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旧、明日の天気は。  作者: 揺り桜
舞台裏、巡る季節数え
7/68

雨が奏でる

使用人さんがつれてきてくれたのは、庭のテラスだった。

バケツやプリンカップ、ペットボトル等が並んでいる。

雨がバケツやカップにあたって、音楽を奏でているみたいだった。


「ぅぇ?え、と、これ、なんですか?」

「絢明お嬢様にとって、少しでも雨の日が楽しくならないかと」


私に、とって?

雨の日が?

雨が苦手だって、知って、たの?

どう、して?



「お嬢様、ほら、カップとか、高さとかによって音も違うんですよ」


ぽつん、かつん、と音がする。

トン、トン、トン、と音をとると、雨の音楽会みたいで、なんだか楽しくなる。でも、すこしだけ、こわい。

だって、雨、は、あめ、は、いや、イヤ、やだ。


じゃ、なくて、こわい、けど、すこしだけ、こわくなくなった。

使用人さんは、雨が楽しくなるように、と言った。

それは使用人さんの優しさで気づかいだ。

そう思うと、すこしだけ、心の奥が、じんわりと、暖かくなる。


  

ぽつん、かつん、コン、カン、ぴちゃん、ぽちゃん。

コン、カン、かつん、こん。


「ぁ、ど、して、ぁめ、にがてって、わかった、の?」

「あぁ、絢明お嬢様は、雨が降っている日は起きるのがすこし遅くなりますし、無理をなさっているような、気がしましたので」


あ、もしかして勘違い、だったでしょうか、え、どうしよう、と、使用人さんが呟く。


気のせいじゃ、ないけど。こんなに、使用人さんは私のことを考えてくれていたんだと思うと、申し訳なかった。

だって、私は使用人さんのことを全然、みていなかったから。

ううん、違う。みては、いけないんだ。まだ、今は。


「ありがとうございます、古川さん」


全部、終わったら。私が、願いを叶えられたら。

その時は、ちゃんと、貴女に向き合えるといいなって、思うんだ。

だから、それまでは、ごめんなさい。気づかないふりを、知らないふりを、させて。



「え、あ、えぇ、と、そう言っていただけて、嬉しいです」


驚いたような、使用人さんの声に、私は笑って誤魔化すことにした。だって、今はまだ、貴女に話すことはできないから。

私の世話(監視)をしないといけない、気の毒な人。その認識を、今はまだ、変えるつもりはないんだ。




雨が、すこしだけ、好きになれた。

だから、いつか貴女に、それを伝えようと思うんです。







書庫で本を読んでいた時。

あやめちゃん、と声をかけられて、顔をあげると幼馴染様がいた。

え、や、ちょっとまて、なぜいる?


「ら、くみつ、さま」

「ちがう。らくみつさま、って言われるの、ヤダ」


わぁ、蓮様って呼べってことですかー?

せっかく、少しづつ樂満様、って呼ぶようにしていたのに。

蓮様かぁ。それはすこし、まずいというか、んー、でも、なぁ。不機嫌そうにこちらを見てくる幼馴染様の機嫌を治すためだ。大丈夫、少しづつ、距離を測ればいい。


「ん、れんさま、きょうはどうしたんですか?」


どこに座ればよいのか分からず困っている幼馴染様に椅子を示し、座っていただく。


というか、いつ来たんですか?


「あめ、ふってただろ?カミナリなったら、あれかな、って」


あぁ、つまり、心配していたただいた、ということでしょうか。

なるほど。ありがとうございます。



「ありがとう、です。でも、それだけなら、だいじょーぶでしたよ?」

「それだけじゃ、ない。パーティ、イヤじゃなかったかとおもって」


おや、まぁ。嫌に決まってるじゃないですかー、なんて、言えるわけが無い。

うん、その気づかいはとても嬉しいんですけどねぇ。


「ん、がんばります」

「なにかあったらいえよ?ともだちなんだから!」

「ん、ありがとーです、でも、ほんとーに、だいじょうぶです」



話すこともなくなったので、ついさっきまで読んでいた本を読もうとしたら、沈黙が嫌いらしい幼馴染様に話しかけられた。


「なに、よんでるの?」

「ん、ぁ、しょくぶつ、づかんです」

「おもしろい?」

「おもしろい、ですよ」


ふーん、そっか、と気のない返事をする幼馴染様。

聞いてきておいてその反応はなんだよ、何様ですか、幼馴染様です。

自己完結してしまった。この幼馴染様にはいつもペースを乱されてしまう。


「ねぇ、あやめちゃん」

「なんですか?」

「ううん、やっぱり、なんでもない」


そうですか、と返して、私は植物の毒性やら、食べれる雑草やらを読むことにした。意外と身近に生えているもので、面白い。


あ、忘れてたけど、いつ来たんだろう、幼馴染様。


「あの、いつ、きたんですか?」

「ん?さっき」


いや、そうじゃなくて、ご家族の方に話してから来たのか、こちらに連絡は入れてあったのか、そういう話なんですけど。


「れんらく、しました?」

「してる。それぐらいちゃんとしてる」


あー、はいはい。この前、私が前世の記憶を思い出した日は、してなかったですよねー?

あのときはすごい焦った。言ってはいけないことを言ってしまいそうになるぐらい焦った。まぁ、連絡を入れているなら、いいけど。



ムスッとして言う幼馴染様。いつまでこの関係が続くのかわからないけど、もうしばらくは、このままでいたいと思った。


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