四十二話「天下一障害物走、もはや人外の試練!」
レーンに雁首揃えた四名が一斉に走り出す。
初速から桁違いな春。
何か前に蹴り出す足の威力が凄まじすぎて濛々と後塵が巻き上がっている。一人で何馬力ですか、鉄腕なんとか君ですか?
それに追随する敷波さんと霧島さん。
前者はやる気満々、後者は隣を睨んでる。
走る前から二人には因縁があるらしい。
そして――なぬ?
一番出遅れたのは――夏蓮さんだった。
『早い、春ちゃん早すぎる!だから書紀のとき会議内容を記録する手元が見えなかったのか!?』
『いや、それ脚力関係ないやん』
『でも後ろじゃ熾烈な争い……うわ、見えない!直線になると煙が被って見えない!春ちゃん、温暖化に気をつけて!』
『排気ガスやない、あれはただの土煙や』
そう言いつつ。
春ちゃんの独走状態が続いている。
そこで、第一の障害物が見えてきた。
等間隔で設置されたハードルが並んでいる。高さは奥に向かうに連れて高くなっている。最後に関しては鳥居みたいだった。……潜るんですかね?
ふと、最後のハードルの直前は間隔が広くなっているのに気づいた。え、助走距離を考えての配慮ですか、やっぱり飛ぶの!?
『あの、第一障害物の最後って……』
『ば、バカな……私の要望が通っただと……!?』
『アンタの仕業かよッ!!』
『アンケート調査票で誰も書かないと思って出したんだよ、凄くない?』
まさか……。
中野早希の美貌に目がくらんでしまったのか。
種目は体育祭実行委員が考えたが、内容については学校側が少し手を加えることになる。俺たちの会議では不審な点など無かったし、要するに……保護者とかにも中野早希を信奉する狂信者がいたのか!?
破格の障害物。
ハードルを次々と飛び越えていく春は、最後の障害を――躊躇わずに潜り抜けていった。
『飛べよ!』
『飛べるか!?アンタがやってみろ!』
『春ちゃん、よく出来まちたね〜』
掌返しが早すぎる。
これが噂の掌ドリルか!?
そして、次の――敷波さんと霧島さん。
彼女も躊躇わず……二手に分かれて、ハードルの支柱に飛び蹴りを叩き込んだ。
『次の走者は……ああっと、二人でハードルを蹴り倒した!?』
『なるほど、倒れた後で飛び越える算段ですか』
がしゃん、と盛大な音を立てて倒れる。
それから二人は飛び越えた。
後から来た夏蓮は何事もなく飛び越えていく。
『何か一番後ろが特してない?』
『驚かずに済みますしね。頑張れ、負けるな夏蓮!』
そうこうしている内に、先頭の春が第二の障害物に突入していた。
第二の障害物は平均台だった。
地面に水平に、長く進んで――うん?
視線で先を辿っていくと、極細になっていた。爪先ですら危うい余裕である。
『うはっ、私の意見通り過ぎ』
『またアンタか……ていうか学校側の査定ガバガバかよ』
『凄いね、どうやったんだろ』
『それはともかく、もうあの細さ、尖ってません?足乗せた瞬間ザクっていきますよ、もはや何か拷問器具で見たことある形ですよ』
春が平均台に飛び乗る。
だからといって速度の減衰は無く、何か滑走しているようにすら思えた。間もなくして極細領域に到達――する寸前で靴を脱いで両手に持つ。
そして、前へと踏み出した。
『……あれ、まさか』
『爪先立ちしながら、足の指で台を挟んで立ってる……!?』
春が離れ業を披露する。
極細の平均台を、足の親指と人差し指の間に挟みながら進んでいく。
難なくと(?)そのまま突破し、靴を履き直すや再発進した。
に、人間じゃない……。
続く第二走者たちは平均台の上を移動して、極細領域の前で立ち止まった。その間に夏蓮が追いついて……途中で降りて先へと進んでいった。
『ええっ、障害物走がんばろうよ叶桐ちゃん!』
『いや、あれが常識ですから。第一走者が破格のばけも……達人だっただけですから』
続いて、春が最後の障害物へと挑戦する。
そこには、地面に雑然と紙がばら撒かれていた。
彼女は立ち止まって、一つを拾う。
『あれって……』
『借り物競走だね』
あの紙にお題が書かれているのだ。
それを持ってゴールに走れば完走者として認められる。
さて、彼女のお題は――お、こっち見た。
何やら鬼気迫る表情で、こちらへと駆けて来る。
「ユウくん、行くよ」
「おう?」
何事?
アクセスして頂き、誠に有り難うございます。
春ちゃん、人離れしたことばかりしてますが、しっかりかわいいヒロインです。常識人の夏蓮ちゃんが果たして追いつけるか。
次回も宜しくお願い致します。




