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一線

「おお、フロウズヴェニトル」

 先ほどまでと打って変り、満面の笑みを湛える男。もうおれなんて見てすらいない。

「気安く自分の名前を呼ぶな。ホッケ」

「フォッケヴェルガーだ。いやしくもフェンリル狼を祖にもつ偉大なる血族の――」

「黙れ。貴様なんてホッケで十分だ」

 吐き捨てるように、ロボは言う。だが男は、僅かに眉をひそめるだけだった。

「……お前もいい加減わかっているはずだ。人狼は数が少ない。滅多に出会う事すらない。それがつがいになるのは当たり前だろう」

「知らん。既に自分はつがいだ。お前の入る余地なんてない」

「オレにその(にく)(ぶくろ)を殺せと言ってるのか?」

 先ほどまでの態度がまだ人間らしいと思えるほど、男の体から殺意が噴き出した。もうおれを人として見るどころか、肉としてしか見ていない。

 猫を被る、そんな言葉があるが、コイツは人を被っていたわけだ。

 スーツが膨らみ、張り付いて見えるほど一回り筋肉が膨張する。

 その顔が、狼のそれへと変わっていた。鋭く前に伸びた鼻筋、剣ヶ峰のように突き立つ長い耳、鋭く伸びた牙が並ぶ口。鋭い眼光が、おれの心臓に向かう。

 なぜ古来、多くの国でオオカミを神として崇めたのか。それは、畏れを抱かせる存在だったからだ。

 おれは、また動けなかった。

「いい加減にしろ。自分にバケモノの価値観を押し付けるな」

「お前は人間を引きずりすぎている。オレたちは人間じゃない。お前も一度『はらわた』を食らえばわかる」

「だから嫌いだって言ってるんだクソ野郎。ウンコ食った口で愛を囁かれる身にもなれ!」

 それからのロボの言葉は凄かった。猛烈な勢いでまくしたてたのだ。

「肉食動物は、草食動物のはらわたを食らう! なぜか! それは彼らとて肉だけでは生きていけず、草食動物の『未消化物ごと腸を食べる必要がある』からだ!」

 だから肉食動物は草を食べずに済んでいるわけだ。

「それがどうした?」

「汚物なんぞ食えるかと言っているんだ!!」

 烈火の如く怒り、叫ぶロボ。

「いいか。自分は人狼だがもとは人間だ。体が動物になろうが、その一線だけは死んでも越えんし、越えたやつと口づけが交わせるほど人間やめちゃいないんだよ!!」

 その怒りは激しかった。

 言われてみればもっともだった。おれだってそんな相手は嫌だ。

 それはつまり、ロボの『心は人間だってこと』……だよな?

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