眩しい太陽、影の色はより強く
ついに、きてしまった。
パーティ当日である。
「まなさまとまほさまをながめつつ、すこしおはなしをして、そくざにかべのつぼみになる」
絶対に、目立つような行動はしない。幼馴染様に見つかって厄介事に巻き込まれるようなことも絶対にさせない。全力で逃げてやる。
それ、フラグっていうのよ、なんて言う前世の私の幻聴が聞こえたような気もするけど、気のせいだ。
「お嬢様、どうされたんですか?」
「ぅ?あ、えっと、だいじょうぶかなぁって」
「パーティですか?大丈夫ですよ、お嬢様なら」
う、使用人さんの気持ちが重い。やめて、まだ心の準備ができてないの!
じゃあ、いつになったら準備が出来るの?、出来ませんね!いつでも出来ないと思います!
なら諦めなさい、とまた前世の私の幻聴がする。
だいたい、二年前までは一般家庭だったんですよ?前世だって普通の家庭だったし。パーティって、パーティってどこのアニメですか。ゲームか少女漫画の世界だよ?ねぇ、リアル?夢じゃない?
「古川さん、ちょっといいかなー?」
「ん?あ、はい。すみません、絢明お嬢様。すこしはなれます」
「ん、いってらっしゃい、です」
他の使用人さんに呼ばれたらしく、使用人さんが部屋から出ていく。
でも、まぁ、前世なんてある時点で普通じゃないよねぇ。
あなた、だいぶわたしに影響されてるんじゃない?
アニメとか少女漫画とかゲームは前世の私じゃなくて、あなたの友人からだよ。自問自答をして、少しづつ整理していく。
暗くて重たい雨が降っていた。
あの人は、私が大切にしているものを私から取り上げた。
私を駒にするために。なら、私が貴方を利用してもいいはずだ。
だから、これは契約。憎くて、大嫌いで、信用なんて出来ない、そう思わなくてはならない相手との契約。
ねぇ、契約ってどこがゴールなのかしら?
さぁ?契約内容は更新できる。でも、更新していいのは、二度まで。どちらもが満足のいく結果が、ゴールなんじゃない。
なら、パーティも、頑張らないと、ね?
あー、うん、そうだね。そうだよ。願いを叶えるためには、努力しないといけないんだ。
でも、私は。
かわいそうだよねぇ、あの子も。
あー、そうね。母親を亡くして、今はこんなんじゃ、ねぇ。
旦那様はなにを考えているんだか。
屋敷の中で聞こえてくる話の一つ一つを、パズルのように組み合わせていけば、だいたいの内容はわかるようになる。
それは、どんな噂でもそうだ。
根も葉もない噂なんてない。
火のないところに煙は立たないのだから。
私が信用出来るのは、関係のない人だけ。
私とあの人の契約に、関わることのない人、だけ。
「あれ、絢明様一人ですか?」
「ん?ひとりですよ」
「古川さんは、あー、古川さん、知りませんか?」
「ん、きたさんによばれて、ました」
呼ばれていった、ってことはすれ違ったのか、と敬語を使うのが苦手な使用人さんが呟く。
「教えてくれてありがとうございます、絢明様」
明日の朝食のときに本、持ってきますね、と言ってこちらにおじぎをしたあと、去っていった。
「みんないそがしそうだなぁ」
とりあえず、パーティで会話しなければならない相手の名前を覚えておくことにする。
私が覚えておかなくてはならない人物は、今はまだあまりいない。
幼馴染様である樂満様、そのご友人の響野浬様、真秀様、真菜様のご友人、宇月原芽依様、梨衣様。他には有力者様達ぐらいだろう。
すべてを話せる相手が、ほしい。信じても、良いのだと思える、人が、一人でもいいから、いればよかった。
まぁ、難しいのは、私自身が一番良くわかっているし、居たとしても話すことなんてないだろう。
「わたしのねがいは、」
もしものことを話していても、意味なんてないのだから。
空が、茜色になり、庭の葉が輝いたら、お仕事開始だ。