表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
須臾の境  作者: 三毛彦
1/3

1 観賞用

1 観賞用




 僕は至って普通の大学生だ。


顔だって地味だし、成績もスポーツも平均並。高校のトキのアダ名なんてビン底メガネを揶揄されて某アニメの押入れに未来から来たロボットを飼っている少年の名を…端的にいうと『のび太』と呼ばれていた。

田舎からほどよい都会に出てきて一ヵ月半、大学生活にも慣れてきてゼミ担当講師の紹介でバイトを始めることになった。履歴書は送った次の日、後ろに怒号が飛び交う中のんびりした男の声で一応面接に来てくださいと電話があった。初バイトなので、何も不審に思わずそれに応じた。


 このときは全く想像していなかった。まさか僕が『平凡』とは程遠い世界に身を投じることになるだなんて。


 その日は朝から気分が悪く、バイト先に向かう地下鉄の人ごみで僕は酔ってしまった。思い出すだけで今も頭が痛いし、気持ち悪い。

なぜか耳元に感じるのは生暖かい吐息のような風。唸り声のようなモーター音がどこからか響いていた。そこで僕は携帯を取り出して、都会の地下鉄の出口怖い、と呟いたあたりやはりゆとりだ。


 なんとか体を引きずって、駅から上がり、植え込みのレンガに腰を下ろす。何か飲み物でも飲んだら落ち着くだろうか。でも下手に動くと吐きそう。


 ああ、バイトの面接の時間までになんとかしないと、間に合わなくなる。

せっかく大学の先生にご紹介戴いたのに、とかどーしよーもないことがぐるぐる目の前をよぎった。



「こりゃひどいね」


 台詞に反して軽口のような発言に顔を上げると、女子高生が僕の目の前に立っていた。


長い黒髪を下ろしているのが黒いセーラー服に良く似合う。もう少し派手な顔なら芸能界でアイドルになれる…って何を考えてるんだ僕は。


 それに髪が黒いから目立たないだけで、地味で平凡な僕なんて声もかけられないくらいの美人だ。もう一度言う、正統派美少女だ。


「ダイジョーブ?」


 間の抜けた聞き方で顔を覗かれ、心拍数が急上昇した。でっかいお目々が近い。やっぱきれいな顔。いやホント近いです。緊張と吐き気で声でない。


「目、閉じて。腹に力入れてて」


 見知らぬ人ではあったが、美少女にそう言われて毛ほども反抗する気になれなかった。もっと命令してくれたらご褒美です。ああ、ダメだ僕。通報されちゃう…とうなだれた。


そのまま目を閉じた僕に、三秒後体が飛び上がりそうな感覚がドン!と襲ってきた。

 例えるなら、ジェットコースターの急降下の胃がフワッとする感じ、あれが、10倍ほど重くなって体の下から上へと突き上げた。二度と経験したくない。ボクサーのボディブローてあんな感じなのかな。


 体を突き抜けた衝撃に、大きくむせこんでさらにぐったりした僕が朦朧としながら、彼女がにっこり微笑むのを見た。鬼か。


「肩、重い?」

「重くないけど、フラフラする…」

「体力ないなぁ、でも頑張ったから、ご褒美あげる」


 何のことかとボンヤリしてる間に、白い手が差し出され思わず両手をすくって前に出した。犬か。

掌に落とされたのは、良く見かける棒つきキャンディ。



 彼女が何をしたのかは分からないが、飴を舐めて少し落ち着くと驚くほど体が軽くなった。肩の重さも吐き気も無い。


 これで面接にいけそうだ、と時計を見れば五分前。

できる限りのダッシュで伊禮事務所へと向かった。


事務所の扉を開ける直前、大きな机の上に座るシルエットが横に立つ一回り大きな影に遮られたのを見て、思わずそのまま固まった。


 い、いまのは何だったんだろうか。ドラマなんかで見かけるラブシーンのようだったが、そんな、就業時間に、まさか、ねえ。


 気のせい気のせい、と自分を諌めてもう一度ゆっくりドアを開けた。

しかし、次の瞬間、うっすらと聞こえた会話に半開きのまま再び固まった。


「遅いなぁ、小野 智くん」

「駅で見かけたよ、この『のび太』みたいなの。厄介なのに憑かれてたから除けといた」

「珍しいねボランティアなんて」

「履歴書みたからね、どっかでみた顔だなって」

「なるほど、ところで机より俺の膝乗らない?」

「黙れセクハラじじい」

 と、ここでひらりと机から降りた彼女がこちらに気がついた。


「禎俊、のび太来てるよ」

 そこから先は何も覚えてないのに、面接には合格した。



何にも心の準備はできていない。明日から出勤なんて心苦しいこと、この上ない。

 大学の食堂で溜め息をついていると、同じ学部の友人が隣に座った。


「よー!先生紹介のバイトどうだった?」

「明日からいくよ」

「所長若いんだろ?女?男?」

「所長は男、でもほかに美少女がいたよ」

「おおおおお!がんばれよ、小野!」

「仕事は頑張るけどね、たぶん、彼女はなんてゆうか…『観賞用』って感じ」

「どういう意味」

「びっくりする位クチ悪かった」

「わーお、そりゃキッツイな。お前イジメられっ子タイプだしな」

「率直にどうもありがとう」

「でもなんで美少女が法律事務所にいんの?」


 ……ホントだ。なんで俺、疑問に思わなかったんだろう。

ああ、明日からの出勤で気になることが増えた。

                               



♢伊禮 幸輝 いれ さき

本名 ?


17才 高1

類稀なる浄霊能力を持つ。

高すぎる能力のために14まで室生家で監禁されていたが、事情を知った禎俊に引き取られる。

というか逆に室生家にとっては、半ば拉致誘拐される。反面、幸輝にとっては呪われた家から出してくれた恩義を感じている…たぶん。でもダメな大人だなあとも思っている。最近、高校に入学したが二つ上と孤高の雰囲気のため、友達が一人もいない。…ことを密かに気にしている。



♢伊禮 禎俊 いれ さだとし


32才 職業 弁護士 ヤル気なし。

父方は室生だが15のときに後目継がない決定でたので名乗らず。

伊禮は母の苗字。父は室生を継げるほどの霊能力者だったが早くに亡くなる。母も能力者だったのかは謎。本人、全く能力なし。見えない聞こえない感じない、超ドンカン。…なことが密かにコンプレックス。

だらしない大人。

幸輝を浄霊から遠ざけるため保護したのに、結果ガッツリさせているのも、ジレンマ。美脚がすき。



♢小野 智 おの さとし


19歳 大学一回生。

楽しい入学フィーバー期を過ぎてバイトに入った。

本人は地味で真面目で平凡を主張しているが、真面目が過ぎてなかなかいない逸材。

幸輝が気になるも、アプローチはできないチキン。伊禮のモテぶりはもはや別次元と思うことにした。二人の過去が気になるが、詮索はいけないとジレンマしてるのが密かな悩み。さらに薫さんが事あるごとに情報を小出しにするから気になってしょーがないのが本音。

わりと憑かれやすい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ