01 俺、奴隷になります。
いきなりで申し訳ないが、ここで俺の経歴を語らせてもらいたい。
本当にいきなりだな、コイツとか思った人もいるだろうが、少し時間が欲しい。俺も混乱のあまり、切羽詰まってる。
瑞木 入。18歳。高校3年生。
小学時代、優しすぎるという理不尽な理由から、クラス全員からいじめを受ける。トラウマを抱える。
中学時代、人との関わり方がわからなくなってしまった俺は、変なノリでクラスの人に話しかけてしまい、いじめにまでは発展しなかったものの、陰でヒソヒソと悪口を言われ、嫌な空気の中3年間を過ごす。ちなみに、ここで対人恐怖症気味になる。人怖い。人の視線怖い。現実の人間を恐れるようになった俺は、二次元に現実逃避。キモオタで有名となり、さらなるお先真っ暗ルートへGO!
高校1年、恐怖心もあり、人に話しかけられない俺。友達ゼロ。なぜか固まっていく、俺以外のクラスの絆。クラス内に、一人KYなぼっちがいるということで、疎まれる存在に。今までいろんな人の表情や感情を見てきた、いや、見過ぎてきたせいで人の感情に敏感となた俺は、心理学者になれるんじゃね、やほーいとポジティブシンキングを発動しようとしたが、墓穴を掘る。その日は大泣きした。
文化祭にて、やむを得ず俺に話しかけるクラスメイトの強張る表情。クラスメイトの、俺に対してのみ下がるテンション。わかりやすいっての!
そして、クラスのヤンキーにいじめられはしないものの、面倒ごとを押し付けられるようになる。断ると怒鳴られる。ってか、それいじめだわ。普通に高校時代も苛められてたかも俺。
高校2年、教室に、前のクラスと同じ奴が結構いてクソッタレ。ハロー、シンパシー。ここで俺は不登校気味になる。
クラスの天然で世間知らずな感じの子に「君ってよく学校休むね? もしかして、やばい病気なの? 癌か何か? どうせ死ぬにしてもさ、学校来て人生エンジョイしたほうがいいよ!」……余計なお節介だ馬鹿野郎。なんで俺が学校来てないか空気でわかるだろ! あと、人生の楽しみ方をお前の尺度で測るな、俺は学校が嫌いだ学校の奴らが嫌いだ学校なんか楽しくねえ!
単位を落とすか否かのところでギリギリ進級。なんとか留年は免れた。
高校3年……もう聞き飽きただろうし、ここまでにしよう。長話聞いてくれてありがとう。
言わずもがな、同じような感じだし。
さて、本題はここから。
そんな俺が。そんな人生悲しいことだらけだった俺がだ。
今、異世界に召喚された!
召喚された地は、_中世って感じの《ファンタジーな》建物が見下ろせる高台。
視界に広がる建物は、綺麗にズラリと一直線に並んでいる。後ろを振り向くと、高々とそびえ立つ城。上空に飛空している竜。
これはあれだ。ラノベとかでよく読んだことあるシチュエーション!
俺は、興奮で心が弾けそうな感覚になる。
ラノベを読んできたからわかる。この後俺は、この世界では優遇される。
職業はきっと勇者だ。魔法も使えるに違いない。
ああ、せっかくだから、もっとかっこいい服装の時に召喚されたかったなぁ……よりによって、制服姿かよ。
だが……。
「やっとだぜ? やっと人生勝ち組に……やっと報われたんだ……」
自然と大粒の涙がこぼれ落ちる。
「はっ……」
ん?
「おい、私の城の前で泣くな。元の世界へ戻すぞ?」
背後から、突然声が聞こえ、反射的に振り返る。
編み込みの入った、長い銀髪は眩しいほどに煌めく。ツリ目で、少し気が強そうな顔立ち。瞳は透き通った碧眼で、湖を思わせる。華奢な身体だが、ラインがはっきりしている。首元には、燃えるような紅のネックレス。青を基調としたドレスを身にまとっている。年齢は俺と同じくらいか、もう少し年上って感じ。
底の高いヒールも履いてるし、Sっぽい雰囲気だな、この人。
優しい笑みを見せる彼女。
俺の頭の中は余計に『?』でいっぱいになる。
「初めまして! 俺、瑞木 入って言います! あなたの名前はなんですか?」
俺がそう言うと、彼女の顔から表情が消えて虚しさが漂った。
……ように見えた。
うん。俺の気のせいかもしれない。
だってこの人、不敵な笑みを浮かべて、
「ヘル・ブレット・シュヴァルツィアだ。少しは態度をわきまえよ、我が奴隷よ」
と、そんなことを言い出したんだから……。
「……は?」
聞き間違えかもしれない。奴隷なんてまさか。もしそうなら、俺は報われなさ過ぎる。
「今、なんて言いました?」
「いや、すまない。いきなり奴隷扱いとは失礼だった。ハイルよ。とりあえず、ここに自分の名前を署名して欲しい」
やっぱり、この人俺のこと奴隷って言ってたよ……。きっと誰かと間違えたんだな。
そして、よくわからない読解不能な文字の羅列が並んだ紙切れを一枚渡される。
一番下に、自分の名前を書き込むための空白がある。
書いたらチート的な強さが手に入るというアレだろうか。うん、書こう。
「あ、なんか書くものもらえます?」
「ほれ」
さっそく、手渡されたボールペンで名前を書いた。
待って。ボールペン? なんでボールペンがこの世界にあるんだ?
疑問が浮かび続ける中、書類に綴られた名前――瑞木 入という文字が光を帯び始める。
「ところで、ヘルさん、この紙はなんだったんですか?」
「正式に私の奴隷と認める契約書だ。契約を破れば、お前の命は自然と消滅する。強制的にお前は私の奴隷として生きるしかない」
「はああああああああああああああああ⁉」
馬鹿だ俺。わけわからない書類に署名するとか。
「なしだ! 今のなし! クーリングオフ制度を発動してやる! 確かこの制度、未成年であれば契約をなかったことにできるんだ!」
「ほう。その、空リングオブ聖堂とやらを発動してみよ。契約を帳消しにできる魔法があるのなら拝見したいものだ」
「えーと、クーリングオフ制度ってこの世界にはないみたいですね……」
「ああ、聖堂ではなく、制度、か。貴様がいた世界では、数えきれないほどの規律で国民を管理しているんだったな。面倒くさい世界で生まれたものだな、貴様も」
さっきの口振りといい、俺を異世界召喚したのはこの人で間違いなさそうだ。
「召喚して、早速俺を奴隷にしやがったアンタが言うなよ……」
「口を慎め、ハイル。貴様は正式に私の奴隷なんだぞ?」
できることなら、このまま逃げ出して異世界旅行を満喫したいものだ。
だが、契約を放棄すれば、俺は死んでしまうらしい。
奴隷として生きるしかない……これが俺らしい生き方といえば、そうなのかもしれない。
「わかりました……ヘル様の奴隷として生きます……」
これが本当の生き地獄ってか、ハハハ。
気が狂いそうだ。
「うむ、良い心がけだ。今日のところは私の城……ヘルヘイムに仕える使用人の仕事の補佐に回れ。身の回りの雑用や……そうだなぁ、私の娯楽や雑談に付き合え」
与えられた命令がなんとも奴隷らしくない。
奴隷といえば、強制労働とかそんなイメージがあるものだが……。
まさか、使用人の仕事の補佐が過酷なんだろうか。
「はい、ヘル様! 喜んでぇ!」
ちょっとした反発心で、どこぞのラーメン屋でありそうな気合を発した。
「っふ、ふふふ……なんだそれは。ふふっ、元気があって良いな」
口元に手を当て、少女のように無邪気な笑顔になるヘル。
俺は、そんな彼女に見惚れてしまった。もしかしたら、すごく優しい人なのかもしれない。
初めての投稿で、ルビとかを振るのに慣れない……。
なんかおかしいところとかありましたらすいません。後ほど修正致します。
ちなみに、クーリングオフ制度は未成年とか関係ありません。大人でもできます。
主人公が不登校気味という設定なので、あえて若干間違った解釈をさせてます。
あえてです。あえてこれにしました。別にこの小説を読んでくれた友人に注意されたからじゃありません。ありがと友人。