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最悪

 翌日、おれはあのムカデの妖怪がいた地蔵の前に向かった。山道の途中、やや開けた位置にあるそこは、木々が光を遮り、何もしなくても重い空気に満ちていた。

 もちろん、握り飯は用意した。ちゃんとパーカーの懐部分のポケットに納めている。

 ここを選んだのには理由がある。人目につかないのもあるが、ここからならあるルートの起点として最適だったからだ。

 やがて、夕闇迫る頃、その黄昏の中からホッケが現れた。

 既に狼男へと変じており、いつ襲いかかって来てもおかしくないが、ゆっくり歩いてきた。

「ほう。慌てる様子もないな。銀の匂いもしない。観念したのか?」

 努めて冷静に話そうとしているが、怒りを隠しているのは明白だった。わざとらしく刺された脇腹をさすりながら、怒気を込めた視線を送って来る。

 昨日、ロボは、本物の銀の弾丸で心臓を撃ちでもしない限り、致命傷にはなりえず、傷も治って表れるだろうと言っていたのだが、その通りになった。

「このまま殺すのも一興だが――オレも魔獣に連なる高貴な血族。肉袋とはいえ、僅かでもオレに傷をつけた貴様だ。チャンスを与えてやろう。ゲームと言い換えても良いな」

 頷く。どうせ選択肢なんてない。

 だったら下らないゲームだろうが乗ってやる。時間を稼ぐために。

「ゲームはもちろん、狩りのゲームだ。お前は好きに逃げていい。オオカミは相手によって狩りを変える。相手が大型の場合は衰弱するまで追い詰める……逆にいえばすぐに食い殺される事は無いわけだ。或いは逃げ切れるかもな」

 嘘つけ。ただ怖がらせたいだけだろう。

「好きに作戦を考えろ。結局何もできないだろうがな」

 おれに出来る事。

 それは、見える事。たったのそれだけ。

 それだけでホッケに対抗するすべを、昨日からずっと考えていた。

 そして、閃いた。凄く嫌な手を。

最悪だ。最低で最悪すぎる。

 最悪の手だが、これしか思いつかなかったのだ。

 おれは踵を返して走り出した。

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