05 呼び覚ます記憶
「ここがニーニャの部屋……?」
部屋一面は全てクローゼットに囲まれ、可愛らしいピンク色のベッドと化粧台がおかれている。
室内はアロマを焚いているのか、心がすーっと落ち着く香りがする。良い匂いだ。
「ごめんね、ベッドは一つしかないんだ~……一緒に寝るしかないね~」
ニーニャはいつの間にかネグリジェに着替えていた。
マジでいつ着替えたんだお前。まあいいか。それよりも。
「いや、むしろ好都合だ! 一緒に寝たい!」
拳を握りしめて叫ぶ。
「うわぁ~、下心丸出しになっちゃってるよ? ハイルくんだから許しちゃうけどっ♪」
ニーニャがベッドに乗りあがる。
「よっ、っと♪ ほらほら、ハイルくんおいで~一緒に寝よぉ~」
俺を誘うようにベッドをぽんぽんと叩いている。
「し、失礼します!」
ニーニャに密着する。
「じゃあ、寝ちゃおっか! あったかいね~気持ちいい~」
廊下を歩いてきた時と同様、ニーニャは俺に腕を絡め、ベッドの上に横になる。
腕を引っ張られている俺も横になった。
「お、俺、初めてだから優しくお願いします。こういうの慣れてなくて、ハハ、男として情けない……って寝てんじゃん! 早い!」
「すぅー、すぅー……」
純真無垢な表情で、寝息を立てるニーニャに見惚れた。
可愛いなあ、間近に見ると余計に可愛い。
桜色の唇に触れてみると、ぷにぷにと柔らかい感触が伝わってくる。
早く、キスイベントが訪れますように。
アロマのおかげで、落ち着きを保つ精神。
まどろむ意識。
俺は眠りについた。
…………。
………………。
……………………。
まだ幼い頃の俺は、公園に来ていた。
友達は誰もいない。幼馴染とかそういうのもいなかった。
ましてや、俺の父親は兄弟と仲が悪く、母は一人っ子だったため、従兄弟なんかとの付き合いは皆無。
そんな俺が公園に来た理由は一つ。
探検ごっこをしに来たのだ。
目的は公園ではなく、公園の裏山だった。
「よぉ~し、秘密基地を作ってやるぞ!」
ああ、子供の頃は秘密基地とかそういうものに憧れを抱いていた。
「っひ……うぐっ……ううっ……」
一人の少女が泣いていた。
年齢は俺と同じくらいか、ちょっと年下くらいに見える。
「君大丈夫? どうしたの?」
少女はこちらに振り向く。
気弱そうな雰囲気。助けなきゃって思った。
「もう大丈夫だよ。俺が助けてあげるよ」
「ほ、ほんと?」
「うん!」
俺が手を差し出すと、少女もそれに答えた。
「俺の名前は瑞木 入。よろしく!」
「みずき……はいる……? ちょっと呼びにくいかも」
「あー、じゃあ、適当にアダ名とかつけちゃっていいよ」
「じゃあ、はっくん! はっくんって呼ぶ! よろしくね、はっくん!」
少女の見せる純粋な笑顔に心奪われた。
「とりあえず、山にいるのは危険だから公園に戻るか……」
テレビで見たことのある登山家が、天候が悪化した時のセリフを思い出した俺は、それっぽいことを言ってみた。もちろん、本気で危険だとは思っていないし、その頃はそんな判断力もなかったと思う。
少女の手を引いて、山を降りる。
どうしたのかと少女に話を聞くと、
「兄さん達がね、私をいじめるの。お父さんは家にずっと帰って来ないし……それで逃げて来ちゃった」
よくありがちな話だった。
俺は一人っ子だからよくわからないけど、テレビでそんな話を見たことがある。
友達のいない俺は生粋のテレビっ子だったのだ。
公園に着き、ベンチに座る。
「私、はっくんに会えて嬉しかったよ! 一人で不安だったの」
「一人で山に入ったらダメだよ~? 特に素人が一人で登山とか、死にたいのかねホント」
これもテレビで観た登山家が言っていた。
「っふ、ふふ……はっくんって面白いね!」
「そ、そう? 嬉しいなあ」
少女は俺の手をぎゅっと握りしめてきた。
ちょっとだけ恥ずかしかった覚えがある。
「あ、ああ、そうだ。これ、あげるよ!」
ポケットから指輪と取り出した。
もちろん、本物ではない。さっき食べていたお菓子についてきたおまけだ。
俺は別に指輪のおもちゃを持っていても仕方がないし、少女にあげることにしたのだ。
「これ、なに? 指輪?」
「うん。知ってる? これ、結婚する時にあげるやつなんだよ。僕と結婚してください!」
「わあ、そうなんだ! すごく嬉しい! いいよ、私もはっくんと結婚したい! よろしくお願いしますっ!」
少女は指輪を受け取ってくれた。
「へへへ、照れるなあ! 早く結婚式を挙げたいなあ、ははは!」
幼いながらにした、初めてのプロポーズ。
しかし、俺は次にムードを壊すセリフを言う。
「ああ、でも結婚相手は慎重に見つけたいんだよね。お友達から始めない?」
これもテレビで言っていた。影響受けすぎだろ、俺。
俺がKYな発言をしたのにも関わらず、少女は眩しいほどの笑顔で喜んでいた。
「ほんと? 初めての友達ができちゃった! 今日は幸せな一日だなぁ!」
ああ、そうだ。そういえばそうだった。
こんな俺にもたった一人だけ友達がいた。今思い出した。
「私、はっくん大好きだよ! 一番大好き!」
「俺も君が一番大好きだよ!」
子供という生き物は簡単に相手を好きになってしまうものだが、この子のことは本当の意味で好きになってた気がする。
「はっくん、ありがとね! 私、そろそろ帰るよ! また会おうね!」
「うん! もちろん! またね!」
「……あっ!」
少女は何かを思い出し、俺に近づいてきた。
「ちょっと服脱がすね!」
「は~い」
今の俺にそれをしたら鼻血ものだ。
シャツを捲り、俺の腹部にキスをする少女。
ある意味でのファーストキスはそれだった。
「印、つけておくね!」
「うん! ありがとう!」
何がありがとうだ。それキスマークだぞ。今の俺がそれをされたらオカズものだぞ。
「愛してるよ! はっくん!」
駆け足で森へと戻る少女を見て、ちょっと心配な気持ちになった。
また森の中で迷子にならないかな、大丈夫かな~?
だが、幼かった俺は、恋人ができた幸福感に再び導かれた。
「ああ~俺も今日は最高に幸せな気持ちになったよ~。あ、あの子の名前聞いておけば良かったなあ」
頭をコツン、と誰かに叩かれる。
振り向くと、父親がいた。
「おいおい、誰だあの子は。ガールフレンドかぁ~?」
「へ、へへへ、まあ、そんな感じ?」
「まったく。この幸せものめ! 母さんがご飯を作って待ってるから、そろそろ帰るぞ?」
「うん!」
父親に抱きかかえられる。
「あの子、どこの国の子なんだ? よく意思疎通……話ができたなあ」
意思疎通という言葉は幼い頃の俺にはわからないため、言い直す父。
「気持ちが通じ合ったんだよ!」
テレビで聞いたことのあるフレーズを言う俺。
そういえば、なんで父は外人だと思ったのだろう?
そこはよく考えると不思議で仕方ないが。
それから、一度もその少女と会うことはなかった。今も元気にしてるかい? 俺の唯一の友達兼婚約者ちゃん。今頃めちゃくちゃ可愛くなってるに違いない。ああ、彼氏とかいたら辛いなあ。
良い思い出を振り返ったものだ。少しだけ、自分に自信がついた。
幸せな、幸せだった夢ではあるものの、少女の姿が鮮明に映し出されることはなかった。
………………。
…………。
……。
目を覚ました。
清々しい気持ち。
だが、何か重量を感じた。
「やっと起きた! おはよう、ハイルくん!」
俺の腰の上で馬乗りになっている少女が話しかけてきた。
イタズラな表情で俺に顔を近づける。
お互いの生々しい息が吹きかかる距離。
「お、おはようニーニャ。ちょっと顔が近くない?」
「おはようのキスはいかがっ?」
「え、えーと、じゃあ、お願いします」
ニーニャは躊躇いなく唇を重ね合わせる。
彼女が口づけを交わす寸前に吹きかけた吐息は、綿菓子のような甘い香りがした。
その吐息の生暖かさが、俺の脳を余計に痺れさせた。
お、おおおおお、キスすげえ! ほんのりと暖かい感触がする!
心臓が強く何度も脈打つ。
唇を離し、ベッドを降りて立ち上がるニーニャの顔は赤面していた。
「ちょっと、大胆だったかなぁ……ヘル様には内緒、だからね?」
「は、はい。これから毎朝お願いします」
「もぅ、ハイルくんちゃんと話聞いてないじゃん……これから、朝食を作るからハイルくんも手伝ってよ~」
ネグリジェを脱ぎ落し、下着姿を露わにするニーニャ。
咄嗟に目を逸らす俺対し、
「ごめんね~、実はわざとやってるっ♪」
襲うぞコラ。
一つ残念なのは胸が平なことだ。貧乳もアリといえばアリだけど、巨乳の方が個人的に好きだ。
ニーニャがメイド服を着用し終わる。
「ほらぁ、もたもたしてないで台所に行くよ、ハイルくんっ♪」
彼女の決めたウィンクにホールドハートな俺であった。
私は人にあまり小説を見せたことがないので、私の小説をお読みになった方は感想いただけるとありがたいです。
自分の改善すべき点を素直に受け入れて、もっと頑張りたいです。
まだまだ未熟ではありますが、物語を書くことをやめるつもりはありません。
なので、しっかりと自分の悪い点と向き合って成長したいです。
どうか、ボロクソな感想でも構いませんので、酷評でも構いませんので、感想をください。
何がつまらないのか、何がダメなのか、事細かに教えていただけるとありがたいです。
私は未熟で中途半端で、実力も全然備わってないと、本日実感しました。
今の自分が情けなくて仕方ありません。
どうか、頑張るチャンスを私にください。
よろしくお願いします。