表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
奴隷になって異世界統一  作者: ヤガミ 光
9/9

08 ようやく始まる物語

「あらあら、悲しいこと言いますねえ。ところであなたの奴隷さん、死にかけですけど、助けてあげなくて良いのですかぁ~?」


「ああ、出来損ないの奴隷など要らない。それに、この状態だと助からない。復活の魔術や瀕死状態から回復させる魔術はないからな。コイツは放置でいい。それよりも、お前だ」


 ……は?


 今なんて?


 そんな、なんでだよ、なんで。


 俺はお前の奴隷で……ああ、奴隷、だからか。


 結局は都合の良い消耗品でしかなかったわけだ。


「非情な主人ですねぇ。いやいや、しかしヘルちゃんのそういうところは嫌いではないですよ」


「クソ! クソ野郎! ヘルてめえ、裏切り者! 恨んでやる! 死んでも恨んでやる!」


 俺は殺される覚悟で罵った。


 せめて、お前を言葉で汚してやる。


 何もできない俺がする、無様な攻撃。


 どうだ、どうだよ。どんな気分だ、ヘル!


 勝手に召喚されて騙す形で奴隷の契約を交わさせられて、勝手にてめえの厄介ごとに巻き込んでおいて……。


 最後がこれ、かよ……。


「奴隷風情が、黙れ。私の奴隷なのだから、私がどうしようが私の勝手だ。減らず口を叩くのなら、私が殺してやる」


 彼女は冷たい声でそう言った。


 一度も俺に顔を合わせることがなく。

 ――ああ、意識が薄れていく。視界が霞んでいく。


「では、貴様を殺すとしよう。フェンリル」


「ああ、動揺しているのがまるわかりですよ。その名前で呼ぶとは、まだ癖が残っているみたいですねぇ?」


「……もういい。殺す」


 ヘルの両手に光が宿り、レイピアが現れる。


 2刀のレイピアは共に刀身が長い。


「ワタシを殺せるものなら、どうぞご自由に」


 先手はヴァナルガンド。


 先の鋭い尻尾を伸ばしながら、離れた距離にいるヘルに攻撃をした。


「やはり、鈍っているぞ、貴様」


 ヴァナルガンドの動きを遥かに上回るヘル。


 彼女は右手に持つレイピアを投げ飛ばし、奴の頭部を貫いた。


 さらに距離を詰め、残ったレイピアで奴の腹部を貫く。


 まだまだ攻撃は続いた。


 ヴァナルガンドに突き刺さっているレイピアは消え、再びヘルの両手に召喚される。


 次は横腹、心臓を。


 その次は腰と喉元に。


 次々と様々な部位に差し込む。


 何度も片足を軸にローリングを決める。


 彼女の剣技、いや、剣舞は、なぜか華やかにも見えた。


 飛び散る真っ赤な血が、彼女の剣舞を引き立てる。


「うっ……あっ……」


 ヴァナルガンドは倒れ、彼からは黒い煙が立ち始める。


 薄れゆく意識の中、ヘルが俺の元へ駆け寄ってきた。


 俺を抱きかかえ、今にも泣きそうな顔で、俺の頭を膝へ乗せた。


「すまない。本当にすまない。私が遅かったばっかりに……っ」


 彼女の声は震えていた。


 目からこぼれる涙が、俺の顔面を濡らす。


「ヘル……なん、で……」


 彼女は身体の至る所が血で汚れてしまっていた。


「あの時、奴の意識はまだハイルに向いていた。だから、意識を私に向けるためにあんな、心にもないことを言ったんだ。すまない。私がお前をどうでもいいなんて思っているわけがないだろ……ハイルは私にとって一番大切なんだ……」


 なんだ。ああ、なんというか。


 いい、人生だったかもしれない。


 最後はこうして、誰かの涙で死ねるなんて。


 俺は……こんなに幸せでいいのだろうか。


「ヘル……俺も、最後まで、お前を信じることができなく、て……ごめん」


「何を言う。ハイルを死なせはしない。契約をするんだ。私の、眷属になれ。眷属になれば、私が生きている限り、お前は生きられる。早く、奴が復活する前に契約を!」


 ヘルは目を瞑った。


「どうすれば、いい……?」


「口づけを、するんだ。ハイルからしないと効果はない。契約書は、私自身だ」


 ああ、俺は最高に幸せものじゃないか。


 何が『クソ野郎、裏切り者』だ。勘違いも甚だしいぞ、俺。


 それから、俺は彼女の唇に口づけをした。


 ヘルの唇は冷たかった。


 だが、今までにないほどの幸福感に包まれる。


 伝わった。よく伝わった。


 これは、ヘルの愛情だ。


 この時、俺は心に誓う。


 ――一生、ヘルについていってやる。


 次第に身体は熱を持ち始め、全身に力が入っていった。


「ああ~、効きましたよ、ヘルちゃん。めちゃくちゃ痛かったですよ~。しかし、なぜワタシを殺すことのできない物理攻撃ばかりしたのですか?」


 ヴァナルガンドが身体を起こし、余裕の表情を取り戻した。


 しかし、ヴァナルガンドは疑問に思う。目の前に佇む敵が、ヘルではないことに。


「あなたは――なんで生きて……まさか、あの契約を交わしたのでしょうか……だってあの契約は……じゃあ、まさかあなたは……あなたが……?」


「改めまして、ヴァナルガンド殿。お控えなすってぇ。俺は趣味でヘルの奴隷兼眷属をやっている、ハイル・ブレット・シュヴァルツィア。では早速……殺し合いましょうや、不死身同士」


 第二局面。


 今度は余裕の笑みで丁寧にお辞儀をする俺と、ようやく表所を崩し、狼狽えているヴァナルガンドの姿があった。


 ちなみに、ヘルはというと、


『奴の使い魔が存在する限り、何度でも再生する。言わば生命の共存。使い魔のどれかが生きていれば、奴が死ぬことはない』


『なら、不死身の俺がヴァナルガンドを殺す。俺の本体ともいえるヘルが同じ場所にいたら危険だ。ヘルヘイムに戻れ。使い魔程度の雑魚なら、お前が殺られることはないだろ?』


『それが最善かもしれないな。奴の弱点は炎。その剣には炎の加護がついている。多用は厳禁だが、使うことに躊躇するな。炎を使う時は、剣先を向けて、イグニスと唱えろ。何度も痛い思いをするだろうが、本当にすまない』


『いいさ。今のうちに痛みに慣れておくさ。これから戦いの場面に出くわすことがあるだろうしな。じゃあ早く行け、ヘル』


 なんてやり取りがあった。


「超主人公してるぜ俺ぇぇぇぇぇぇぇ!」


 込み上げる愉快な気持ちを発散させた。


「い、いいでしょう……あなたの肉片を一つ残らず消滅させてあげます。いい機会です。不死身の限界を試すとしますか。それから、あの女を殺すとします」


 ヴァナルガンドの身体が巨大化し、黒い体毛が生え、顔も体も狼と化した。


「グルルルルルルルル……ガルルルルルル……」


 歯を向けて唸っている巨大な狼は、今にも突進してきそうだ。


「四つん這い、様になってるじゃねぇか。口が悪くなってるぜ? 国盗りの前に、俺の命を取ってみな、化け物」


 とか言ってみたが、


「超……こえぇよ……」


 これが本音な俺だった。


感想お待ちしております。

悪い点、良い点を遠慮なく言っていただけるとありがたいです。

よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ