佳月と太陽、見上げる者
目を引く濡羽色、陶器のように白い肌。ふんわりと微笑む姿は妖精のよう。音之宮紫蘭様の第一印象は整った容姿をした、かわいらしい女の子、である。
そして、その姿を私は知っている。
だって、それは。私は画面の中で、笑い、涙を流す彼女の姿を何度も友人に観させられた記憶があるのだから。
音之宮紫蘭様は、友人が好きだったとある乙女ゲームの、悪役令嬢が三次元になり、年齢を幼くしたような姿をしていた。
まって、いや、え?
もしかして乙女ゲームの世界、とか、そんな物語みたいなこと、あります、か?
「ぇ、ぁ、や、え…?」
「ん?どうしたの、ゆいぞのさん」
「ぁ、い、え、かわいいですね」
時間がほしい。考える時間が。
だって、こんな非現実的、というか、ゲームの世界、だなんて。
あら、前世の記憶があるんだから、ありえるかもしれないわよ?
でも、常識的に考えたら、それに、私の今までが壊れるみたい、で。
わたしはこの展開、とっても都合がいいと思うわよ。だって、運命も利用できるんだから。
運命を、利用、する?
えぇ、あなたの願いを叶えるために、ね
でも、私には。
願いを叶えるためなら、どんな犠牲でも払うのでしょう。
そう、だね。私が最初に決めたルール、なんだから。
私にはそこまでうまく操ることは出来ないと思うけど。でも、誘導する程度、なら私でもできるかもしれない。
「うーん、このまえあったときと、すこしちがう?」
「なにがですか?」
「ふんいきが、かな」
雰囲気が違う、とはどういうことだろうか。
彼女がどう動くかによって物語を変えるつもりだから、気になるのだけれど。
「ところで、れん、こえかけてきたら?」
みつめているだけじゃ、いみないよ?と笑うご友人様が私には悪魔に見えた。いや、それ、絶対彼女のお兄さんに睨まれるパターン!
「あはは、そんなにあわてなくても。きみにはかんけいないんだから」
それ、どういう意味で言ってるんですか?ご友人様。
関係あるから慌ててるんですけど。
まぁ、でも。
「いや、それは、その」
「れんさま、あいさつはしなきゃ、ですから」
挨拶は大切ですよー。幼馴染様は主催者ですし。
「あ、そう、だった」
あ、ってなんですか。忘れてたんですか、幼馴染様は主催者でしょう。忘れちゃ駄目だと思うのですが。
「あいさつ、あい、さつ、かいり、あやめちゃん!いっしょにこい!」
「こい、といういいかたがすきではないので、いきません。がんばってくださいね、れんさま」
「じゃあ、ぼくもいかない」
命令形で言われると嫌ですよね、普通。自分勝手、傲慢、人の話を聞かない、そういう人は好かれないし、私も個人的に好きになれませんから。
「いっしょに、来て」
「おはなしはしませんよ。ついていくだけです」
「しかたないね」
ありがとう、と小さく呟く幼馴染様。こういう素直に直せるところ、私は好きですよ。
「ほんじつは、きていただいてありがとうございます」
「いえ、たのしませていただいています」
ゆったりと微笑む音之宮の宝物様。
もしも、この世界がわたしの知っている乙女ゲームに限りなく近い世界だとしたら、宝物様の性格が違いすぎていると思う。
「あの、そちらのかたは?」
「ともだちのゆいぞのあやめちゃんだ」
ん、どうやら考え事をしているうちに話が進んでいたらしい。
「らくみつさまのおさななじみの、ゆいぞのあやめです」
よろしくおねがいします、と言えば、なかよくしてくれるとうれしいです、と返された。
性格が変った、ということなのか、これから変わるのか、それともただの似た世界なのか、可能性として最も有り得そうなのは似た世界であること、だけど、はっきり言えるわけではないから、一つづつ確認していくことにしよう。
偶然である、と言いきれないこともあるし。