安全地帯
「何なんだあれは・・・。」
その生き物はあまりにも無残な姿と独特な匂いを発していた。
「おいおい、演劇部の勧誘かよ!びっくりさせんなよ。てか、すげー凝ってんな!ウケる!」
鼻ピアスをしてお世辞にも頭がいいとは思えない男が《奴》に近づいて行った。
「なんだよ、演劇部の勧誘かよ、俺てっきりゾンビかと思ってワクワクしてたよ!な、けんちゃん
」
「ん?あ、聡一郎か、」
聡一郎とは高校生に入学してすぐ友達になった。
お互いに趣味が合いすぐ意気投合した数少ない友人だ。
「まぁーお前じゃすぐ死ぬだろうがな」
「うっせ!」
その時
「い、痛い。ぃぃぃぃぃぁだい」
振り向いた先にはさっき《奴》に近づいて行った男が頭を半分食いちぎられてた。
あまりにも急な出来事に教室には沈黙が流れた。
その沈黙をやぶったのは
「ヤバいけんちゃんいくぞ!!」
聡一郎だった
「えっ行くってどこへ?」
「え、どこにいくって・・・あ、放送室にいくぞ!」
ハァ、ハァ・・・・ッハァ
案の定、廊下は混乱の嵐になっていた。
逃げ惑う生徒もいたり、《奴》に食われ元の外見がわからない生徒もいた。
「くそ、これじゃ前に進めねぇ。押し倒してでもいくぞ。今のうちに武器でも探しとけ!」
「お、おう。」
こんな状況になってしまった今、聡一郎の存在はとても頼もしかった。
混乱の中、《奴ら》に襲われないように廊下を駆け抜ける。
「まだ、つかないのかよ」
「あ、あったぞ。よし中に入ろう。」
二人は中に飛び込むように入り、急いで鍵を閉めた。無事、放送室に入り深呼吸をしていると、
「おい、お前ら噛まれてないか?」
「うわっ!え、あ、噛まれてないです。」
「ぼ、僕も噛まれてないです。」
「だったら早くドアから離れろ・・・もうドアは開けるなよ」
メガネを掛け頭が良さそうな生徒が立っていた。性格は悪そうだが・・・・
あたりを見渡すと放送室の中にはまだ6人ぐらいの生徒がいた。
体を震わせ身を寄せ合ってる女子生徒2人、金属類を首や指に付けている男子生徒、毛量が少なく顔のシワが多い教師、隅っこの方で縮こまっている男子生徒、あとは・・・・血だらけの木刀を片手に持ってこっちを睨んでいる男子生徒。
なぜ、血が付いてるかは聞かない方が良さそうだ。
それとメガネ
(遥と瞬はいないか・・・・無事だといいが)
放送室に集まった9人、これからも起こることはまだ誰も予期しなかった。