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四十一話「知ってる顔が四つ、うん修羅場」



 次の出場競技まで空きがある。

 本来なら自陣の席で待機するのが鉄則。……だがしかーし、俺には全く関係無い!何たって体育祭実行委員、この体育祭の王、神なんですよ!

 まあ、名前だけはえらく仰々しい割に内容は雑用ばかりな他、二校合同の二日間による特別体育祭とあり、例年よりもその忙しさは桁違いなのだ。

 ま、実行委員入ったことないから、どれくらい違うかなんて知らんけど、結構俺は扱き使われてる。

 俺ってば、どうしてこう不憫なんだろう。

 叶桐家の目があり、春の脅しがあり、梓ちゃんからの追放宣告があり……普通、もっと楽しくなかったっけ?

 みんなで賑々しく(ワイワイ)やって無駄な協調感育んで、その中に淡い恋があったり……あ!?楽しくねぇな、リア充どもが蛆虫のごとく湧く地獄絵図(イベント)なんざ!


 そんな怨嗟を胸の内で叫びつつ歩く。

 俺は障害物走の誘導、整列の係である。書紀だから、てっきり実況放送とかさせてもらえると思ったが、生憎とそんな役は回って来なかった。

 主に、広瀬翔の美声(ハスキーボイス)を期待しているらしく、凡夫の俺には需要が無いだとか路鉈の女性副委員長に言われた。……選り好みすんなよ、ホント。

 そうして俺が入退場口に足を運ぶと、副委員長が立っていた。


「あ。良かった鍛埜君、良いところに」


「働きたく無いでごあす」


「開口一番それはヤメてくれないかな」


「あい」


 冷たい眼差しだった。

 なんかさ、女子の侮蔑の眼差しって異様な迫力あるよね。尻の穴がキュッと締まるというか、腹筋が硬直するというか……俺いつか女性恐怖症になりそう、主に周りのせいで。


「で、何ですか」


「実はまだ広瀬委員長が到着してなくて……良ければ彼の代わりに、放送実況やってくれない?」


「……何ですって?俺に実況しろと」


「はい」


「ハスキーボイスじゃないですよ」


「か、構いませんよ」


「下品なこと言うかもしれませんよ」


「人員の役回りを考えると鍛埜君しかいないの。そういうのは控えて頑張って」


「ゼンショします」


「何で大事な部分に抑揚が無いの……」


 俺は副委員長に断ってその場を離れた。

 そのまま天幕を張った放送席へと向かう。な、何か良い展開じゃん!?やってみたかったんだよね、放送実況!

 大役だからっていう好奇心と、人の動きを分析して喋るって憧れてたから最高に昂揚(ハイ)なんですけど…………むぅえへへへへへ(笑い声)!!


 俺が天幕に行くと……あ、忘れてた。

 実況席で、すでにあの人が座って待ち構えていた。


「やー!鍛埜の(きみ)、待ってたゾ」


「えー……チェンジで」


「じゃあ着替えるね」


「服じゃねぇよ!?」


 脱ぎだそうとする生徒会長――中野早希を慌てて制止する。いや、メリハリのあるその魅惑な体を見たいという素直な欲望はあるが、俺は公然と体育祭実行委員の肩書を掲げているのだ。

 こういうのは避けた方が良い。……ギャグを止めるつもりは無いけどな!


「俺が放送実況やるって話聞いてます?」


「君と私で人間を睥睨して貶す作業だろ」


「そう、それ」


「存分に愉しもうじゃないか!」


「チェンジで☆」


「私を指名したのは君じゃないか……私、君には結構気に入られてると思ってたのに」


「はは、見てください中野が飛んでますよ」


 話を逸らす。

 何でこう、この姉弟は自己過剰評価(ナルシズム)が凄いんですかね。あの一夜のことは忘れんぞ、俺の口に暗黒物質を強引に入れてきたときの残虐な行為とか。……敷波もろとも成敗してくれるわ、いつか!!

 話が進まないので、席に着いた。

 マイクの調子を確かめつつ、入場し始めた障害物走の面々に目を配る。


『さー、実況席は次期生徒会長の鍛埜雄志さんに代わります』


『安心して下さい。僕が就任した暁には、再選挙を約束します!』


『そしてもう一人。実況を担当するのは、引き続きこの中野早希です!障害物走について、精一杯頑張って実況したいと思います!』


 出だしは、まあまあだな。


『さー、始まりましたね。ここでまず、障害物走のルールをおさらいしましょうか!』


『障害物走。その起源は――』


『ルールは簡単。ゴールテープを目指してトラックを走るのですが、その間に様々な障害物が設けてあります。それらを潜り抜けるか、またはある条件を満たさない限り進めない。その中でゴールに辿り着く速さを競う競技です!』


『なんちゃって。実はただ走者をイジメる為に運営側が用意した魔境です!日頃先生の話聞いてないやつを思いっきりいたぶるための競技ですからあ!!』


『生徒会長の不信任決議案の提示を申請します』


『ははっ、揉み消しなぞ幾らでもあるのだよ!』


『やめろ、マジで叶桐市中の保護者に謂われない悪評広まるから!?』


 こいつ、マジで生徒会長なのか!?もう少し体裁を気にしろよ!

 まあ、それはいい。

 ルール説明は完了したので、後は実況していくまでだ。


『えー、実は今回の走者の順番はですね。事前に測定した記録で速い順に行われるという少し風変わりな物になっているそうですよ、生徒会長』


『え、それ後になって退屈なんじゃないの?』


『実を言うと、障害物走は障害物をクリアする際の努力などが窺える方が楽しいという感想が事前アンケートで多かったので、障害物走の記録が低い人に焦点を当てたい、らしいですよ』


『はは、やっぱ皆も人が苦しむ様を見たいんじゃん!』


『当たらずも遠からず、なんだろうけど取り敢えず生徒会長は不用意な言動を慎んで下さい』


 路鉈高校の沽券に関わるから。


『では、まず第一――!』


 俺が号令をかけると、スタートラインに四人が立った。

 その面子は――…………あ、あれ?

 何か、全員見知った顔なのは気のせいなのか?それとも悪魔の罠なのか?神の悪戯なら許さんけど。

 左から。


「よーし、ボクが一位になるよ!」


 第一走者、敷波桐花。


「敷波さん、あなたには絶対に敗けない」


 第二走者、霧島朝陽。

 そして……。


「頑張るからね、お母さん、雄志くん!」


 ラブリーチャーミー笑顔を振りまく第三走者。

 そう、叶桐夏蓮さん。

 そして、その隣で。


「ユウくんは譲らない。ここで完膚なきまでに潰す」


 可愛い顔の割に物騒な発言が目立つけどやっぱ可愛い第四走者。

 ええ、琴凪春さん。


『面白い面子ですね』


『え、ええ』


『あれ?何か全員見知った顔だなあ』


『おや?敷波さんとは近所、春とは生徒会で面識がありますよね?』


『あー、たしかに』


『叶桐さんとは、どちらで?』


『たしかー……あ、弟の話だ』


『なるほど。我々としても縁深い面子によるバトルとなるわけですね』


 そういって全員の顔を見る。

 敷波さんはいつもの元気溌剌な笑顔、それになぜか対抗心の眼差しを向ける霧島さん、さらに可愛く覚悟を決めている夏蓮と、何か敵愾心むき出しの春。

 何というか、物騒な様相だな。

 障害物がレーンの上だけでなく、隣を走る人間も加わりそうな予感がする。


『それじゃ』


『ええ』


 ピストルを手にした審査員が立つ。

 銃口を上に掲げた。


『よーーーい…………ドンッ!』


 戦いの火蓋が切って落とされた。




アクセスして頂き、誠に有り難うございます。


ヒロインバトル開戦です(二回目)。


次回も宜しくお願い致します。



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