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旧、明日の天気は。  作者: 揺り桜
舞台裏、巡る季節数え
31/68

側にいる者、手を引く南瓜

投稿が遅れてしまいました!申し訳ございません!


『みてみて!ヤバくない!?』

『何が』


教室へ着くなり、わたしの友人が言った。手に持つスマートフォンの画面には[ハロウィン限定イラスト、神楽]という文字と、可愛らしい少女の絵が写し出されている。


『これ、女の子じゃないの?』

『かーぐーらーくーんーでーす!ね、ね、神楽くんマジかわっしょ?』

『推しがコロコロ変わる……浮気者』

『違うし!違うし!これは何ていうか、そう!箱推しみたいなもので!』


わたしに言われた言葉が予想外だったらしく、慌てた様子で友人が否定する。

わたしは友人からスマートフォンを受け取ると、画面を下へスクロールさせた。


『わたしは多肉植物の方が断然可愛いと思うわ』

『あ、嘘つき。本当は球体関節人形がだいすきなんでしょ!』

『……眺めるだけでいいわよ…多肉植物は家に置いておけるし』

『アロエとかの何がいいのさ?二次元は癒やしだよ?荒んだ現実から目を背ける唯一の――』


スクロールさせていた手を止め、わたしが友人を睨みつける。



『だから前回の試験、悪かったのよ。もう後一ヶ月しかないけど?』

『まだ一ヶ月じゃん』

『時が経つのって早いのよねぇ』

『うっ…あ、赤点なんて、一教科、だけだし…!』

『あんたの補習のせいで約束してたパフェ、食べに行けなかったのよ』

『うわぁ、根に持ってるー!わかってるよ!次は回避するから!』



こういうの、いいな。楽しそうで、あったかそうで。

友人が、だからお願い!勉強教えて!と言うと、わたしは呆れたように笑っていた。




[ハロウィン限定イラスト、神楽]

画面の中に映る少女は、どこからどう観ても女の子にしか見えないが、私が知っている人物は正真正銘、男の子である。

スクロールさせた先には、[ハロウィン限定イラスト、樂満]という文字と、吸血鬼テーマの黒を基調とした衣装を身に纏う幼馴染様のイラスト。

宝物様も、天使様も、契約者様も、ご友人様や鐘鋳様、のイラストもある。


『あ、ヒロインのイラスト……へー、ヒロインはお化けの仮装なのねぇ』

『わっ、先生来たっ』

『あ、本当。はい、返すわ』


友人に携帯を返し、わたしが、ノートを広げる。

ヒロインのイラストの下にスペースがあったから、少し気になったのだけれど、その時のわたしはあまり気にしなかったようだ。



現実で、いつかこの衣装を再現して着せてみたら楽しそうだなぁ。宝物様に不審に思われないようにするにはどうしようか。



「あやめ、もしかして、イヤ?」

「……ぇ…?」


そうでした。そうでしたね、お勉強見てあげるって、言われたんでしたね。驚きとある方に対するイラ…、文、ええと、意見で頭がいっぱいで、つい現実逃避してました。ごめんなさい。


「いや、ちがう、です…あっ、えと、その、たいへん、ないですか?」

「ぜんっぜんよ!」

「うん。さいきんはひましてたぐらいだし」

「はっぴょうかいおわったらもっとひまになるわ」

「だからしんぱいしなくていいよ」



いえ、むしろ困ってください。心配させてください。

お二人がいらっしゃると試験のとき手を抜けないではありませんか。適当にやって、ある程度点が取れればいいんです。目立たない程度の点数でないと。


「ありがとう、です…おにいさま、おねえさま」


しかし、私に断る勇気などなかった。

いや、だって断ったら絶対かなしそうな顔されるだろうなって思うと……言えねぇ。


「ぇと、じゃ、じゃあ、おねがい、いいですか」

「もちろんよ!」

「うん」

「ふふ、あやめとおべんきょう、うれしぃ」


眠そうに目を擦りながら真菜様が言うと、真秀様がねむいの?と聞く。


部屋の机の上のデジタル時計をみると、10という数字を映し出していた。

この時間なら、普段お二人とも眠っていらっしゃる時間だろう。むしろもっと早くにベッドにもぐっているはずだ。



「もうねよう?まな」

「はぁい」

「えっと、おやすみなさいませ、おにいさま、おねえさま、えと、しおざわさん」


皆様にお別れをして、私も眠ろうか。夕ご飯、食べてないけど。もしかしなくても忘れられてる……いや、忘れられてたんだろうな、多分。


嫌がらせ、っていうよりは、そっちのほうがいいなぁ。


 



       *    *     *


真秀は絢明の部屋から出て、しっかりと扉が閉まるのを確認すると、新人の使用人の方を見て、言った。


「すみません、なにかあたたかいもの、いただけますか?」

「あっ、はいっ、す、すぐにお持ち致します!」


新人の使用人がその場を離れ、歩き出そうとする真菜の腕を真秀は掴んだ。


「まな、きょうあんまりたべてないよね」

「え、そうかな」

「さいきん、よくふらつくようになった」

「そんなこと…ない、よ?」

「だいじょうぶなの?」

「だいじょーぶだよ!」


だからはなして、と言う真菜の表情を探るようにじっと見つめていたが、やがて掴んでいた手をゆっくりと離した。


「しんじるから、むりはしないで」

「わ、わかってるよぉ」


(すこしまえからずっとこうだ。むしろしんぱいするなってほうがむりがあるよ)



そうは思うものの、真秀が真菜にこれ以上なにか言うことはなかった。それは、真菜の言葉を信じようとと思っていたからであり、心配ではあったが、たいしたことではないと、思ってしまったからである。





――様、私、辛いです。これ以上嘘を重ねるのは、いえ、頑張ります。だから、あの子達には―――



       *    *     *



「うわぁ、さっむいなぁ」


レースカーテンからうっすらと差し込まれる光で目を覚ましたが、まだ朝早く、この時期はとても冷え込んでいる。

寒い。すごく寒い。



近くにあった毛布を引き寄せ、もう一度寝ようかと思ったのだが、お腹が空いてしまって眠れない…。


「きのうたべてないし…でもキッチンまでなにかさがしにいくのは……うん、ないな」


使用人さんが普段この部屋に来るのは六時半頃。現在の時刻は六時五分。後二十五分ほど待っていないといけない。


なにか気を紛らわせられるようなもの、なにか……。


「あ、…、うそつきしょうじょ…」


辺りをみまわし、何かないか探すと、本棚から一冊落ちてしまっているのが目に入った。

嘘つき少女、と表紙に書いてある。確かこれは、もともと母が持っていたものだったと思う。ある日突然、これをあなたに、と渡されたもので、未だに何故渡されたのかわかっていない。



「いまならよめる、かな」


貰った当時は漢字なんて読めず、ひらがなを読むだけでは意味が全然わからなくて、諦めてしまったのだが、今の私になら読めるのではないだろうか。


「……」

「絢明お嬢様…!」


頁をめくろうとしたところで、扉の外から声をかけられた。普段は聞かない使用人さんの大きな声に驚き、本を落としてしまった。



「は、はいっ!」

「すみません!絢明お嬢様!」

「へっ?あ、と、とりあえず、なか、どうぞです」


扉の外から謝る使用人さん。ちょっと私が困るのでお部屋の中に入ってきてもらってもいいですかね?お願いします。


「あ、はい……失礼いたします」


扉を開き、使用人さんが入ってくる。瞳の奥に、焦り、怒り、悲しみ、心配…?そして、私にはわからない感情をうつした使用人さんは、私の顔を見るなり、綺麗なお辞儀をして……全力で、謝っていた。



「誠に申し訳ございません…!」

「ぁ、あの…?」

「ああ、もう、そりゃあそうですよね、何で、確認しなかったのよ…!」

「ぁのー?」

「そもそも私があのとき断っていればよかったのよ、あぁもう、頼んだ仕事をしないなら出て…はぁ」



どうやら私の声は届いていないらしい。小さな声で何かを呟いているが、声が小さ過ぎてよく聞こえない。


「あのっ!」

「…あっ…お見苦しいところを…」


慌てた様子で口を抑える仕草が可愛いと思った、って言ったらどんな顔をされるだろうか。今はそんな場合じゃないんだけど。


「どうか、されましたか…?」

「絢明お嬢様、昨日のお夕飯はどうされましたでしょうか…?」



食べてないです。お腹空きました。はい。

でも、私は別に気にしてませんよ?皆さんお忙しそうでしたし。


「……」

「忘れていた、などと…許される事ではありません」

「…ゆるされ、ますよ?」


私が気にしていないのだから、咎める必要はないでしょう。何より、咎める者も居ない筈です。おおかた、奥様のところの使用人の方の仕業でしょうし。

決めつけるようで嫌なのですが、前にもありましたし?気にしませんよ?本当に。本当ですとも。


「わたしが、きにしていないので、きにしなくて、いい、です」

「そういうわけには!」

「まじめさん、です…いいこと、でも、つかれちゃう、ですよ」


以前同じことがあったときは、謝りに来る人なんて居ませんでしたよ。あのときは使用人さんは違うところで働いていて、敬語が苦手な使用人さん達と私の交流はゼロでしたから、そもそも私を気にかける人がいなかったわけです。


最近は、使用人さん達がいたからすっかり気が緩んでしまっていたのかもしれませんね。将来困るのはどちらでしょう?


「…っ…」

「きょうのごはん、なんですか?いっつもおいしい、なので、たのしみです!」

「今日は、樽石さんが作ってくださったオムライス、ですよ」

「チーズとトマトは…?」

「楽しみにしていてください、とおっしゃっていました」

「はいっ!たのしみにしちゃいますっ」



子供らしく笑ってみせたけれど、使用人さんの顔は晴れなかった。本当に、気にしなくていいのに。私はもう、慣れてしまって、笑えるぐらいには奥様の反応が面白いと思うのだけれども。

だって、嫌がらせしてるのに相手は気にした素振りもなく、普段道理だなんて、きっとムカつくでしょう?

奥様が悔しそうにしている様子とか、想像しただけで私は頑張れるんだけどなぁ。


[ハロウィンって?] 

読みにくいため、漢字を採用しております


宝物様の場合

「ハロウィン?収穫祭じゃなかったっけ?あとは仮装したりして、お菓子を貰うとか」


契約者様の場合

「古代ケルト人が起源と考えられている収穫祭、悪霊を追い出すとか宗教っぽい行事らしいよ?そんなことより、紫蘭の魔女服が可愛すぎてさ――」


幼馴染様の場合

「家々を訪ねてお菓子を貰う行事だろ?以前はジャック·オー·ランタンに南瓜じゃなくてカブを使ってたらしいよな。カブって想像つかないけど」


ご友人様の場合

「太陽の季節が過ぎて、暗闇の季節が始まるから、かまどに新しく火をつけて悪い妖精を祓うとか、国とかによっていろんなハロウィンがあるけど、どれのこと?」


双子様の場合

「お菓子を貰う日!」

「英国では子供と大人が交流できる大切なイベントみたいだよ。こっちじゃ大人も子供も皆が楽しむイベントになってるけど、愉しそうでいいと思う」

「お菓子メーカーが儲かるの!」

「トリック・オア・トリートってやつか」


真菜様、真秀様

「お店に南瓜や林檎を使ったお菓子が並ぶ時期」

「仮装して、お家を訪ねてお菓子を貰うのよね」

「歴史の古い伝統的な行事らしいけど、正直、梨衣達のご両親が儲かる時期としか思えないかな」

「お菓子メーカーの大手企業だものね」

「でも妹の仮装は見たかったかな」

「ほんとそれよ!」


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