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二十三話 元獣はテンプレと再会する

やっと120pt超えました!

評価やブックマークしてくれた読者様方、ありがとうございます!

目先の目標である200までまだまだ遠い……


 ある日、ある時の誰もが寝静まった静寂の時間。


「ふんふん、ふふ~ん」


 暗い闇夜で月も見えない部屋の中、意図で操られるマリオネットのように踊る人影。誰かに見せつけるように見て楽しんでもらうかのように舞う。鼻歌を部屋中に響かせながら、反響する鼻歌を背景に、彼女は自ら主人公を演じる。


 この部屋には彼女しかいない。彼女以外の生者はいない。生者はいない。何故なら、彼女が舞う部屋の隅には何者かの肉だけが置かれていた。


 人間の肉なのか、獣の肉なのか、亜獣の肉なのか、元々が何だったのか分からないが、それは片隅に安置されている。そんな中で、肉塊が見ている中で、彼女は楽しそうに踊る。


「ふんふ~んっと……こんなものかな?」


 そうね、それぐらいでいいわ。ありがとう。


 今まで踊っていた場所の床を見て独り言のようにつぶやいた彼女の言葉に返答する声。

 それは声と言っていいのかさえ分からないほどに暗く冷え切った音。温かみも一欠けらの優しさも嬉しさも含まれない生者が出すことすらできないだろう枯れた声音。


「いいよ別に。ある人間が言ってたもん。困っている人がいたらできる限り助けてあげなさいって」

 そう。その人には感謝しないとね。


 恐ろしさを孕んだ声を聴いて、彼女はそれでも笑顔を返す。周りには誰も居らず、声もどこから届いたかすらわからない。だが、彼女はその誰かと会話をする。


 友人と話すように、親族と語り合うように、旧友と昔話に花を咲かすように、まるで、生者と会話をしているかのように、彼女は話し相手になっている。


「それじゃあね。抜け出したのがバレたらうるさいからね」


 ありがとう。私の探し物に手伝ってもらって。あと、このことは内緒よ。


「うん、内緒。ここでやったこともここで誰と会ったのかも、全部内緒。分かってるよ」


 人差し指を立てて口へ持っていくと彼女はある一点に向けて視線を向ける。そこには誰もいない。だが、誰かがいた。


 体を持たず、生者ではない何か達が彼女に微笑みかける。


「それに、この部屋って来たことがないはずなのに、すごく痛いの。体は痛くないのに、なんだか痛いの。だから、あんまりここにはいたくないの。だから、もう行くね」


 傷一つついていない肌に手を置くと、体が寒くないのに震えていることに彼女は気づき、更に困惑する。ここにいたくないという感情が赴くままに彼女は来た道を遡ろうとする。


「じゃあね」


 最後に別れの言葉を述べると、彼女は一人その場から立ち去った。


 残ったのは酷くこべりついた死の香り。残留したのは憎しみと痛み。気が狂いそうになるほどの痛みの記憶。そして、彼女が残した痛みを持つ者達の手助けをした証だけ。













この街に来てヒデが起こした最初の諍いの原因となった三人が小さな女の子を囲っている。いかにも魔法使いということを主張するかのような大きな黒い帽子にマントを羽織った少女は、その手には先ほど受け取ったばかりだと思われる白のカードがある。


 巨体の三人に囲まれているというのに少女は何も恐がった様子がない。


 もしかしたら、とんでもない力を隠し持っているのかもしれない。


「お嬢ちゃん。俺達がこの組合の事を詳しく教えてあげよう」


「本当ですか! わぁ! ありがとうございますぅ」


 違った。とんでもない馬鹿だった。


「よし、ならここは人がたくさん来るから外に行こうか」


「は~い、わかりましたぁ!」


 厳つい男達を何の疑いもなく少女は終始笑みを浮かべながらついていく。その間誰も彼らと彼女を見ることはなく、三人は悠々と誰にも邪魔される事無く少女を連れて組合の扉を開けて外へと出て行った。


 また、四人が出て行った扉を見る者も組合に所属している者達は誰も視ない。たった一人、食事をするためだけに組合に入っていた冒険者ではなく、更にこの街に一日も滞在していないエギルを除いて。


「おい、あれほっとおいてもいいのか?」


「ん? 何が?」


「何がじゃない!」


 エギルは怒号を発しながら立ち上がり、机に両手を力強く叩いた。立ち上がった衝撃で椅子が後ろに倒れた音と相まって組合の中で一際は大きな音が響きその音に引き付けられた組合の中にいる者達は一斉に立っているエギルを見た。


「お前達は何とも思わないのか! あの三人の笑みを見ただろう!」


 エギルの言う通り、少女を誘った一人の男の顔には街の中にいる店の店主のような優しそうな笑みが張り付いていた。しかし、日ごろ人の裏までを見透かさなければ生きていくことができないドロドロとした泥沼のようななかで生き続けてきた王族は、その薄っぺらい笑みの裏を見据えていた。


 少女の死角にいた二人の男は話しかけた男のような笑みが張り付いてはおらず、下ひた笑みを浮かべていた。誰がどう見てもよからぬことを考えている笑みだった。


「あの女性は恐らく今登録したばかりなんだろう!? 初心者はまだ世間を知らない、なら! 熟練の冒険者達はなぜ助けようとしない!」


 世間知らずの少女がこれからどんなことをされるのか大体の予想はできるはずなのに誰も手を貸す者はいない。そのことにエギルは憤怒している。


「冒険者は自由だ。その自由は自分で勝ち取って手に入れるものだ。彼女が未熟だろうが何だろうが、冒険者になったからには責任は全て当事者にいく。そんな覚悟もなしに冒険者になろうとすることが自体が間違っているだよ」


 子供を諭すような口ぶりでリルは肘を机に付けて両手で口元を隠している。


「……じゃあヒデはどうなんだ?」


「ヒデが冒険者に登録する前に俺がしっかりと説明している。ヒデは俺の話を聞いて自分で判断して登録したんだ。勿論、それ以外の道も教えた。だが、結局ヒデは冒険者を選んだ」


 ヒデとリルが初めて組合に行った時、組合内でのルールを教えるとともに別の道もヒデに教えた。


 冒険者稼業以外してこなかったリルには冒険者以外の職業をあまり詳しく教えることはできなかった。しかし、できるだけの情報、今まで見てきた受付の人達や食材や魔道具、武器などを売る店の店主などを今までずっと見てきたリルはできる限り、まだ人の世界が良く分かっていなかった頃のヒデに分かりやすくできるだけ丁寧に教えた。


 その時だけではなく、冒険者になって数か月いろいろな店を手伝わせ、実体験してもらった後でもう一度聞いた。


 それでもヒデは冒険者を選び、こうしてリル達と共にいる。


「この仕事の利益と不利益を理解し、他の仕事の事も実体験した上で冒険者になった。他人に強制されたならともかく、自分で選んで決めたんだ。誰も文句は言わないし、また助けもしない。これは冒険者だけじゃなく、人間全員に言えることだ」


「あ、じゃあ私には言えないんだね」


「言えるわ、馬鹿」


 真剣な表情で話していたエリルの横からいつものように笑っていないヒデが茶々を入れる。


 ヒデは最初に組合に来る前に言われた約束事、中では大人しくしているということをしっかりと今現在でも守っている。


 普段は明るく落ち着きのない太陽な雰囲気を纏うヒデ。しかし、ここでは普段見慣れない大人しいヒデが見られるということでヒデが昼食夕食時に来る時は【青友会】の館員たちで席が埋め尽くされ組合はもうかって万々歳となっているが、そのことに当人は気づいていない。


 勿論、視線に敏感なレティは気づいているが、あらかじめ組合から本人には内密にするよう懇願され、更に一人だけ特別に資金も出されているのでレティは何も喋らない。


 ギデとエル、それにリルは殺気や敵意には敏感に反応するが、視線などの類は完治に優れていないために気づくことができない。


「だから、お前は何もするな。しても何もできることはない」


「……見損なったぞ」


 怒りを露わにしながら悪態をつくとエギルはリル達に背を向け、四人が出て行った扉へと歩みを進めるその途中で振り返りさっきまで一緒にいた五人を睨みつける。


「見損なったぞ冒険者共! 貴様等はそうやって人を助けるという善意を放棄するのか! 金が払われなければ何もする気がおきんのか! この守銭奴どもめ! 人の皮を被った欲望共めが!」


 大声で叫べば誰もがそこに注視する。受付にいる女性も酒を飲んでいた男も、料理を運んでいた店員も、組合の前を通りすがった一般市民さえも誰もがエギルを見やる。


 だが、エギルはそれらのいくつもの視線を受けるのは慣れている。そのため視線を受けるのは当たり前であるために全く気にすることなく、大人数いる前で堂々と歩き組合の扉を開け外に飛び出る。


「ちっ! どこ行った!」


 外に飛び出たエギルは外を見渡す。あれから少しばかりの時間が経過しているため遠くに行っているかもしれないが、組合の周りには屋台があるために人気がある。よって、この場で攫うことはできない。


 なら友人のように和気藹々としてともに歩けばいい。歩いているのならまだ遠くに行っていないはず。そう思い左右の奥の奥まで覗き込み、あの特徴的な黒い帽子を探す。


 探しても探しても見つからない。走っても走っても手掛かりの一つも見当たらないことに焦燥感がこみあげてくるが、汗とともにそれらを洗い流す。


「あの! この辺で黒くて大きな帽子を被っていた女の子を見ませんでしたか?」


 一向に見つからなかったために人目に頼ることにしたエギルは街中を歩いていた一人の女性に声をかけた。


「女の子? いいえ、見てないわ」


「そうですか、ありがとうございました」


 答えを聞くとすぐにお礼を言ったエギルはすぐさまその場から立ち去った。


「……もしかして女の子がいなくなったのかしら? 最近物騒ねぇ、もう三人だったかしら、いなくなったのは」


 エギルが話しかけた女性の独白は周りの喧騒に飲まれエギルまで聞こえることはなかった。






 もしかしたら間に合わないかもしれない。すでに手遅れかもしれないという悪いイメージが沸き上がるが、それらもすべて無視する。


 何人もの人々が闊歩する街中を颯爽と走るエギルは家と家の隙間や路地裏をできる限り見落とすことなく、耳を澄ましながら確認していくが、どうしても見つからない。


「……クソッ、どこ行った……ッ!」


 瞬きを意図的になくして目が乾くのも構わずに探し回る。


 そして、見つけた。


 黒い大きな帽子を被っている人物が人気のない場所へと入っていく瞬間をエギルは目撃した。することが出来た。


「急がないと!」


 エギルは走る。額から流れ出る汗を拭うこともせず、走り回ったためにできた疲労感と、早くしなければならないという焦燥感が泥のような倦怠感を呼ぶが、エギルはそれらを無視しながら黒の帽子を追う。


「何するんですか! やめ、やめてください! お願いですから!」


 先ほど黒い帽子の少女が入った場所から少女特有の甲高い悲鳴のような声が聞こえた。


 間に合わなかったのか。いや、まだ間にあう。淡い希望を抱きながらエギルは急いで少女を助け出さなければと自らの慈愛の心に鞭を打ち、少女がいるであろう路地裏へと顔を出す。


「だから、カード返してください!」


「駄目だ! お前みたいな人を簡単に信じる奴には冒険者はできねぇんだよ! まずは人を疑え! 罰としてカードは組合に預けておく」


「そ、そんなぁ~」


 エギルが目撃したのは暴行でも強姦でもない。一人の少女が三人の男の中の一人が白いカードを持っている。少女は何度も兎のように跳躍してそれを取ろうと 尽力している。


「……は?」


 その光景を目撃したために、王族である者からは絶対に出ないような間抜けな声が、エギルの口から吐き出されたのだった。

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