三十五話「何となく分かってたので」
その日は一人で帰っていた。
春はあの後照れくさかったのか、習い事があるとのことで先に帰途を急いでいる。あれから和音に仕掛けられてもいないし、その静けさも不気味だが心配無いだろう。
なぜって?
ドン引くほど俺がエキサイトしてみせたから!
ただ和音さん、美少女だからな。もっと仲良くなりたかって、いずれはガールフレ……は無いな。
あれだけ春に意地悪してた女だ。
仲良くする必要はない。
俺は……………俺は…………!
だめだ、マセガキ全開だ。女の子と仲良しに成りたいという煩悩しかない。
ごめん、母さん、父さん。
俺たぶん数年後には出家してます。
「へー、これがねえ」
「でも可愛いじゃん」
「良いね、良いね!」
何やら昂ぶった男の鳴き声がする。
声の高さからして小中学生辺りか。喜悦の滲んだ声色は下卑ていて、まるで俺の心の声にそっくりだっ………認めるものか!!
俺はそんなキモい声してない。
もっとエモいこと考えてる。
映画『リメン○ー・ミー』を観たときなんか、感動が尾を引きすぎて一週間、友達と遊んでる今の自分に泣いちゃうときある。
曇りなき眼で見定めてたら涙で曇っちゃうんだもん。
エモい。
それはさておき。
男たちの声は少しばかり騒々しい。
声のする方は公園だった。
遊具の端で、三人の学ラン――中学生か――が背を向けている。
俺に背中を向けるとは……不用心なヤツめ。
彼らの目線は下にあった。
何かを囲って楽しんでいる様子だった。
可愛い、これ、の片言隻句と注視を集める『小さい物』から察するに、リスか猫か小動物を包囲して観察しているのかもしれない。
どちらにしても、俺に関係ないか。
その可愛いものが少し気になるが、俺は帰って夕方放送のアニメ視聴のために帰る。
そうしようとした。
「――んでさ。俺らと遊ばね?」
「琴凪春ちゃん、だっけ?」
俺は足を止めて固まる。
なに?琴凪…………春ちゃん、だって?
彼らに悟られないように公園へと入り、回り込んで彼らの隙間から覗く。
そこに、春はいた。
顔面蒼白にして、見上げたまま萎縮している。
おいおいおい。
これってもしかして、和音さんに続いて今度は中学生って……近い将来、変なおじさんに囲まれるんじゃないか、春!?
いや、そうじゃなくて。
どうして絡まれているんだろう。
中学生の友達がいたとは聞いていない。
要するに…………ナンパか。
「おーい、春さんやい!」
「えっ、ゆ、ユウくん?」
「探したんだぞ、コンニャロ。学校に俺を置き忘れて帰るとは……いくらランドセルに入らないからって酷いじゃないかっ☆」
「ユウくん、わ、私は大丈夫だから…………逃げて」
「逃げ?」
春が俺に警告を飛ばした。
逃げる――そう促すのはこの場が危険だからだ。
ただの公園だぞ。
それが危険なわけがない。もし危ないのだとするなら、それは公園内にある人や道具だ。
人畜無害な春。
健全な変態の俺。
あとは……………。
俺と中学生の視線が噛み合う。
一目惚れの瞬間だった(冗談)。
「もしかして君が雄志クン?」
「違います。俺は雄↑志クンであって、雄↓志クンではありません」
「う、ウゼェ」
中学生に顔をしかめられた。
まあ、でしょうね。…………いや、待て、俺はこの中学生とは面識が無い。両親と琴凪家、あとはクラスメイトの関わりだけだ。
しかし、彼らは知っている…………俺を。
ただ、まず名前で本人かを訊ねてきた。
それはつまり、顔は知らないが名前を耳にしているのだ。
では、それは誰から?…………嫌な予感がするなあ。
「へえ、このクソが和音の言ってたやつか」
あ〜、やっぱりぃ。
恨み買ったばかりだから、すぐわかった。
「手間が省けたじゃん」
「手間?」
「和音がさ、お世話になったから礼がしたいってよ」
ふむ。
和音さんからのお礼、ね。
なるほど。
………あー、やっぱりぃ…………。
アクセスして頂き、誠に有り難うございます。
次回、回想編は最終回です。
ちなみに、『リメン○ー・ミー』観たあと一週間泣き続けてたのは私じゃ無いですからね。……………本当ですよ??
次回も宜しくお願い致します。
 




