序章みたいな話 〜村人になった勇者〜
はじめまして!
しばらく連載させていただきます。
拙い文章ですがよろしくお願いします。
また、なんかイラつく主人公にしばらくお付き合いください。
はぁ、どうしたもんか。
近くにある山が食料になるものが多かったため何とか食べつなぐことができたが、さすがに毎日木の実と山菜だけだと体に力が入らない。
これからもっと暖かくなるだろうからしばらく食うに困ることはないだろうが、さすがにずっとこの生活を続けるというわけにはいかないだろう。
何とかしなければ。しかし全く方法が思いつかない。
はぁ。
勇者を目指す者たちが集う集落。その名もフロック村。はじまりの村と呼ばれていたりする。
大きな村ではないが、勇者志願者や武器商人達が集まり比較的賑わっている。
そんな村の中央広場、噴水の前のベンチにて、俺は一人途方に暮れていた。
どこからか鳥の鳴き声が聞こえる、のどかな春の日。しかし俺の心はどんより曇り空。そりゃあ溜息だって出る。
俺の名はアシュラン アルフレイア。実は少し前まで世界最強の勇者だった。
3年前、俺はこのフロック村から勇者を目指して旅立った。俺はほかの人よりも魔力の量が飛びぬけて多く、旅の中で様々な功績を打ち立て、いつしか俺の名は世界中に轟いた。
「冥王アシュラン」の名を知らぬものはこの世界にはいないだろう。
村の北側にある俺の銅像が、俺が打ち立てた功績を物語っている。
それなのに、銅像のモデルとなった張本人がこんなところでただの村人をしているなんて誰も思わないだろう。
どうやら俺は勇者をやっていた頃とは外見が変わってしまったらしく、燃えるように赤かった髪の毛はすっかり黒く、がっしりしていた体つきは弱々しくなり、背も少し縮んでしまった。
これは余談だが、俺は昨日食べ物を貰いに知り合いの家を訪ねた。しかしこの変わり様に知り合いが気づけるはずもなく、不審者扱いされてしまったのだ。
困った俺は
「ほら!俺だ。アシュランだ!」
と必死に語りかけてみたのが どうやら逆効果だったようで、
「は?お前みてぇなボンクラがアシュランの名を語るんじゃねぇ!!」
とぶっとばされてしまった。
1日経った今もその痛みは残っている。前なら痛くもかゆくもなかったのに…。
俺はその後、きっと自分がアシュランだと気付いてくれる人かいることを信じ、知り合いの家を片っ端から訪ねてみたが結果は散々なものだった。
それだけでなく『なんか最近冥王アシュランの名を使って食料を求めてくる頭の足りない大バカ野郎がいる』という噂が広まり、
俺はこの村ですっかり邪魔者扱いされている。
どおりでさっきから村人達の視線が痛いわけだ。…泣きたい。
ああ。あの日々が懐かしい。
適当に魔物を退治するだけで村人達からは
「勇者様、ああ勇者様よ」とあがめられ、
街を歩けば女が寄ってくる。
おいしい料理は食べ放題。女の子とは遊び放題。そんな俺の勇者ライフはいったいどこに行っちまったんだ。
なぜこんなことになってしまったのか。俺には全く見当がつかない。
記憶が飛んでいて、何があったのか思い出せないのだ。
俺はあの時、西の魔王を討伐すべく古城を進んでいた。魔物達を次々となぎ倒し、遂に魔王の部屋の前へ。
魔王よその姿を現せ!俺は扉を開いた。
と、思ったら村の北の入り口の前に立っていたというわけである。
あまりにも急展開だったので状況を把握するのにかなり時間がかかった。
最初は魔法をかけられたのだと思っていたが、人間の姿形までも変えてしまう魔法なんて聞いたことがないし、できたとしても魔力の消費量が尋常じゃないことになる。
魔王でもそこまでの魔力はない。(まあ俺ならできないこともな…ゴニョゴニョ)
俺は、魔王に呪いをかけられたというのが有力な線じゃないかと思っている。
呪いならば、高度な術式が必要だが人の姿形を変えることができる。あとは適当に軽く記憶を消し、移動魔法でここにワープさせればいい。
それができるのはおそらくあの部屋にいたであろう魔王だけだ。
しかし、それには不可解な点がある。
それは・・・。
魔王が俺に呪いをかけるのは不可能だということだ。
呪いというのは相手が弱っている時しかその効果を発揮しないという特徴がある。
もし魔王が俺に呪いをかけたのなら、それは俺が弱っているとき、つまり俺が魔王との戦いに敗れた時ということになる。
断言しよう。俺が魔王に負けるなんてことはぜっったいにない!
そう。俺は最強の勇者なんだぞ。
西の魔王ごときに負けるわけがあるか!
だってあれだぜ。東西南北の魔王の内3つを倒したのがこの俺だ。
ついでに言うと魔物に占拠されていた村をすべて解放したのもこの俺だ。
1年前のファルジア大戦争を終結へ導いたのもこの俺だし、
南の海のそこに沈むヘルムの秘宝を見つけたのもこの俺なんだ。
これがどれほどの偉業なのかわかるか?
冥王アシュランほどこの世界で神に愛された者はいないとまで言われているのだ。
神の子といっても過言ではないのだ。
なら、一体何故こんなことに…。
おかしい。こんなことあってはならない。
俺は最強の勇者なんだ。
「ああぁぁぁ!もう!!」
俺は、むしゃくしゃしてその辺に落ちていた小石を蹴飛ばした。
その小石は空中を飛んで歩いていた女の子の足に直撃。
「いったいな!なにすんのよ!」
女の子はそう言って俺をにらんできた。
げ…。あれは見るからに怒ったら手が付けられないタイプだ。
前の俺なら、『俺はアシュランという。このくらいは許してくれないか?』
とでも言えば、『えっ!赤い髪にその体つき。あの勇者様なの?私なんてことを…。お詫びと言っては何ですが、何かごちそう致しますわ。』となるところだ。
しかしそれではだめだ。冷静になれ。俺は今ただのしがない村人。
ここでうっかり変なことを口走りでもすれば女の子の怒りを買いかねない。
最強の勇者たるこの俺が頭を下げるのは不服だが、ここはひとつ、謝罪の言葉を…。
「先ほどは本当に申し訳なかった。この俺が一晩付き合ってやるからなかったことにしてくれないか?」
「は?ふざけんじゃねえよこのド変態野郎がぁ!キモいんだよ!」
「ぶへぁっ!」
女の子の投げた石は俺の頬に直撃。
俺は鈍い音とともにその場にぶっ倒れる。
何故だ…。あんなに誠意を込めた謝罪をしたというのに…。
俺が一晩付き合ってやるといえば女性は大概頰を赤らめて喜ぶというのに…。
あの頃とは何もかもが変わっちまったってのか。
はぁ。
なんだか疲れた。次第に意識が遠のく。
なんでこんなことになったんだろう。何も悪いことはしてないはずなのに。
俺はこれからどうすればいいのだろう…。
そんな思いとともに俺の意識は深い闇の底へと落ちていったのだった。
目が覚めるとすっかり朝になっていた。どうやら道に倒れたまま寝てしまったようだ。
なんか体全身が痛む。なんで俺がこんな目に合わなきゃなならないんだ。なんかむしゃくしゃしてきたぞ。ああ!くっそ!
はぁ。これからどうしよう。このまま村にいても邪魔者扱いされるだけだしな。だからって行くあてがあるわけでもないし。
………。
………。
………。
………そうか。
西の魔王の所へ行けば何かわかるかもしれないな。あいつが呪いをかけたなら倒してしまえば呪いは消えるだろうし、呪いをかけてないにしても何か知ってることはあるだろう。
よし決めた。西の魔王の所へ行こう。
そして俺の勇者ライフを取り戻すんだ!
俺は荷物をまとめ、西の魔王城へと旅立つのであった。
1話読んでいただきありがとうございました。
このままだとアシュランの一人ボケになってしまいますのでこれからしっかりツッコミ役を登場させる予定でございます。
更新頻度は低めですがよろしくお願いします。