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二十九話「倉庫街事変だよ!・・・前編」



 小腹を満たした後はどうするか。

 俺の個性(ギャグ)が二回切りという、某ヒーロー育成名門高校も真っ青なルールが布かれるデート。

 歩くだけでは退屈させるだけなので、商店に立ち寄るしかない。

 ――というのは、かなり危険だ。

 興味を引く物が沢山あるとはいえ、そればかりに依存しては相手が自分といて楽しかったのではなく、祭りが楽しかった事になる。

 最も楽しいデートとは、お互いに楽しい時間を共有するのであって。

 楽しい理由を「祭りだから」ではなく、「一緒に行った祭りだから」に昇華しなければならない。


 これがリア充高等テクニック。

 非リアの俺は、これを下らないと表面は嘲りつつも、内心でハンカチを噛んで羨ましがるレベルだ。

 生憎と人を笑わせる芸人(エンターテイナー)であって、特定の人を楽しませる人間にはなり得ない。

 まあ、とどのつまり。

 お手上げだった。

 思春期的な妄想なら驀進(ばくしん)するけど、異性に気遣う面に関しては想像力が格段に乏しくなる。


「春、この後何かしたいとかあるか?」


「なぜ?」


「折角この器宮に来たし、祭以外にも春が望むのならね?」


 春が訝る目で見てきた。

 当然でしょう。まるで春の意思を遵守して予め用意した計画(プラン)を変更する寛容さがあるように見せている。

 だが。

 実態は無発想(ドントシンキング)

 手詰まりだ。楽しませるにはどうするんだ。そもそも、楽しむって何だ?楽しむ人間って何だ?人間って……。

 あ、いかん。エンドレスだ。


「嘘つき」


 バレていた。

 そう来るなら、正直に弁明しようじゃないか。


「生まれてこの方、女子と出掛けた経験がほとんど無いのよ」


「……?」


 春が自分を指差す。

 あ、やべ地雷だったかも。


「だって、それは小さい時の話だろう」


「小さい頃は、女の子じゃない?」


「いや、ね?別に、小学生時の春ちゃんを女子として認識してないとかじゃないよ」


「あと一回」


「考え直して!?」


 何でだろう。

 こんな些細な会話で回数を削られるとか、ほとんど暴力だぞ、俺はそのうち人間不審で寡黙なキャラになるぞ。黙ってる鍛埜くんなんて気持ち悪いだけだよ。

 まあ、今も一部じゃ絶賛気持ち悪い男の首位を占有しているが。

 突出した個性があれば、美少女とデートに繋げる千載一遇のチャンスだって作れる。

 だからこそ失敗したくない!

 それに――。


「本音を言うと、春との外出が久し振りだからさ。楽しいものにしなきゃってさ」


「……?」


「これで楽しませられなかったら遊ばなくなって、それでまた疎遠になるのかとか……」


「ま、また?」


「だって、あの時は俺と遊ぶのが厭きたからいなくなったからかと」


 心配して春を見た。

 すると、表情は動かないにせよ顔面蒼白にして小刻みに震えている。人間バイブレーションというか、何か受信してるのかな?

 新鮮な反応に目を剥いていると、春が右腕に抱きついてきた。

 俺の体にも震動が伝播してきた。……い、以外と強くて頭蓋が揺れれれれれれれれ!!


「春るるるちゃぁぁぁあ゛ん?」


「べ、別に厭きたからじゃない」


「ほほほほ本んん゛当にぃい!?」


「も、勿論です!」


 春の返答が心做しか動揺の色に染まり、最後なんかはらしくない敬語になっていた。

 しかし、そこから何かを読み取れる余裕はない。段々と脳震盪に近い状態になってきていた。

 運動神経が良いとこんな事もできるのか?


 俺は辛うじて残る力で春を引き剥がす。

 ようやく落ち着きを取り戻した彼女が、いつもの端然とした美しさをまとい、俺の手を握った。


「取り乱した。ごめん」


「取り乱したというか、振り乱してましたね」


「あと一回」


「はい、すみません」


 これは俺が悪い。

 一回分削られるのを粛々と受け容れよう。

 でも残余一回か、深刻(シビア)だな。

 しかし、実際に春には厭われているのかもしれない。言葉を濁して正直な場面で本音を語らない人間とか嫌とかも。


「春、冗談言わない俺ってどう思う?」


「少し真面目になって欲しい」


「昔の俺と、今の俺ってどう違う?」


「…………」


 春が真剣な面持ちでこちらを見上げた。


「今度は私」


「え?」


(おぼ)えてる?最後に遊んだときに言った言葉」


 春が微笑みを浮かべて言った。

 昔を彷彿させるような笑顔である。

 最後に遊んだときの言葉――何だっただろう。特段、何もなく遊んで家に帰って、それから自然と遊ぶ機会が無くなった気がする。

 記憶を遡っても、やはり何事もなかったはずだった。


 何も無かった――とは言えない。

 黙っている俺に、彼女の瞳が微かな落胆の色を見せた。

 それを見たとき、頭を殴られたような衝撃を受けた。

 この感覚をどこかで……。


「あれ、かわいい女の子見っけ~」


 俺の思考を遮る剽軽な声が聞こえた。

 驚いて声のした方を見ると、こちら――厳密に言えば、春を指差している男がいる。

 広瀬翔に比類する甘い顔の持ち主だった。

 身長は高く、ジーンズとシャツといった簡素な服装で、声の割には軽薄そうに見えない外観だった。


「ねえ、君一人?」


 春へと問いかける男。

 俺のことは眼中に無いように、ずかずかと歩み寄って来る。

 何処を見たら独りに見えるんだよ。美しい物しか映らない瞳ですか、情緒無いね。俺なんて観にくい部分しか無いからどんな物でも綺麗に見えるんだぜ、世界って美すぃぃい!


 いや、待て。

 自画自賛の悦に浸って現状を忘れるところだった。

 この春に近づく男が何者かを見定めなければ。


「いいえ、恋人と来ています」


 春が堂々と応えた。

 いや、そんな自信満々な顔で嘘つく子に育てた記憶はないよ。六年間で誰に汚されたんだ?


 その返答を受け、ようやく男がこちらを見た。


「……へえ?」


 直後、失笑した。

 まるで、春の恋人と聞いた相手の思わぬ見た目に幻滅したような反応である。明らかに蔑視したのが分かった。

 男は俺の肩を摑んで、長身の腰を折って目線を同じ高さにする。

 なぜだろうか。自意識過剰なのは否めないが、物凄く舐められてる気がした。


「どうも、彼氏?さん」


 中々に挑発してくるな。


「どうも」


「あのさ、君を少し借りて良い」


「はい?」


 男が俺に尋ねた。

 何で俺を指名するんだ?


「何でですか?」


「少し話そうってやつ」


「路地裏でリンチとか」


「無いって!」


「ここで話せないことですか?」


「ちょっとね」


 こっちが疑り深く訊いてるのに引き下がらない。

 それほど急を要するのだろうか。だとしたら、無下にはできない。でも春とデート中だし、男を優先するのはどうだろうか……。

 俺が春の方を見遣って判断を仰ぐ。

 春は黙って頷き、それを承諾してくれた。


「じゃあ、少しだけ」


「よし、行こうか!」


 男が先に立って歩いて行く。


「すぐ戻る。終わったら連絡送るよ」


「うん、待ってる」


 春に小さく手を振って、男を追った。

 彼と共に歩き続けた。

 倉庫街にごった返す人々に揉まれながら進むこと数分以上が経つ。少しずつ人波が少なくなってきた。

 何だろう、凄く嫌な予感がする。


 少しして。

 積み上げられたコンテナブロックの間の細道に招かれた。

 なぜか先に入ることを促され、仕方なく進んでみると――……行き止まりだった。

 まさか。

 そう思って背後を顧みようとすると、背中に強い衝撃を受けて前にぶっ飛ばされた。驚く間もなく地面に転がって、痛みを堪えながら跳ね起きる。

 すると、屈み込んだ男の顔が間地かにあった。


「ようやく二人きりになれたな」


「え、何すか。乱暴っスか、もしかしてソッチの方でしたか」


「違ぇよ」


 急に粗暴な印象を受ける険のある声としかめっ面だった。


「だって人気の無いところで、そんな甘い声で言われたらそう思うでしょ。いや、良いんですよ。いま世界の思潮では、そういった方々もようやく受け止められて来てるし、僕も良いと思いますよ自由な恋愛。ただ、僕は女の子が好きなのであなたの趣向に沿わないというか」


「この状況でまだ冗談が言えるなら大したモンだ」


 唐突に襟首を摑まれた。

 春がいたら残り一回の冗談が消えてるところだが、今はそんなことはどうでもいい。明らかに襲われていた。

 いや、騙されていた。

 この男、たしかに目的は俺だが敵意しかない。危険人物だった。


「何が目的ですか?」


「……最近、俺の友達から連絡あってよ。ナンパを邪魔したエリート高校生がいるってさ。かわいい女の子とイチャついておきながらバカにしてくる鼻につくヤツだって」


「え、誰だそのイケメン」


 そんな逸話になりそうな事してる超人高校生がいるなんて。


 ……待て、ナンパを邪魔した?エリート?鼻につくヤツ?

 何だか、言われた言葉の中にそれらに該当する記憶が……。


 その時、俺の頭の中に浮かんだ。

 それは体育祭実行委員会の会議後に寄ったショッピングモール、そこで演じられた叶桐家の問題の前座を務めたナンパ戦。

 そこで夏蓮の妹を強奪せんとしたチャラ男数名にそんな謗りを受けた気がする。

 友達から連絡……?


 ま、まさか……!


「俺が倒したチャラ男の仲間か!?」


「言い方がアレだが……そうだよ。それで、まあ、我ながら幼稚だが報復だよ」


 驚いた。

 まさか、あの現場で欠員があったのか。それもこんなイケメンがいたなんて。

 そしたら負けていたかもしれない。

 ……おい、報復って言ったか?


「報復?」


「そう。実は、お前が倒したヤツらが彼女さんを連れ去ってる頃だろうぜ。俺はお前を引き剥がして……まあ、痛め付ける役だ」


 今、春を連れ去るって……?


「春を連れ去る?」


「そうだよ。今度は、俺たちがお前から奪う番だ。いいご身分だよな、可愛い子と楽しむだけ楽しみやがって。お前を見つけたとき、丁度友達もいたから実行することにしたんだよ」


「おい、春をどうする積もりだ」


「決まってるだろ。あんなにかわいくて、それも服越しで判るイイ体なんだから」


 下卑た笑顔が美貌を歪める。

 ここまで絶妙に最低なヤツを初めて見た。いや、ここ最近は美しい物ばかりを見てきた所為かもしれない。

 だからこそ――俺の怒りが沸点に上がるのも急速だった。


「ッ……このクソやろうわっ!?」


 男が俺を組み敷いて、胴に馬乗りになった。

 いよいよ動けん!

 ちょっ、本当にそっちの趣味がおありで……とか冗談抜かしてる場合じゃない!てか俺もうゼロだったし!


「さて、このままいたぶってやるよ」


 男が拳を振り上げる。

 腕を掲げて頭を庇うが、きっと無意味だ。

 いや、本当に待っ――――。


「何してるの?」


 コンテナブロックの隘路。

 俺と男がいる薄闇に、誰かの声がした。

 うーん?……何だか、聞きなれた声だぞ?

 二人で声のした方向を見た。


 視線を注いだ先。

 そこには――草臥(くたび)れた男二人の頭を両手でわし摑みして、引き摺りながらこちらに歩いてくる影。

 ショートカットの髪が肩口で揺れ、艶やかな曲線美の学生服が――……。


「ユウくんに、何してるの?」


 神の悪戯なのか。

 救世主のような登場をしたのはチャラ男を《ピー》した悪魔のような春ちゃんだった。





アクセスして頂き、誠に有り難うございます。


雄志くんは守られるだけではありません。


次回も宜しくお願い致します。

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