二十五話 元獣は開演する
今日初めてPVというものを知りました。
そこを見ると、8000PV、ユニークが1700でした!
読んでくれた皆さんに感謝です!
武器は持っていない。無手の戦闘が得意なわけではない。対多数の戦闘に慣れているわけでもない。例え、一対一で戦ったとしても勝てないということは理解している。この中の誰一人、勝てる存在はいないことは今まで培ってきた知識で、そして生物に宿る本能でもわかる。
それでも、エギルは、第一王子ルーク・フォン・ブルーノは今目の前で起きていることは決して正しいことではない。王族として、人として見逃すことはやってはいけないと、わかっている。
視線を鋭くし、兵士の訓練を見て覚えた見よう見真似の構えをとる。
「……」
しかし、冒険者は見な動くことはない。驕っているわけでも、慢心しているわけでもない。相手の力量を計れているからこそ敵意に対してなにも抱いていないのだ。
その事に分かっているエギルは歯をギリッとくいしばる。
「……クク……」
どこからともなく低い笑い声が聞こえてくる。
「ククク……アッハハハッハ!」
小さな零れ日で決壊したのか、その場に作られた暗雲な空気を笑いの波が埋め尽くし、それを見事になかったことにした。
今までの空気は何だったのか、エギルは呆気にとられせっかく真似ることができた構えを崩し、だらしなく口が開いたままになっている。
「あぁ、笑った笑った。ま~だいたんだな、お前みたいな奴」
腹を抱えて笑い過ぎたために瞳から出てきた涙を流しながらエギルに最初に話しかけてきた冒険者が再び話を始める。
「少年。勇気を張るのは結構だ。それは人として正しい。だけどな……俺達も、今からその正しいことをするんだぜ」
「……? 何を言って……」
「そこに名折れこの悪党!」
疑問ばかりが産まれるのを良しとしなかったエギルはすぐさまエギルに疑問をぶつけようと声を発したが、続きを言う前に迫力のある大声が路地裏内、さらに街道や家の中にまで響き、エギルの質問の邪魔をした。
「だ、誰!? 誰だい!?」
最初にいつも通りの可愛らしい声音が出たがすぐに女盗賊のような口調に変更する火でだが、エギルは若干遅い気がすると、困惑しか飛び込んでこない現状で現実逃避をするかのように考えていた。
「私はこの街を収めている領主様につかえている兵である! そこの悪党! すぐに今持っているカードを彼女に返すのだ!」
声の主は自ら領主の私兵であることを大声で告げる。
ここまで大声で発しているあいつ馬鹿なのではないか。いや、馬鹿だ。エギルは客観的視点から覚めた意見を思いつくが、口には出していない。
ヒデが兵士の男を見やると鼻で笑って見せた。
「ハッ! やだね! せっかく手に入れた金狡さ! 逃してたまるもんか!」
「そうか、なら仕方がない」
拒絶の意思を見せると兵士は懐からオレンジ色のカードを取り出し上に掲げる。冒険者のカードにも、衛兵を示すカードにもオレンジのカードは存在しない。その事にエギルは首を掲げていると、兵士は親指でカードに備え付けてある小さなボタンを押した。
すると、カードから耳を塞ぎたくなるほどのサイレンが鳴る。耳のいいヒデは余計にうるさく感じたのか、耳を抑える。しかし、抑えている個所が何故か頭の上である。
ヒデは普段見え失くしてはいあるが本来耳があるのは動物の耳であるために頭の上にある。しかし、周りからは見えないためにうるさい音が鳴ると耳を抑えず頭を押さえている変わり者として見られてしまっている。
「ここは私達の街だ。治安維持は私達の仕事。だから、治安を悪化させる行為は私達が許さん」
兵士が言い切ると同時に音が鳴り止む。さらに、鳴りやむと何処からともなく人が現れる。道の先から、物の陰から、箱の中から、屋根の上から、家の中から、続々と人が集まりだした。
その者達は全てカードを持っている兵士のように鎧を纏ってはいない。もしも住民達が行かう道にまぎれれば分からなくなる、まさに一般人と言った服装をしている者ばかりが集まっている。
「この街には覆面兵士が多数存在している。 このカードは異変があればすぐにその者達に伝えられるアイテムだ。もうすでにここで異変が起きていることは全員に伝わっている。もう逃げられないぞ」
「あっそ。すっごいアイテムね。でも、私がお前ら全員倒せば意味ないでしょ!」
言い終わるないなや、ヒデはその場で壁に向かって跳躍し狭い路地裏の左右の壁を蹴って移動し、路地裏を出る。
着地した場所は道の真ん中。顔を伏せていた顔を上げ、右手を上げ、左手を上げながら、ヒデはにこやかに笑う。
「これより、か弱い女の子のカードを奪った悪役ヒデと、貧弱兵士との対決を行いまーす!」
「ちょっとまてぇ! 誰が貧弱だ誰が!」
劇の宣伝を行うように声高らかに宣言するヒデに対し、現れていた兵士達は口を揃えて異を唱えた。この行為が当たり前化のようにその場に居合わせた住民達からは笑いの歓声が響き渡る。
「さぁ、開幕だ! さぁさぁ、開演だ! これより、一幕の敗北劇を始める! 敗れるのは一人の惡か、多数の正義か! 観客は諸君で、主役は私達! 絶対の敗北を迎えるのはどちらか、お見せしましょう!」
先ほどとは比べられないほどの歓声。歓声が歓声を呑み込み更なる爆音を街中にとどろかせる。
演技じみた声音を吐き、演技じみた仕草をしながら、周りを取り囲む善良なる人間達に愛想を振りまく看板娘のように挨拶を行う。
それを傍から終始観察していたのはエギル。
「なんだこれ?」
もはや口癖になりかけてきてしまった言葉を口にする。王族の威厳も権威もこうなってしまえば形無しである。本物であるのに本物のように見えなくなってきてしまっている。贋作もいいところだろう。
「何って、劇だよ劇。人を引き付けるのはいつだって娯楽だろう?」
そんな中、爆笑していた冒険者の一人がエギルの抱く箔に答え、その回答ですべてを理解した。してしまった。
全てはで演技、全ては演戯。つまりは嘘で、つまりは偽りで。ということは騙されたわけで、ということは嵌められたわけで。
それを知ってしまったエギルは、唖然とする。
なにあの演技力。どこでならった、いや、なんでそんなことをする必要がある。前もって何か言ってくれよ。つまり、私は大恥をかいたということなのか。
どこからが劇なのか冒険者があの時爆笑したことですでに分かっている。劇の始まりは組合内で少女が三人に囲まれた時から。誰も反応しなかったのはみんな知っていたから。
つまり、誰も知っている中で一人知らず啖呵を切ってしまったのだと、エギルが頭の中でその場面を思いだすと、羞恥に顔を染めた。
この二日で心を揺さぶられること数十回、唖然とされることも数多。流石に慣れたと思っていたが、まだまだみたいだ。
「さ~ってと、俺達も仕事をするか」
「そうだな」
「私の担当は向こうだったわね」
しばらくするとその場に居合わせていた冒険者たちはそれぞれ行く場所があらかじめ決めて合ったのか、一人ひとり別々の場所へと向かっていく。
「え? お前達も演劇をするのではないのか?」
ヒデの台本は言っていた。主役は私達であると。その達には兵士が含まれているのだから、自分の周りにいるこの冒険者達も含まれている者だとばかりにエギルは思っていた。
「ああ、違う違う。俺達には俺達の仕事があんだよ。あ、ちょうどいい。お前も手伝え」
「は? いや、何を言って……っておい! 腕を引っ張るな! 分かった! 分かったから引きずろうとするな!」
抵抗しているとさらに力を入れてきた。流石は冒険者、力は一般人や体力的に弱い子供の力などいにも返さず、強引に腕を引いてくるため、バランスを崩し危うく本当に引きずられそうになった。それを回避するために、エギルは渋々冒険者についていく。
屈強な戦士に温和な場所で暮らしてきた王族との力の沢歴然であり、エギルの逃れるすべはない。
戦闘まで行かなかった……
次には、次には必ず……