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星の海の竜と鯨  作者: 葛原
10/23

はじめてのおしごと



後日、

艦の把握を終え、最低限の戦闘訓練を終えた俺達は晴れてアテナ国の遊撃警備艦隊として組み込まれた。

正規のパトロール隊と違うのは管轄を持たないこと。要は既定のパトロール範囲を持たないことだろう。

つまり、俺達は行動の自由を与えられて海賊を狩り手柄を立てていいということだった。


まあ実際は何にでも使える鉄砲玉兼雑用係なのだが。


正規のパトロールに組み込むには練度も信頼性も低く。役に立つかわからない。

なので、セリーヌ少佐をトップに仕立てて正規軍の手の回らない、あってもとても面倒くさい仕事をやらせようという魂胆の元に作られた艦隊だった。


つまり、行動の自由なんて真っ赤な嘘だ。俺達の行動はセリーヌ少佐にみっちりと予定を組み立てられている。

というわけで、俺達は最初の仕事として航路警備を指示され。その航路を航行中だった。

正規のパトロールが定期的に巡回している航路だが、それで防げるのは海賊が拠点を作って大規模化するのを防ぐ程度であり、小規模な海賊がうろつくことは防げなかった。

俺達の仕事はそこにいきなり表れて海賊たちの意表を突き、「お、あの宙域はたまにパトロールが抜き打ちでやってくるから襲撃に使うのは控えよう」と思わせるのが仕事な訳だ。

航路をただ通るだけ。初めての仕事にはぴったりだ。


「三葉船務長、周辺に異常はないか?」

「現状に異常なし。今のところは問題ありません」


俺は三葉の言葉に頷いた。


「機器の定期点検を忘れないようにな」

「わかってるわよ。そんなヘマはしないわ」


三葉に怒られた。俺も初めての任務で緊張しているらしい。

この航路は星系内のステーション間を結んでおり、直線で結ぶ主航路よりは距離が長くなるものの交通量も少なく、少ないとは言うものの定期的に通る程度には多く、海賊が襲うには獲物にも困らず、そこそこに快適で、そして星系軍が対処するには主航路ほどの経済効果もないが無視したら主航路がパンクして経済に影響が出そうな程度には重要な。

まあ、とても面倒くさい航路だった。俺達を割り振るには最適な航路である。

この航路の距離はこの船の経済速度なら大体一週間もあれば通過する程度。

その初日からこれじゃ先が思いやられる。

俺は気を張り詰め過ぎないように、張り切って気を緩めた。


「艦長、航行中の商船から通信が入ってきています」


そして、気を緩めた俺の元に、通信手からのそんな報告が届いた。


「商船から?内容は?」

「通話回線です。艦長に繋げと言っていますが、どうしましょう」

「俺に?……繋げて」

「了解です」


俺は一瞬だけ考えて、そう答えた。

俺が拒否する理由は無いし、会話は信頼関係の構築に繋がる。

何かトラブルがあるなら、その対処も俺達の仕事だった。

通信手にそう伝えると、艦長席の横にあるサブディスプレイに話し相手の顔が映る。

その相手はいかにも商人といった感じの男だった。


「こちら、アテナ国遊撃警備艦隊所属、白鯨の艦長、睦原です。何か問題でもありましたか?」

「ああ、いや。問題というわけではないんだが、いつものパトロール隊じゃなかったから気になってな」

「ああ、成程」


その言葉に俺は納得した。おそらく、普段この航路を使う商船なのだろう。普段通るここに、今まで見たことのない武装船。不安になるのも納得だ。


「私たちは臨時でこの航路のパトロールを行っています。何か異常があればすぐに駆けつけますので、安心して航海を行ってください」

「ああ、成程な。よろしく頼む。といっても、もうすぐ主航路に繋がるけどな」

「ははは。そうですね。……それで、ここに来るまで何か異常はありましたか?」

「私たちは問題は無かったが、…襲われたやつらが最近増えてきているな」

「そうなんですか?」

「ああ。最近までこの辺りの宙域を縄張りにしていた海賊団が潰れてな。残ったシマを取りに有象無象が集まってきてる。規模はそこまで大きくないが、その分見境も秩序もねえ。チンピラと変わらん奴らがこの辺りに集まってきてる」

「そうなんですか…」

「昔とどっちが良かったんだかね」

「ご安心ください。私たちが全部捕まえてやりますから」

「ははは、若いのに頼もしいな。よろしく頼むよ」


そう言って、商船の船長は通信を切った。

さて、


「ぷっ、くくっ」

「笑いたいなら笑っていいぞ三葉」


俺は、通信中に肩を震わせ、精いっぱい笑わないよう我慢していた三葉にそう声をかけた。

俺の許可も得て、三葉は心置きなく笑い声をあげる。


「ぷっ、あはははははは。龍也、ついこの間まで海賊だって調子に乗ってたのに、海賊退治は任せろって、どの口が言ってるのよ。あはははははは」

「うるせえ。立場が変われば態度も変わるんだよ。慣れろ」

「無理、あははははははは」


三葉は容赦なく笑う。見れば、艦橋のクルーたちも苦笑していた。

こりゃ分が悪い。俺はそう考えたので、話題を変えることにした。


「アルフォンス技術長。さっきの話から、この辺りに出没する海賊の装備などを予測できるか?」

「龍也、笑われることから、逃げるな」

「うるせえこの野郎」


三葉がさらに笑った。


「まあ、予測するのは難しくないな。俺達より小規模で態度も悪く、狙う船も見境なしってなると、文字通りのチンピラだろうな。自分の船を持って調子に乗った奴等が徒党を組んで暴走族になってんだろう。仕切ってたヤクザもいなくなったからな」

「成程な。てことは武装もそうたいしたものじゃないな」

「そうだな。武装もそこまで大したものは無いだろうし、船そのものも純軍用は無理だろう。せいぜいが装甲化した武装商船くらいかな」

「やっぱそんなもんか。和水戦術長、聞いていたな。俺達の相手は武装商船程度になりそうだから、それを基にして対応マニュアルの作成を頼めるか」

「了解です。睦原頭領」

「和水、お前もか」

「ははははは」


俺はとうとうふてくされた。しばらくは、こいつらのおもちゃになりそうだ。


-------------------


「救難信号を受信しました。前方、6光秒先にて商船が海賊に襲われているそうです」


パトロールを開始して6日。航路の終端までもうすぐというところで、通信手は俺にそう報告した。


「総員、第二種戦闘配置。警報鳴らせ」


俺の号令と共に、船に警報が鳴り響く。非番を除く総員が自分の持ち場につき、戦うための準備を整えていく。

俺はそれが完了するまでの間に、ブリッジクルーに指示を飛ばした。


「林航海長、目標宙域に進路を設定しろ」

「了解、航路の策定始めます」

「三葉船務長、レーダーを指向性に変更。目標の補足急げ。それと襲われている商船に救援の旨を伝えろ」

「了解、レーダーを指向性に切り替えます」

「アル技術長、提供されたデータから敵の照会はできるか」

「照会完了。予想通り、武装した民間船が三隻だ」

「了解。和水戦術長、聞いていたな。対海賊用マニュアルを実行する」

「了解、各班に伝えます」

「西部機関長」

「了解、エネルギーレベルを通常レベルから戦術行動レベルに引き上げます」

「柳葉環境長」

「平時備品を固定中です。また警備班に有事武装を許可しました」

「目標捕捉、スクリーンに出します」


各班に指示を出し終えると同時に、三葉が敵をスクリーンに映し出す。

映し出されたのは赤と青に分けられた4つの3角形。青が一つと、赤が三つ。それぞれが襲われている商船と、海賊を現している。

海賊は商船を包囲しようと動いているが、しかし商船も必死になって逃げているためなかなか捕まえることができないでいる。


「包囲にでも失敗したか?」


俺の言葉にアルが反応した


「だろうな。エンジン出力は同等だろうし、包囲を抜けられて追いかけっこの始まりってところか。シールドを飽和させてエンジンを壊そうとしてるみたいだけど、時間をかけすぎたな」


アルの言葉に頷く。脚も遅い、武装しただけの民間船なら、包囲に失敗した段階で逃げないと駄目だろう。

じゃないと、俺達正規軍がやってくるからな。

その判断ができない以上、こいつらはずぶの素人だし、練度もそれなりなのだろう。

俺は一つの決断を下した


「和水戦術長、作戦を変更する」

「作戦を、ですか?」

「ああ、ミサイルと魚雷は使用禁止。艦砲のみで応戦する」

「艦砲だけで…?つまり艦長」

「ああ、全部とっ捕まえるぞ」


ミサイルも魚雷も、もし命中したら下手すると撃沈しかねないし、そうじゃなくても乗員を傷つける可能性がある。シールドだけに限定してダメージを与えられるのはエネルギー兵器である艦砲だけだ。

元々は牽制に使い、敵がミサイルの対処に手間取っている間に商船を逃がす予定だったが、作戦変更だ。全部捕まえる。


「敵は三隻です。数的にはこちらが圧倒的に不利ですが…?」

「負けそうか?」


俺の言葉に和水戦術長は押し黙った。つまりはそう言うことだ。

彼我の戦力差、そして練度。ついでに敵の士気の高さ。

全てを考えても、俺達が負ける要素は一切ない。


「…了解です。武装は艦砲に限定。全部捕まえますよ、いいですね?」

「うむっ!」


和水の問いに俺は鷹揚に頷いた。


「船務科、配置完了しました」

「同じく戦術科、配置完了」

「機関科、いつでもどうぞ」

「環境科、準備できました」

「航海科、航路の策定完了です」

「技術科、バックアップは任せろ」


各部署の報告を聞き、この船が俺達の家から、戦闘兵器へと変貌を遂げたことを確認する。

後は俺の号令一つだ。

だから、言った。


「第一種戦闘配備。海賊退治だ!」


この船が戦闘状況に移行すると、警報が鳴り響いた。


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