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三十三話「三秒に一人の救世主」



 それからも春とは仲が良かった。

 俺たちも小学四年生まで進級し、それなりの思春期に突入する。元から煩悩塗れだから、特別俺は変わることなんてなかった。

 普通に琴凪家の主人の秘蔵エロ本を盗み見てたし、学校のパソコンでよからぬ事を検索して先生に怒られたりもした。別に良いだろ、女の子が好きなんだよ!

 そう、俺に大した変化はない。

 しかし、春はそうはならなかったのである。

 厳密に言うなら、春自身ではなく春の周囲の人間が目まぐるしく変化しつつあり、それによって春も変化せざるを得ない状況下だった。

 それが事件を呼んだ。


 それは小学四年の秋。

 授業間の休憩でトイレから帰ったときである。

 教室に入るや、他の女子たちが春の周囲に集っていた。彼女は窓際だったので、退路を塞ぐように半円形に陣形を組んでいる。

 何なんだ、春を包囲して。

 もしや、見えないところであれやこれや……!


 俺は鼻息を荒くして近づいた。

 顔をにやつかせて覗くと、雰囲気は俺の妄想とは異なり、凍てつくように冷たく険悪である。特に春を見る女子の眼差しは厳しかった。

 そして包囲された春。

 涙目になって、おろおろと一人ずつ見ている。

 完全に臆病な部分が出てしまっていた。


「あのー、何かあったの?」


 思わず俺は声をかけた。

 ぐるっと女子たちの首と視線がこちらに巡る。そのタイミングが全員同時だったので、いささか驚いて一歩後退った。


「なに、カジノくん」


「おい、今俺のことギャンブル風に言わなかったか?」


「それで、何か用?」


 俺が声をかけた女子。

 今さら気づいて俺も軽率な自身の行動を反省したくなった。

 当時、俺のクラスには素行の悪い女子がいた。何かと問題を起こして先生からの呼び出しなんぞ日常茶飯事、ただ喧嘩は滅法強い上に可愛いから変なところから人気を集めている。

 ただ、手を出すと彼女の兄の、これまた瓜二つとばかりに顔が似て美人な中学生男子に痛めつけられるとの風聞だ。

 そう。

 それがこの女子――槙田和音(まきだかずね)

 同年代なら誰も逆らえない鋭い眼光で俺を射竦めた。


「な、に、か、用〜?」


 挑発的に言って近づいてくる。

 くそ、よく見れば迫力と愛嬌を同居させる小憎たらしい顔面してやがった。思わず目を疑って鱗削ぎ落とそうかと思ったよ。

 ……あ、鱗って落とすんじゃなくて落ちるものだよね。別に魚類でも爬虫類でもないよ俺。


 しかし、舐められてるなぁ。

 俺だって男だ、かちんと来るところはある。


「春が泣きそうだから、どうしたのかと」


「別に、話してただけだし」


「そう?何か鼻息荒くして舌なめずりして変な笑い方しながら詰め寄ってなかった?」


「誰が興奮してるって言うのよ!?」


「全く、それじゃ可愛い顔が台無しだぞ。もっとニコニコしてれば、まあ、全米はいけなくても日本一に指先届くか届かない……届かないかぁ」


「何で勝手に落ち込んでるの」


 何か逆に心配された。

 だってそうだろう、よく千年に一人とか一万年に一人とか言うけどさ、そんなこと言ったら俺だって三秒に一人のイケメンじゃない?

 きっとそんなので日本中溢れかえってるのに、むしろ芸能界並みに可愛い子は一般人でも大勢いるぞ。

 それが日本一を決めたら、爪弾きにされて……あれ、なんの話してたんだっけ。


「ああ、ごめん脱線した」


「は?」


「それで、何の話だっけ」


「琴凪さんが泣いてるとか言って、私達の会話をアンタが中断させてきたんでしょうが」


「そんな強く言うなよ!俺が泣いちゃいそうだろうが!」


「こいつメッチャ話の腰折るわね!?」


 全く進まない。


「で、何を話してたんだ」


「アンタには関係無いでしょ」


「何で?」


「これは女子の問題よ」


「なら俺も話せるじゃないか」


「どういう意味??」


「姿形は男かもしれんが、れっきとした乙女心を持つ人間だぞ」


「そうなの、ユウくん?」


「違うよ」


「違うんじゃない」


 うーん、天使とヤンキーが交互に攻めてくる。

 これじゃ、俺の戦意を挫く技が効かないじゃないか。

 だが、春が泣きそうになっている。

 そういう場合、あのとき誓ったから看過するわけにもいくまい。俺が春を守るんだ。


 さて、どう対処したものか……。


アクセスして頂き、誠に有り難うございます。


三秒ルールが実行できる人間なら、誰でもイケメンですよね。ちなみに友人は五秒に一人の二枚目でした。


次回も宜しくお願い致します。

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