26/41
要求
「う……あ……」
声が出ない。足が震えているのが、自分でもわかる。
「そう怯えるなよ。なぁに、「まだ」殺そうってわけじゃない」
男は、ワザと「まだ」を強調して言った。それ以外は、日本人が抱く欧州貴族のイメージのように、優雅な物腰だというのに。
「もうロボとは会っているな。彼女の匂いがする……手を出してはいないだろうね?」
声が出ず、ふるふると首を振る。
「良い。いい判断だ。少なくとも、今殺されずに済んだぞ」
男は慇懃無礼に、パチパチと手を叩いた。
「一応、名乗っておこうか。オレは、フォッケヴェルガー・フォン・シュバルツヴァルト。かのフェンリル狼に連なる誇り高き人狼だ。いや、この国では、狼男の方が通りがいいか?」
フォッケヴェルガーはどこかおどけて言う。しかし、言いながら外したサングラスから覗く金色の瞳は、鋭い刀剣のような敵意に満ちていた。
「その賢さに免じて、命が助かるチャンスをやろう」
消えろ、そんな言葉を予想した。
情けない話だが、一瞬、パスポートの取り方まで想像したくらいだ。
だけど――
「去勢しろ」
フォッケヴェルガーの言葉は、予想を遥かに超えていた。
「は?」
思わず声が漏れた。




