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二十八話 元獣は衝撃の事実を言う

描いてみたイラストをキャラクター紹介に添付したのでぜひ見てください

「殺す! 殺してやる! テメェエエエエ!」


 喉が張り裂ける口から血を吐き言葉に呪いの言霊をのせ狂気を孕ませながら、悪鬼は吼える。まかれた鎖が足を引き自由がない。腕をナイフで刺されて動きが取れない。


 力を入れればそれだけ血が周囲にまき散らされる。瞳の色は底の底まで暗闇に犯され片目など自らまき散らした血で化粧がされている。


「ああああ! 殺す! ころすぅ! テメェ! 殺してやるぁああああ!」


 それでも悪鬼は呪言を唱え続ける。ただひたすらに目の前の悪魔に、口元に笑みを浮かべた畜生に叫び続ける。足を、腕を、喉を裂きながら、傷を広げながら、自分を痛めつけながら無力な子鬼は呪い以外の全てを忘れる。


 願望は呪いに変わり、切望は殺戮に変わり、熱望は殺害に変わり、希望は殺傷に変わり、念願は虐殺に変わる。変わっていく、変えられていく、変えていく。


「貴様の! 貴様の息の根を! この手で止めてやるぁああああああああああああ!」


 ただひたすらに、墓穴を二つ用意することのできない無力な自分を呪いながら、今日もそこで、正義も善意も届かない悪意と害意を材料に作られた氷河の中で、無力な子供は呪詛を吐き散らす。


「殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す」


 他人を呪って自分すら呪う言葉を永遠に口にする。すでに呪った己の口から、さらに穢れをを含んだ呪いを血と共に吐き出し続ける。その呪いが叶うまで。






 彼は探した。彼女は捜した。彼らは捜索した。彼女達は探索した。


 男達はその足取りでありとあらゆる場所を探した。女達は町娘に扮してさりげなく探した。子供達は友達を助けたくて囮役をかってでた。


 しかし、何も証拠は出てこなかった。不法に家内に入り込むまでしたというのに、手掛かりが全くでない。


 悔し身に嘆いている時間がない。


 そうこうしているうちに演劇が終わったのか道の方からいくつもの感情が乗った声が裏道にまで響く。


 賭けに負けて悔しがる声、賭けに勝ってうれしがる声、疲労による荒い息を吐く兵士達。その中で、まだまだ余裕がありそうな声で笑うヒデの少女特有の甲高い声があちこちに響く。


「クソ、今日も駄目だったか。戻るぞ。今でも怪しいのにいつまでもいると更に怪しまれる」


「ああ」


 渋々ついていく羽目になったエギルもアシルと同じく苦虫を八匹を浦噛み締めた表情をしている。


 結局何も成果を上げることはできなかった。目撃者を探して銀貨などを渡したがガセネタが大半を占めている。壁や地面を入念に調べたが血痕なども見つけることはかなわなかった。


 悔みながらも足を動かしているとエギルの顔に光が差し込む。そして自分がいまマントを付けて目部下にフードを被っている怪しい人間となっていることに逸早く気付いたエギルはすぐにフードを外しすでに脱ぎ終わっているアシルに手渡す。


「見つかりましたか!」


 道に出た途端に死角から唐突に表れた。


 目の下に黒いペンキでも付けたと錯覚してしまいそうなほどに濃い隈。その額からは滂沱の汗が流れている。切羽詰まったその表情からは尋常じゃないほどの焦りが零れ出ている。


「……すまない」


 その男の縋るような視線に耐えかねたアシルは視線を逸らしながら、男に対しての希望を打ち砕いた。


「……いや、そうか。ありがとう」


 お礼の言葉を口にするが、そこには本来お礼に含まれている感情とは真逆の感情が、残念だという失望感に染められている。


 男はそれだけ言うとまたその場から離れていく。アシルはその様子に見かね声をかけようとするも、寸前で声をかけるのを止め、ただ離れていく小さな背中を眺めるだけだった。


「あれは誰だ?」


「……あいつは……いなくなった子供の父親だ」


 その一言ですべてを理解したエギルは視線を去っていた男に向ける。


「あいつは、何日も何日も探してる。休めって言っても聞かない。任せろと言っても休もうとしない。睡眠も不十分、食べ物は喉を通らない。水も飲んじゃいない。きっと、一度でも横になれば気を失うだろう。だからあいつは休まない」


 独白のように語っているアシルを促すようにエギルは口を取出しひたすらに一人の父親という者の客観意見に耳を傾ける。


「休んでいる時に自分の娘が死んでしまうかもしれない。寝ている間に娘が犯されているかもしれない。食事をしている間に娘は餓死しているかもしれない。頭の中で不安がよぎる。この不安を取り除く為だったらなんだってする……そう、あいつは言っていた」


 小さくなった体に鞭を打ちながら探しに出た者達に藁をも縋る勢いで迫っている。


 あそこまでするものなのか、父親という者は。


 エギルは、国王である父を持っている。第一王子ルーク・フォン・ブルーノは、今見ている男の姿に自らの生みの親である父親を重ねた。


 自分はヒデに拉致されていると周囲に認知されている身。このことを知っているのはあの場にいた者は誰一人いないことだろう。つまり、自分は今この街で起きている犯罪と全く同じ現状ということになる。


 ならばと、一人の息子は想像する。


 ならば、私の父であるアゼルバルド・フォン・ブルーノは、私の事をあそこまで心配してくれているのだろうかと。











 模擬戦という名の演劇が終わり、兵士達はその場に座り込んみ、ヒデは仲間であるリル達から頭を撫でられている。


「いや~今回こそ行けると思ったんだけどなぁ」


「勝てる気がしねぇよ。何あれ? 武器ってあんな感じに使うんだっけ?」


「違ぇよ。あんなん曲芸師にも無理だわ」


 兵士達の会話から今回はヒデが勝利を収めたということなのだろう。ヒデが無傷に対して兵士は所々に擦り傷などが目立っている。


 演劇を見ていた観衆達は賭けた金を払ったか受け取ったかをした後なのかもうこの場にはおらず、さっきまでの喧騒は鳴りを潜めいつも通り冷め過ぎずちょうどいい温さの温度となっている。


「どうだったかね?」


 横から渋めの声音が聞こえてくる。そちらに視線をやると無精髭を生やし貫禄のある顔立ちをしている男が立っていた。緑に金色の意図で組合の看板である盾と剣と弓が重なった文様が刺繍されてある服を身に纏ている。更には黒い眼鏡までかけている。


「副長。すいません。見つけられることは出来ませんでした」


「そうか、本当ならすぐに招集をかけたいところだが、極秘だからな。一人ずつ聞いていくのはさすがにしんどいな」


「娘達からの情報は?」


「特にない。まったく、いったいどこに隠れているのだ」


 二人はそろって悲痛な表情を浮かべる。まるで自分の怨敵を探しているかのようにさえ思えてしまうほどにその表情からはいくつもの感情が読み取れる。


「……あっ、おうじ、じゃなくて、エギル見っけ!」


 そんな中場違いなほどに明るい声が道中に響き渡る。


 発生源を見ることなくわかるが、エギルが視線を向けるとそこには案の定ヒデがエギルに大きく手を振っている。


 気のせいか一瞬周りから殺意のような者が飛んできた気がしたが、すぐに頭を振り勘違いだと自分に言い聞かせる。


 実はこの時にもヒデの雄姿を記憶にとどめようと【青友会】の者達が多数いる、実はその者達が兵士を見張っていた物でもある。


 【青友会】の者達は観衆がいなくなった後もさりげなくヒデの姿を視界に入れ、ヒデに話しかけているリルや兵士に殺意をまき散らしていたのだ。そこにヒデが大声で男の名前を予備、その仕草からかなり親密な関係なのではないかと考えたそれらは意思疎通をしたかのように同時にエギルに死線を送っていたのだ。


「ねぇねぇ、どんな気持ち? かっこよく出て行ったのに実はそれは善行で、かっこよく女の子のために頑張ろうとしたら実は演劇で、締まらないよねぇ? ねぇねぇ、教えてよぉ? あの時、いったいどんなこと思ってたのかなぁ?」


 低姿勢で下から覗き込むようにしているヒデの顔はニヤニヤと笑っている。逆にエギルは顔に笑みこそ張り付けているがそれは苦笑であり、内心は羞恥と苛立ちの二色に染まっている。


「は~い、皆さん。まかない食ですよぉ」


「おぉ~気が利くなぁ」


 大量の兵士がいる場所に一人の白いエプロンを着た男性が一目で肉やだと分かるような串肉を籠の中に入れて立っていた。


 今は昼時、ちょうど小腹がすく時間帯であり、兵士達は動いた後のために更に腹をすかしている。そこを狙ってくるあの男性はよく考えている。


「あ、ちゃんとお金は取りますからねぇ」


「えぇ~ちょっとおやっさん。それまかないって言わないんじゃないか?」


「何言ってんだ。タダより怖いものはないって言うだろう?」


「はっ、違げぇねぇ。ああ、俺は二本くれ」


「まいどどうも」


 一人の兵士が串肉を二本購入するのを皮切りに次々と注文が入る。その状況を見たほかの屋台の店主達が我先にと商品を籠に入れ大声を出しながら客を呼び寄せ始めた。


 肉に魚、お菓子など様々な匂いが大通りを占める。小さな子供が小腹を透かせてそこを通れば匂いに釣られてやってくる。そして子供と共に大人も来る。まさに設け時と考え店主達は笑顔で子供を呼びつける。


「しっかし、ヒデは強ぇなぁ」


「えへへ」


 ヒデの背後から現れたギデは頭二つ分小さいヒデの頭を無造作に撫でまわす。武骨で優しさに溢れた行為にヒデは髪の毛を乱されながらも微笑ましい笑みを浮かべている。


「ヒデさん。曲芸師に転職しますか? きっと儲かりますよ?」


「でも、それだと私達と離れ離れね。なに? エルはヒデと離れたいの?」


「違うに決まってるじゃないですか!」


 本気で言っていないことを分かっていながらレティはエルを意地悪な笑みを浮かべながら冗談を言い、エルは憤慨したと言わんばかりに顔をわざとらしくこわばらせている。


「なんだ。珍しいじゃないかヒデ。料理に飛びつかないなんて」


 その二人の後ろからリーダーであるリルが酒のつまみに出されるような以下を咀嚼しながら近寄ってきた。


「ム、珍しいとは何よ。いつ食べるかは私の自由よ」


「違いない」


「……あ、そうだリル。聞きたいことがあるんだけど」


「お、何だ?」


 咀嚼していたつまみを嚥下したリルは視線をヒデに向ける。リルがこちらを向いたことを確認したヒデは宴会のようになっている大通りを指さす。


「あれはいいの?」


「あれって、何かあるのか?」


 そこにあるのはみんなが美味しそうに肉や魚や菓子を頬張っている現場しか存在しない。少なくともリルにはそうとしか見えない。しかし、ヒデの目からは疑問の雰囲気が払拭されない。


「皆、お肉食べてるよ?」


「何言ってんだヒデ? お前だって肉は食うだろうが?」


 全くの予想外の返答にギデが疑問を投げかける。


 肉を食うことに疑問を持つのであれば元獣であるヒデの食生活のほぼ全てに疑問が産まれてしまう。そんな単純なことに気づかないヒデではないと、その場の者達は思う。


 しかし、リル達は願った。あれだけ必死に常識を教えたのだから身についてもらわなければ困る。


「だってリル達が言ったんだよ? あのお肉は食べちゃ駄目だって」


 しかし、ヒデの次の言葉に懇願していたリル達は途端に頭の中に疑問が産まれる。肉は食べてはいけないと言った記憶はない。


 お金を払っていない商品は食べてはいけないとは教えたが、お金を払えばその商品を購入でき、それからならば食べることはできるとは教えた。


 その事をもしかして忘れてしまったための質問なのかと逸早く思い至ったレティは口を開こうとするが、次の言葉に口を閉ざされた。


「あれ、人間のお肉(・・・・・)だよ?」

これからシリアスが続きます……たぶん

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