呪詛を吐き出すアル。コイツの知識欲は今に始まったことじゃない。こうなるのはまあ、予想の範囲だ。


「畜生、畜生おおおおお……」


……警備班に頼んで、技術科の奴等監視させた方がいいだろうか。

目の前のアルの様子を見て、俺はちらとそんな考えが浮かんだ。


まあ、結果としては杞憂だったわけなのだが。


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