何か
そうそう、ここで話を戻そう。
そんな妖怪が当たり前みたいな世界から、自分は逃げ出したかった。
自分で言うのもなんだが、おれは普通のやつだ。
見える事だけが普通じゃないのだ。おれは普通になりたかった。
これまでの経験上、土の香りがない所に奴らはいないというのはわかっていた。
全然いないってわけじゃないが、極端に少ない。
イメージとしては、妖怪も野菜も同じようなものだ。
そこで、おれは高校を卒業して、石造りの世界、東京に行くつもりだった。
ざしきわらしの足音で夜に目が覚める事がない、妖怪「タンスの角の位置忘れさせ」に足の小指を害される事のない、妖怪「学校の先生をお母さん呼ばせ」に騙されたり、妖怪「階段一段多く思わせ」に騙される事のない……いや、そいつらはいいや。
一部の悪質な妖怪は、容易に祟る。触らぬ神に祟りなしと言うが、逆に言えば触れば祟るのだ。
そして、更に危険なのは、得体のしれない『何か』。
深夜2時に神社の階段隅にうずくまる何か。かつて事故があった交差点の首なし地蔵を見下ろしている何か。風も無いのに河原で回る風車。首の無い大イノシシの死体。夜の街灯に集まる蛾を食べている何か。
定義できない何かたち。名前のついていない何かたち。
日常から少し外れた場所に潜む、妖怪とは別のバケモノ。
それが怖い。だから逃げるのだ。大好きな故郷から。




