03 18時だよ! ヒロイン集合!
皆さんは、テストの時はどんな姿勢で挑むのでしょうか?
『ああ~、俺勉強してねえよ~マジオワタ~』
こんな人もいるでしょう。基本的にそういう人は保険をかけているだけで、実際にはめちゃくちゃ勉強をしてきたことでしょう。
『私……勉強……一応、してきたけど……自信……ないかも?』
正直でよろしい。このタイプの人は好感が持てますね。あと可愛いですね。エロゲでしか見たことがありませんけど。
俺? ああ、俺は友達いなかったんで勉強してようがしてなかろうが、終始無言タイプです。はい、俺のトラウマ掘り起こした~! はい訴訟!
冗談はさておき、嬉しいことに、俺は初めてそのリアクションを取る機会を得た。
ヘルに強制的にやらされた勉強のテスト。
俺の反応はこうだ。
「超自信ある! 結構できた気がする!」
……自信満々だった。
「ああ、点数にするなら20点。ギリギリ赤点回避レベルだ。もっと勉学に努めろ」
そう。俺は、自信満々だが結果は酷いという、一番恥をかきやすいタイプの人間だった。
初めて友達がいなくて良かったと痛感する。うん、友達がいなかった自分を肯定したいだけなんだけど。
「この世界に来たばっかりだし、疲れただろう? 今日はもう仕事をしなくていい」
「むしろ異世界に来てから元気いっぱいだぞ俺。強え奴と戦いてえ!」
「頼もしいな。もし宇宙から侵略者が来たら、ハイルに相手を任せるとしよう」
一瞬ゾッとする俺。
いやいや、来ないよね? マジで宇宙人とか君臨しないよね?
恐らくはヘルの冗談……だと思いたい。
「さあ、夕食の時間だ。ハイルにも同席してもらう。ついて来い」
部屋を出るヘルに続いて、俺も部屋を出た。
すると、縦長く、大きいテーブルが目に飛び込んできた。
室内は広めで、優雅な雰囲気。
貴族の食堂って感じだ。
「っていうか、さりげなく空間移動させるのやめてくれる? 俺、ヘルヘイムの中を把握しておきたいんだけど……」
「疲れているであろうハイルに対する配慮だ。後日、ニーニャにヘルヘイムの城内を案内させる」
『ハイルに対する配慮』ってラップっぽいフレーズだなぁ。
ヘルの隣に俺も座る。
「ところでニーニャって誰?」
次の瞬間、食堂の大きな扉が勢いよく開いた。
「はぁ~い、ニーニャちゃん入りまぁ~す!」
ニーニャと名乗る少女は、ホテルなどでよく見るサービスワゴンを押しながら入場してきた。
声は高めで、旧式のシンプルなロングスカートのメイド服を着用している。
髪はオレンジ色で、髪型はセミショート。頭につけているピンク色のヘアバンドがよく似合っている。 大人びて見えるが、童顔にも見える。
可憐な彼女からは、可愛いオーラがプンプン香ってくる。
既に俺の心は鷲づかみにされ、超ときめいていた。
「君が噂のハイルくんかな? 初めまして。アタシ、ヘルヘイムでメイドをやってる、ニーニャ・プリヴィアーネって言います! よろしくハイルくん!」
足を交差し、スカートの裾を持ち上げて軽くお辞儀をするニーニャ。
その姿はまさしくメイド。夢に見たメイド。
俺はここが二次元ではないのか、と錯覚をするほどに憧れたシチュエーションだった。
ああ、彼女が二次元の女の子に見えてきた。
丁寧な挨拶。キラキラと輝くオーラ。鼻孔をくすぐる女の子特有の甘い香り。
俺は萌え死にそうな心地になった。
「は、ははは、初めまして! 俺は瑞木 入。18歳。血液型はAB型。みずがめ座。き、気軽にハイルと呼んでください!」
ニーニャはクスリと笑う。
「そんな緊張しなくてもいいよ、ハイルくん! 敬語じゃなくていいし、アタシのこともニーニャって呼び捨てにしていいからねっ♪」
うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!
大丈夫かな? 今、俺気持ち悪い笑みを浮かべてないか心配だぞ!
「じゃ、じゃあ、ニーニャ、よろしくな!」
「うん! これから末永くよろしくお願いします! ……なんてっ♪」
まさかこの子がメインヒロインなのか⁉
出会って5秒でゴールインしちゃうんじゃないか俺!
いや待て、まだゴールインしたくないぞ! 甘酸っぱい青春を送りたいぞ俺は!
「落ち着けハイル。ニーニャは……いや」
「はい……? どうしましたヘル様~?」
ヘルがニーニャを呼び、耳打ちをした。
苦笑いをするニーニャ。どんな顔をしていても可愛いものだ。
「わかりました。遊ぶのはいいですけど、すぐにちゃんと教えてあげてくださいね?」
「ああ。わかってる。大変に気分がいい」
何の話をしてるんだ?
ってか、『大変に気分がいい』ってセリフ……聞いたことあるぞ……。
絶対、エロゲプレイしたことあるだろ。言い方も完璧にそれだった。女装は勘弁だぞ俺は。
「じゃあ、料理をお運び致しますね!」
サービスワゴンに乗った料理をテーブルに並べていく。
最初はヘル様。次に俺。次に誰もいない空席に料理を置いた。ニーニャさんも一緒に食べるのかな?
料理はコーンのポタージュとサラダとステーキ。彩りも良く、空腹を誘う香ばしい匂い。美味しそうだ。
「ステーキとか俺の好物じゃん!」
「なんというか、あれだ。ハイルの歓迎会みたいなものだからな」
ヘルさん? ちょっと照れてる?
頬が赤くなってるじゃん。
「ありがとう、ヘル!」
素直に礼を言う俺に対し、
「ハイルくん! 作ったのはアタシだよぉ~!」
と、拗ねたように言うニーニャ。
「ニーニャもありがとう!」
「うん!」
ニーニャは声を弾ませた。
そこで再び、食堂の扉が開かれる。
「待たせた。剣の稽古を終わらせてから風呂に入っていたら遅れてしまった」
髪を後ろでまとめた金髪の女性。
ああ、窓から景色を眺めていた時に見た人だ。
身長は高めですらっとした体型。ヘル同じく、滲み出る高貴な雰囲気。シャープな輪郭で、堂々とした勇ましい面持ちをしている。ちょっときつめなツリ目がそれを強調している。
俺は一点に注目する。
でかい……巨乳だ。
彼女の着ている白いカッターシャツのボタンが、今にもはち切れそうだ。
主張がすごい。感心感心。
しかも、男装をしていてよくキャラ立ちしている。
「君がミズキ・ハイルか。初めまして。我が名はルルス・エウテュ・ラージュ。ルルスと呼び捨てにしてくれて構わない……おいどこを見ている、目を見てちゃんと話せ。お、おいどこを見てるんだ君は!」
じーっと胸を見つめる俺の頬が、バチンと叩かれる。
音はすごいがルルスは手加減をしてくれていたようで、さほど痛くはない。
「あ、ああ、すいません。ぼーっとしてただけです」
俺は見え透いた嘘をついた。
「ああ、そうか、すまない。慣れない環境に疲れているにも関わらず、いきなり叩いて申し訳ない。許せ」
ルルスは心底申し訳なさそうな顔で、俺の頬に触れ、痛みを引かせるように何度も撫でる。
仄かに伝わるルルスの体温が心地良い。
ちょっとドキドキした。
なんだろう、男っぽい態度をしているのに、どことなく女性らしさを感じる。
「あ、もう大丈夫です。ありがとうございます」
「それなら良かった。それと、敬語は外せ。ヘル様に対して敬語を使っていないのに、我が身に敬語を使うなど、ヘル様に対して失礼だ」
「わかった。よろしく、ルルス」
「よろしく、ハイル。ようこそヘルヘイムへ。心から歓迎する」
がしっと握手を交わす。
……が、手は女性らしい柔らかさが健在していた。
妙に意識してしまう。やっぱり彼女がメインヒロインか⁉
「ニーニャ、食事を頼む」
ルルスはヘルの向かいの席に座る。
「もぉ~、遅いよ~、持ってくるけどさぁ~!」
文句を言いつつ、サービスワゴンを押してニーニャは退出した。
「ヘル様、最近何か変わった様子はありましたか?」
神妙な顔で、ルルスはなにやら話し出した。
「いや、何もない。時期的にも式典がよくあるだろうから、忙しさ故に何か行動を起こすことはないだろう。ハイルを呼んだのも、この時期でやはり正解だ」
「そうですか。我が身も、稽古中に何か気配を感じることはありませんでしたが……警戒は怠らないように注意がけます」
「ああ、よろしく頼む。ハイルの身に何かあっては困る」
「おい待て。一体何の話をしてるんだ? 俺の身がどうとか……」
不安になり、二人に尋ねる。
「心配するなハイル。私の、たった一人の大切な奴隷を無くしては困る、ただそれだけの話だ」
「なんか釈然としねえなあ……」
「失礼しまぁ~す! も~、食事時にまた暗い話ぃ~? ダメだよ、ニーニャちゃんが頑張って作った料理が不味くなっちゃう!」
重苦しくなった空気を薙ぎ払うかのように、ニーニャが入室してきた。
ルルスの席までサービスワゴンを押し、料理を並べる。
「はい、今日のメニューはこれでぇ~す!」
「ニーニャ、なんで今日はステーキなんだ?」
「ハイルくんの歓迎会? だからだよ!」
「なるほど、そういうことか」
ヘルが手を合わせるのを合図に、全員手を合わせた。
日本でいう、『いただきます』的なことをこの世界でも行っているのだろう。
ちなみに俺もそれに倣う。郷に入れば郷に従え、だ。
「では、食べるとしよう。いただきます」
「いただきます」
「いっただきまぁ~す!」
「い、いただきます……ってここは日本かよ!」
俺の叫びで始まる、歓迎会。