04 女神と旋律
「うめえええええええ! なんだこれは!」
「えへへ、ありがと、ハイルくんっ♪」
ニーニャが焼いたステーキは格別に美味しかった。
肉というものは焼くだけでも美味しいわけだが、ニーニャのステーキは何かが違う。
焼き加減はミディアムレア。
肉そのものの旨みと、焼き上げることでできた香ばしさ。
ほんのりとペッパーらしき味もする。それがアクセントとなって、肉の味をしっかりと引き立てている。
あっ、この味はガーリックか!
ガーリックが香ばしさをさらに引き立てる。
すごい、まさにこれは……。
――味が奏でる_四重奏だ。
「感動した! 感動したよニーニャ! これはすごい、めちゃくちゃ美味しい!」
ほっぺたが落ちそうになるという感覚を初めて体験した俺。
なんというか、食べる度に頬に鳥肌が立つというか、感動してるというか。
「わぁ~! そこまで褒めてもらえるのは嬉しいなっ! 花嫁修業、頑張った甲斐があったよっ!」
「ああ! 今すぐにでも最高のお嫁さんになれると思うぞ! 俺が嫁に欲しいくらいだ!」
「ほ、ほんとうっ⁉」
「ああ! ニーニャならいつでも嫁に迎えてやる! ハハハ!」
意気投合して盛り上がる俺とニーニャ。
「……はむっ」
ムッとしながら食事を続けるヘル。
機嫌が悪いのは、俺らが騒がしくし過ぎたせいだろうか?
そして、なぜか微笑ましい顔で眺めているルルス。
「我が身は嬉しいぞ……やっと、妹に……妹的存在のニーニャに旦那ができるとは……」
よく見ると、目を潤ませていた。
「本当に良かったな、ニーニャ。ニーニャはお――」
「――ルルス!」
ルルスが何かを言い切る前に、ヘルが遮ってしまった。
「ハイルはまだニーニャの事情を知らない。面白いからまだ内緒にしておこう」
「は、はい……ルルス様……」
「もう、ヘル様、趣味が悪いですよ~? アタシが本気になってからハイルくんに断られたら、傷つくのはアタシなんですからね?」
そんなに重い事情があるのだろうか。
「では命令だ。本気になるな」
「でも、アタシ現時点で結構ハイルくんにきゅんきゅん来てるんですけどね~?」
ニーニャは好戦的な表情で言った。
「ニーニャの事情とやらを聞いちゃダメかな?」
あまりに気になったので、俺はへりくだって質問した。
「ごめんね、アタシは勇気が出たら言いたいんだけど……ヘル様が教えるなって言いそうだし……」
「では、こうしよう」
唐突に、何か提案を出すヘル。
「ニーニャが言いたくなったらハイルに教えてやればいい。だが、ハイルを取り上げる真似はやめるように。私のたった一人の奴隷なんだ」
え、奴隷ってそんな貴重な存在なの? あとで奴隷について書いてある文献があったら読んでみよう。
「では、アタシからも。取らないけど、アプローチはいっぱいしますからね? それでハイルくんがこっちについて来てしまったらしょうがないですよね? その場合は、取り上げたわけじゃないですしっ♪」
「……ほう」
ちょっと怖い空気だ。肉弾戦とかを始めそうな勢い。
そこでルルスに話しかけられる。
「安心しろ、ハイル。我らは家族みたいなものだ。ニーニャと我が身は姉妹。ニーニャとヘル様は親子。
我が身とヘル様は……っ」
頬を染めて、俯くルルス。
おいおい、なんだ~? 百合百合しいぞ!
ふと、ヘルの言っていたことを思い出す。『ついでに一つ、残念な知らせだ。奴は私にぞっこんだ』という言葉。
マジなんだ、そういうことなんだ。
ああ、そういえば気になっていたことがあった。
「あ、あれかな? ヘルが大好きだから、服装も男らしくして口調もヘルに似せているのかな?」
「わ、わたっ……我が、身は……」
動揺を隠しきれていない。そういうことらしい。
ヘルとルルスの口調が似てるなぁ、と俺は感じていた。
無理して男らしくしているのではと、心配になってくるものだ。
とはいえ、俺の歓迎会は和気あいあいと楽しいものになっている。
こんなに楽しいのは久しぶりだ。
そんなことを考えていると、
「あおぉぉぉぉぉーーーーーん!」
オオカミの遠吠えがどこかから聞こえてきた。
「この世界にもオオカミっているんだなぁ……」
なんて、気楽なことを考える俺に対し、
ヘルとルルスとニーニャの3人は、席を立ち、警戒している様子だった。
「急に、みんなどうしたんだよ?」
誰も返事はなく、ヘルはじっと佇み、ルルスはヘルの近くへ移動し、ニーニャは窓から外を見渡している。
尋常ではない緊張感。
この世界ではオオカミが超強いとかそういう設定なのだろうか。
「どういうことなの……? 奴はあれを抜け出したってわけ……?」
「やはり、私が奴を殺るしかないのかもしれない。襲ってくる様子はない。恐らくは、近々ヘルヘイムを襲撃するための視察に来たのだろう。奴がアレから抜け出すというのは計算違いだったな」
俺はヘルに問う。
「待て待て、奴って誰だよ?」
「奴とは……ヴァナルガンドのことだ。ハイルは気にしなくていい。私個人の問題だ」
「いえ、我が身も戦闘に参加します。ヘル様の身をお守りします」
「ルルス、私をあまり舐めるな。ヴァナルガンドが相手とはいえ、私が負けることはない。本気を出せば……私も腕一つを持っていかれるくらいで殺せる」
「我が身が、その腕一つの代わりになりましょう」
オオカミ? 腕一つ?
どこかで、腕を犠牲に獣を封印した話を聞いたことがあった気がする……。
あれはなんだったか。それを思い出せば、何かヘルの役に立てるかもしれないのだが……。
「私の腕より、ルルスの方が大切だ。では、ハイルはニーニャと一夜を過ごせ。ニーニャがいればハイルは安全だろう。ルルスはヘルヘイムの入り口近くの部屋へ。 私は部屋で待機している。何かあれば駆けつけるから知らせるんだ。恐らく、奴は私の部屋に直接攻撃をしかけてくる」
「わかりました。ヘル様っ!」
「承知いたしました」
俺は自動的に戦力から外されている。
それが悔しくて仕方がなかった。
男である俺が、女から守られるだけだなんて情けない。
そうだ。俺がそのヴァナルガンドとやらを殺してしまおう。
「ヘル、それならそれで、俺に何か護身用の武器をくれないか?」
「……そうだな、ニーニャ、ハイルに魔術の込められた剣を渡しておけ。ハイルも、その武器を粗末に使うことがないように。そうだなぁ、わかりやすく説明してやるなら、かなりレアなドロップアイテムだ。ハイルにはこの説明がわかりやすいだろう?」
「そうだな、よくわかった!」
俺が殺して、俺が英雄になってやる。
いつでも来やがれヴァナルガンド!
「……ニーニャ」
「はい!」
「ハイルを頼んだぞ」
「は……はい。わかりました。そのように致します」
「では、食事は中断。ニーニャも今夜は後始末をしなくていい。するなら朝だ。夜の業務は禁止とする。奴がいつ来るかわからない。ハイルは片時もニーニャから離れるな。ニーニャは奴が来るまでは朝食と昼食を作って、私とルルスの元に運んでくるだけでいい。夕食は明るいうちに作って明るいうちに運べ。奴が来るなら暗い時だ。暗い時以外は力を発揮できないはず。ルルスはヘルヘイムの入り口を固めろ。では各々行動開始!」
ヘルはそそくさと、食堂を出た。
話から推測するに、ヴァナルガンドが狙っているのはヘルだ。
だから、ヘルの近くにいるというのは、危険が伴う。
少しでも仲間が危険な目に遭うことのないように、ヘルは自ら遠ざかったのだろう。
「では、ご武運を」
「はいはぁ~い!」
ルルスも部屋から出ていく。
「ほぉ~ら、未来の旦那様ぁ~? アタシの部屋に行くよ~んっ!」
ニーニャは俺に腕を絡め、食堂から出た。
半ば強引に俺を連れて廊下を歩く。
廊下には赤い絨毯が敷かれ、ところどころに配置された蝋燭の火が辺りを照らしている。
ヒンヤリとした冷気が、どこかから入り込んでいる。少し肌寒い。
「ニーニャ、今って相当やばい事態?」
「そうだねぇ~、かなりやばいかな~? ヘル様の敵の中では3番目に強い敵だから、単純に危険度ランキングをつけるなら、今はなんとぉ~、3位です!」
「それ、なんかめちゃくちゃやばそうに感じるんだけど……」
その時、廊下一帯の蝋燭の火が消えた。
真っ暗で何も見えない。ニーニャが腕を絡めた理由が理解できた。今はただ、彼女のぬくもりだけが頼りだ。
「う~ん、やっぱりかぁ~、気配は感じないから、蝋燭の火に魔力が干渉しちゃったんだろうねえ……よっと!」
俺の瞳が赤い絨毯を捉えた。
ニーニャが掲げた右手は光り、周辺を明かりで照らしていた。
「それは魔法か何か?」
「そうだねえ、そんな感じかなぁ~? ちょっと急ぐよ~」
急遽、早足になるニーニャ。
一瞬だけ俺はつまずきそうになった。
それから2分くらい歩いただろうか。そのくらいの時に、壁の前に立ち止まった。
「はい。この壁にダイブするよ~!」
「それ知ってる。魔法の壁ってやつだ。この後俺は魔法学校へ入学してうわぁ~!」
ニーニャは問答無用で壁に飛び込んだ。
いくら魔法の壁だとはいえ、壁に飛び込むのはとても怖い。
反射的に目を瞑っていた俺は、瞼を開く。
「はぁ~い、ここがこれからアタシとハイルくんの愛の巣になりま~す! ……なんちゃってっ♪」
最近急激に寒くなりましたね。
体調管理が難しい時期になりました。
しかし、この寒い冬に食べるアイスクリームが格別に好きでして……。
なぜでしょうね?
夏はあまりアイスを食べないのに、冬は無性にアイスが食べたくなる……。
さてさて、今回の本編ですが、一気に話が進んだかと思います。
一応、投稿前に推敲はしてますが……展開を急ぎ過ぎていますね……。
こら自分! 反省しろ自分!
まあ、とある展開を早く描きたいのもあります(笑)
こちらの小説は、普段執筆している小説の気分転換に書いています(執筆した気分転換に執筆ってどうなのよ自分)。
結構楽しんで書いてますよ。
それと、友人がこの小説を読んでくれたのですが、まるで普段の私と話している感覚になる、と言われました。
この小説を読めば私と談話してる気分になれるので、ぜひ読んでくださいね~! ってこれ後書きだから読者様はもう読んでるか!(笑)
私の作品に触れていただき、大変感謝しております。
どうぞ、これからもよろしくお願いします。
では長くなりましたが、また次の更新で!