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二十四話 元獣は悪役である

一週間ぶりに更新できました!

「いいか? 冒険者じゃなくても人を疑うことを覚えろ」


「人を信じるってことはそれだけお前が優しいってことで、美徳でもある」


「だがなぁ、もし俺達が良からぬことを考えるような奴らだったらお前は今頃想像しているだけ出ぬなクソ悪いようなことをされていたところなんだぜ?」


 三人が言っていることはすべて正しい。


 この世の中には嘘や偽りが木の根のように蔓延り、根付いている。その嘘偽りは文明を発展させ言語という文化を作り出した人間だからこそできる芸当であり、言葉を操るものにのみ許された力であり、自分を守るための手段でもある。


 また、嘘偽りがあるように真実もある。自分を守るためにそれを見極める力は、責任がすべて自分に降りかかる冒険者が有さなければならないものの一つである。


「う~……でも~、私は冒険がしたいんですよぉ~」


「なら、まずは人を疑うことを覚えろ。それができるようになったら返してやる」


「う~」


 納得がいっていないのか少女は涙目になりながら必死に下から男達を睨み付けるが、残念なことにその可愛らしい容姿のせいで全く睨んでいるようには見えない。むしろ、好きな玩具がとられて涙を流したいのを必死に堪えている子供に見えてしまう。


「え~、何この状況? え、なに? 間違ってた? 私が間違ってたのか?」


 人間として、善人側である一人の模範的な非凡で普通な人間として考えてから行動していたはずである。しかし、来てみればそこには考えていたような惨事などは起こってはおらず、しかも惨事を起こそうとしていると思っていた三人はかなりの善人であった。


 確かにあの笑顔の裏にあった下衆な笑みを幻視した。しかし、あれは心底心配している顔にしか見えない。


「お、いたいた~勇敢な少年」


 そこには冒険者組合の中にいた一人の厳つい男が笑みを刻んだ口に煙草を含み、手を振りながらエギルに近づいていく。その後ろに更に組合の中にいた者達が群れを成している。料理を食べていた者がまだ食べ終わっていないのか片手で器を持ち歩きながら食べている者、酒を飲んでいる者、酔っ払い同士が愚痴を言い合っている者と様々居る。


 バラバラなことをしている者達にある一つだけの共通点。皆が全員こちらに集まってきている。


「え~、私は、何かしたか? いや、何もしていないはずだ。思い出せ……私は何をしてきたかを……!」


 もしかしたら知らないうちに内科冒険者全員を激怒させるようなことをしでかしてしまったのではないかと推測したエギルは、今まで王族としての英才教育によって培った頭脳をフル活用して自らの失敗を思い返す。


「……」


 思い出すのは英才教育中に問題を間違えたために長い間間違えた場所を二度と間違えないように繰り返し説かされた時のこと、武術を学ぶ為にエルクに何度も真剣で挑まされその度に地面に這い蹲る思い感覚を体験させられた。


 商人の心得を学ぶたびに対話術を商人と会話することで会得しようとした。しかし、実際に来たのは詐欺師。商人と詐欺師を見分けられず商談した結果、見事に何の価値もない者を売られてしまい、再び長い説教を頂く羽目になった。


 そして最後には存在自体知らないような村に強制移動。ほとんど拉致の域であることをされたばかりである。


「おう……」


 まったく今関係のないこと、しかも悪いことばかりを思い返してしまったために、エギルは一人勝手に顔を悪くして膝を折り両手を地面につけて四つん這いの状態となった。


 世界は普段と変わらない陽気さに包まれている。しかし、エギルの体からは悲哀のような暗い靄が醸し出されている。


「おい、大丈夫か?」


「え……ええ、何とか、ガク……」


 あまりの記憶に未だに気分が晴れないエギルは心配をして声をかけた冒険者に対して一度顔を上げたが、首を支える力を失ったのか再び地面を見つめる形となる。


「なあ、お前他所もんか?」


「え? おう……いや、ここから少し遠くから来たんだ」


 唐突に話を振られた話題に一瞬本当のことを言ってしまいそうになったがそれを唾と共に呑み込むことに成功した。


 王都から来たと言えば言いわけがしずらくなる。自慢話ではなく、王都は大抵の物は揃うということが噂されるほどの大都市であり、今ではそれを誠にすることが可能となる街。それが首都【アリステイル】である。


 ここで本当のことを言えば何故こんな街に来たのか、という疑問が産まれる。その疑問を回答としてもし、変えなかった物を買う為と言えば、王都では揃わないものがあったということになってしまう。


 首都を作り底に住んでいる王族としてそれは遺憾である。そのために、エギルは目の前の厳つい冒険者の疑問に差支えのない回答をした。


「そうか、なら仕方ねぇか」


「……何がだ?」


「ああ、実はこれから……いや、見た方が速いだろう」


「……?」


「ハ~ッハッハッハ!」


 冒険者が何を言おうとしたのか聞こうとしたエギルに答えを教えるかのようにどこからともなく高笑いする声が聞こえてくる。


 甲高く可愛らしい声音をしているが、どこかの演劇に出てくる悪役のように聞こえる。しかも、その声音はさっきまで聞いていたはずの声だと気づいたときには、エギルはその声の発せられている場所を見つめていた。


「お前達、ご苦労だったな! これでまた一つ私の手に揺するネタが手に入った! しかもその相手はまだまだ成長段階の若草ではないか!」


 屋根の上、風に青空で染めた髪を撫でさせながら、傲岸不遜な口調で、目を吊り上げ口に笑みを刻んでいるヒデは、文字通り上から見下ろしながら、自らの部下三人を労い、その結果に歓喜している。


「よっ!」


 屋根の上から身軽に飛び降りたヒデはいつもと変わらないように見えたが、そのが後ろで一つにまとめられている。


「ふごっ!」


「あがっ!」


 ヒデは着地すると同時に三人を吹き飛ばし、白いカードを手中に収めた。


「あ、ありがとう……ございます? あの、折角助けてくれたところ悪いのですが、その人達は……あの、悪い人ではないというか……なんというか……」


 少女は三人が悪人ではなかったことは分かっているために、お礼の言葉はしどろもどろしている。確かに、カードを取られたのは恨めしいことだが、それは自分の危機管理能力が足りなかったためだと分かっているために、少女は三人が痛めつけられても嬉しくはなかった。


 白いカードを見つめていたヒデは、説明をしている少女に目をやると口をニヤけさせる。


「さて、お嬢ちゃん。こいつらが、このカードを組合に渡すと言っていたみたいだが、あれは嘘さ」


「えぇ!? そうなんですか!?」


 そこで信じるのか、とエギルはつい突っ込みたくなった。


「ああ、このカードはな、組合ではなく、私が頂く」


 極上の笑みを浮かべてヒデは少女に真っ白なカードを見せつける。

 エギルは耳を疑った。


 ヒデがあの三人を吹き飛ばしたのはカードを取り返してやるためなのかと思っていた。


 実際はあの三人は言葉をすべて信じれば善人。だが、ヒデはそれを知らない。状況から見れば、カツアゲをされている現場にも見える。そのため、エギルはヒデは慈善で行動したのかと思っていた。


 あの明るく優しさに満ちたような笑顔ができるヒデが、まさかそんなことを言うとは、エギルはつゆほどにも思っていなかった。


 故にエギルは何度も何度も先ほどヒデが言った言葉を思い返すが、違う言葉に聞こえることはない。


「しかし、残念だったねぇ。君、冒険者になりたかったんだろう? でも、カードがなければ冒険者じゃない。カードは一人につき一つしか配布されない。そのための認証記録もしっかり組合に保管されている」


「ああ、このカードは私が頂く。しかし、残念だったねぇ。君、冒険者になりたかったんだろう? でも、カードがなければ冒険者じゃない。カードは一人につき一つしか配布されない。そのための認証記録もしっかり組合に保管されている」


 冒険者登録をした記録は支部でした場合すぐさま本部へと連絡がいくようになっており、本部の方で冒険者の存在は一括管理されている。


 カードはその者が冒険者であるという証拠として機能する。それをいくつも作ることになれば同じ人間が複数存在するという事態が発生する。


「再発行するならしてもいいよ。いやぁ、残念だねぇこんな早く再発行だなんて。これは信頼され無くなるねぇ」


 カードは一人一枚と決まっている。ただし、再発行の場合は記録に再発行を行ったことも記載される。


 冒険者は責任は自分に返ってくる。商人や一般人の依頼で荷物を配達する仕事をこなすこともある。それらは信頼こそが重要であり、絶対。信頼が高ければ依頼を受ける頻度も重要度も高くなる。


「か、返してください! それがないと、依頼ができないんですよぉ!」


 初心者の場合、その者が信頼に足るものかどうかは分からなくなる。そのため、初心者である冒険者が一番最初にしなければならないのは、カードを死守すること。


 カードは依頼を受ける際と完了を報告する際に必要不可欠の代物である。故に、もしカードがなければ依頼をこなすことはできなくなる。


「ああ、言っておくけど他の冒険者に助けを求めても無駄だよ。冒険者同士の諍いは組合は認知しないし、それにもしそんなことをしたら今すぐこのカードをバラバラにしてあげるよ」


「そ、そんなぁ~……な、なんでもしますから、だ、だから、か、返して、ください……」


 瞳に涙を溜めながら必死に上目遣いで懇願する少女を見て、ヒデはわざとらしく悩むふりをする。真っ白のカードを見せびらかすように放り投げて受け取るという行動を繰り返し行っている。


「う~んそうだねぇ……」


 投げるのを止めると、ヒデはニヤついた笑みを浮かべた。


「百枚」


「え?」


「金貨百枚。それで手を打ってあげるよ」


 金貨一枚で銀貨百枚分の価値がある。


 一般人が一年生活するのに金貨一枚あれば十分可能である。それが百枚ということは、慎ましく生きれば十分人生をまっとうすることができる金額である。


「む、無理に決まってるじゃないですか! そんな大金、内から出せるわけ……」


「なに、別にそんな大金をそのまま渡せって言っているわけじゃない」


 そういうとヒデは少女に顔を近づける。お互いの姿が相手の瞳に映っていることが分かるぐらいにまで近づいたため、少女はヒデが放つ威圧感で震えている。


「あんのその体で払ってくれれば、それでいいのさ」


 優しく、まるで聖職者が迷える子羊に道筋を与えるかのような慈愛に籠った声で発する。その裏に悪魔が宿っていることなど分からないほどの優しい声音。


 それが逆に恐ろしくてしかたがない。


 少女はさらに震え、顔を青くする。


「クク……ククク、アッハッハハハハ!」


 面白くなってきたとばかりにヒデは少女を嘲笑する。


 その姿を見ていたエギルは、頭に血が上るのを実感した。握っている拳に力が入り、歯を痛めかねないほどに力を入れる。


「待て」


 今すぐにヒデに飛びかかろうとして、エギルは近くにいたあの厳つい冒険者に肩を引かれ、飛び出すことを阻止された。


「ここにいろ」


「……ふざけろよ、守銭奴ども」


 呆れを通り越して笑えて来るほどの金の亡者に対して、エギルの声音は見下すような暗さと、笑えるほどの冷たさを内包していた。


「この状況で黙っていろだと? 傍観していろだと? 笑わせるなよ欲望の怪物が。助けられる命を助けないのは怠け者だ。あんな悲哀に満ちた者を見てもなんとも思わない奴は……助けてやりたいと微塵も思わない奴は……もう、人間じゃない。お前達は人間じゃない」


 振り返り、何十人もいる冒険者に対して、路地裏に視線を向けるだけで何も感じないかのように通り過ぎていく一般人に対して、エギルは嘲笑混じりの声を冷然に言う。


「冷血で冷酷で冷淡で薄情で澆薄な者共よ。貴様達は人間でいることをすでに止めている。潔く討伐依頼に名を記せ。本物の人間がお前達を狩ってやる、亡者ども」

王子様かっこいいですねぇ


今回、悪役ヒデ登場です。

どうでしたかねぇ?

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