明日はきっと雨
嫌な夢をみた。
死ぬ間際のことも、彼に抱いた印象のことも、思い出さなくてもよかったのに。
きっとこんな夢をみたのは、使用人さんがもってきた嫌な知らせのせいだ。
「パーティーなんて、わたしがいなくてもいいはず、です」
そう、そのはずなのだ。今まで出席したこともなかったし、むしろ出したくないはずである。とはいえ、いくら不満があったとしても、父が決めたことである以上、私に拒否権はない。
「絢明お嬢様は可愛らしいですから、ピンクやオレンジも似合いますし」
それに、とても楽しそうに私のドレスを選んでくれている使用人さんをガッカリさせるのは、辛いのでもう諦めた。情報収集ができるとか、そういう利点をみればいい、頑張れ私!
「あわいいろが、いい、です」
でも、ね?使用人さん。選んでもらっているのに申し訳ないのだけれど、はっきりとした色は遠慮したい。顔を覚えられちゃうと動きにくくなるし、壁の花になっていたいと思うので。あ、蕾、いや、葉?と言ったほうがしっくりくるかもしれない。まぁ、多少はお話しないといけないのだけれど。
「淡い、あぁ、なら、でもこちらも」
今回私が行くことになってしまったパーティーは、幼馴染様の樂満蓮様のお家のものだ。
そして、兄と姉、由井園真秀様と真菜様も出席する。
仲が良いわけでも、悪いわけでもないのだけれど、何を話せばよいのか分からないし、奥様とも顔を合わせなくてはならないというのが辛い。
「絢明お嬢様、こちらはどうでしょうか?」
使用人さんが見せてくれたのは、淡い若葉色のドレスだった。
背中部分やシフォンのスカート部分には若葉の刺繍が入っている。
えっと、可愛すぎじゃありませんか?
「絢明お嬢様のダークブラウンの髪にも合うと思いますし」
「ぁ、ぇと、まなさまたちは、どんなのを、きていくのかなぁ?」
「真秀坊ちゃまはホワイト、真菜お嬢様は水色でしたね」
なるほど。キャラメル色のふわふわとした髪の真菜様に水色は確かに似合うだろうし、同じキャラメル色のサラサラとした髪の真秀様に白は似合うだろうなぁ。どちらも顔が整っているし。
「で、でも、わたしにはかわいすぎだと、おもう、です」
「そんなことはありません!絶対に、です!」
ギュ、と手を握りしめて使用人さんが力説する。
ぇえ、あの、はい、そんなに力説しなくても、いいんですよ?
それに周りからみたら全然似合ってないとか、あるじゃないですか?ね?
「せっかく選んだのに…着ていただけませんか?」
その言い方はずるいんじゃないでしょうか、使用人さん。
私が断れないの分かってて言ってますよね?
「ぅ、きます。かわいいのは、きらいじゃ、ない、ですから」
「では、髪飾りは、これがいいかな、こちらもいいですね」
結局、パーティーで着ていくものを全て選び終えたのは真上にあった太陽が沈む頃だった。
ふと、窓の外に目をやると、長い直線の雲があった。
「飛行機雲、ですね」
私の視線の先をみて、使用人さんが言った。
「あした、は、あめ、かな」
「そうかもしれませんね…」
雨、だなんて、また一つ、憂鬱な理由が増えてしまった。
嫌だなぁ、雨もパーティーも、いろんなことが。