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十六話 元獣は王子の心情を知らない

 当の本人、王位継承権第一位、ルーク・フォン・ブルーノは平静を保ちつつ内心でかなり焦っていた。


 王宮では周りからの期待というなのプレッシャーと王族たる権威を下げないために必死に鉄仮面を被って威風堂々たる姿を周りの希望道理につけてきたが、ルークは元来感情的な性格で心の中ではいつも冷静からかけ離れていた。


 そんな彼が少女の肩に触れた途端にまったく違う場所、仲間がだれ一人いない場所に移動したのだから、焦るなという方がどうかしている。


 しかし、日常的に仮面をつけていたおかげか、その焦りは周りに気づかせることはなかった。

 移動した場所には村があり、そこの村人達は自分の格好を見て貴族と思ったのか少々謙った態度をとった。


 自分から少々離れた場所で冒険者らしき女性が王国最強の騎士を破った少女を叱っていることに度肝を抜かれ、少女の名前がヒデ、そしてそのヒデをしかているのが王宮でヒデが言っていたレティであることが分かった。


 どういう関係なのか考えるが、一先ず自分の正体を隠すか隠さないかで悩んでいるとヒデが自分が王子だといきなりばらしたが、やはり誰もそんな与太話を信じる者はいなかった。


 だが、その冒険者が自分がちょうど帯剣していた剣を見つけて自分が王子だと気づいた。そしたらいきなり村人全員が土下座をしてあれよあれよという間に宴が開かれてしまった。


 事情を話そうにも声を出しかけると村人は全員緊張のあまり会話が成立しない。そこで冒険者ならばと話しかけるがこちらも村人と同様で声が出ていない。


 ならばヒデならばと視線だけで探すと、土下座をしている者達を観察して土下座をしているレティという女性を見て爆笑して、最後には真似をしだす始末。


 今まで上から目線や対等に話し合うものなどほとんどいなかった。だから謙った者達にも何度もあった。


 しかし、ここまで謙られることは今までになかったため対応に困る。


 ああ、早く話が通じる人が来てくれないかなぁ。と、ルークは今までの王宮生活でも感じたことのない疲労感をその身から出し徐に自分の意に手を当てる。

 









 目の前でわけのわからないことを言うヒデに三人は困惑していた。


 現在王や王子や姫がどこかへ遠征したという情報は出ていない。極秘裏に移動している可能性は否定しきれないが、ほぼ確実に王都の中心である王城の中にいる。もし連れてくるとしたらここから何十キロと離れている王都まで行き、更に戻ってくるのにも同じ道のりを行き来しなければならない。


 更に、そこに行くのに魔物や亜獣に遭遇して戦闘などをすればそれだけで時間がかかる。


 故に目の前にいる少年は王子の服装を真似て作られた者を着てヒデや村人を騙しているか、もしくはヒデの遊びに使われている哀れな人物という可能性がある。


 街で数か月過ごしている間にヒデはいろんな遊びや娯楽を見つけてはそれらを本気で遊び、周りを楽しませることがしばしばある。その過程で街中で行われている演劇に無理矢理介入して怒られたこともある。


「ああ、えっと、王子様? なぁヒデ。もし仮にこいつが、あぁいや、このお方が俺達のいる国の王子だと仮定するがなぁ。もし本当に王子だってんならその証拠はどこにあんだ? それに王子が何の護衛もつけずにこんな辺鄙なところにいるなんてまず有り得ねぇんだよ」


「今ありえてるじゃないかぁ!」


「ないかぁ!」


「ないかぁ! ないかなぁ?」


 子供のように両手を上げて怒っていることを示すように言ったせいもあったのか、隣に鎮座していた幼女二人はヒデの後に続いて同じように両手を上げる。だが、その顔はヒデとは違って満面の笑みを浮かべている。


 目の前の二人の幼い子供は完全に少年のことを王子だと思っている。女子供は絵本などで王子様などに憧れを抱く。もし偽物でも信じることがある。


 三人は恐らく村人全員がこの目の前の詐欺師に何らかの形で騙されている。もしくは幻術や催眠などを使用されている可能性もある。


 今現在では王族などに変装して詐欺をする意地汚い連中が出現することがある。

王族などを語るものは極刑、つまりは殺される。それが王制を敷いている国の有体の法律に存在する。


 だが、もしかしたら王子に憧れている少年が王子を真似ているだけなのかもしれない。


 故に三人は目の前の少年がもし詐欺師ならばなんとかして論破しなければならない。だが、もし本物ならばという考えはこの三人にはなかった。


「なぁ兄ちゃん。あんた何もんだ?」


「だから王子だってば」


「ヒデ、少し黙ってろ。俺はこいつによぉがあんだからよ」


 頬を膨らませたヒデは抗議する。


 ギデはまったく自分の言うことに聞く耳を持ってくれていない。偶然とはいえ王子という人間社会でも偉い人間を連れてきている。人間は偉い人には逆らわず媚び諂うと教えてもらった。

 レティが彼が王子だと気づいたときは爆笑した。


 顔を青くした後、すぐに蒼白になりその場で今まで期待上げてきた身体能力を全て使って地面に素早く額を擦り付けた。


 最初は驚きもした。なぜそこまでするのかが分からなかったから。でも、そこまでするレティの姿を見て自然に笑ってしまった。


 故にこの時に媚び諂うギデやリルやエルを想像して内心楽しみにしていた。


 それなのにまったく気づく様子がないためヒデはご機嫌ななめになってきている。


「で、あんたは何もんなんだよ」


「おいギデ。お前は顔が厳ついんだからそう顔を近づけてやるな。俺に変われ」


「ちっ、わぁったよ」


 舌打ちを一つするとギデは豪華な椅子に座ってこちらを見据えている少年を一瞥すると髪のない頭をかきながら後ろに下がっていった。


「あ、あの、リルさん」


 いざ話をしようとしたところにエルが後ろから話しかけてきた。


 振り向くとそこには顔面蒼白の病人のようなエルがこの世の終わりでも見るたかのように見えるほどに悪い顔色をしていた。


「エル、お前はちょっと休んでろ。討伐で疲れてたんだな。しっかり休め」


 何かに気づいたような雰囲気を醸し出すエルを疲れているからだと思ったリルは一瞥しただけで再び少年に視線を向けた。


「で、あんたは何者だ?」


「王子様だよ」


「だから、お前は……」


「いや、本当なのだ」


 再び横から邪魔を入れたヒデに文句を言おうとしたリルの言葉を遮ったのは先ほどまで沈黙を守っていた目の前の少年だった。


 因みにルークはやっと話が通じる人間が来たのではないかと期待に満ちた気持ちを密かに抱いていた。


「本当って、じゃぁ証拠はどこだよ。確か王族にはこの国に一つしかない純粋なヒヒイロカネでできたメダルがはめられた剣を持ってるとか」


 何事にも証拠は必要とされる。犯罪者なら犯罪に関与した証拠を、冒険者ならばカードを、貴族ならば王族から発行される親書を必要とされる。


 例外はなく、王族には王族である証拠も必要とされ、証拠は誰もが認知していなければ成立しない。


 よって、王族である証拠の物は一般公開され誰もが一度は見たことがある。誰もが目を釘付けになるように、印象に残るように目以降に作られた一本の剣。


「ああ、持っている」


 少年は即答する。


 王族の証を持っていると目の前の少年は即答した。しかし、少年の腰に剣は刺さっていない。ならば椅子回りかと思い見渡してみたが見つからない。


「一体それはどこにあるんだ? 今君の周りにはないみたいだけど」


「……」


 少年は徐に手を上げるとある一方向を指さした。


 つられてリルとギデとエルはその指先の咆哮に視線を向ける。


 そこには先ほどまで食事を楽しんでいたはずのヒデが男の子数人と一緒に一本の剣を鑑賞していた。


 豪華に装飾された鞘にはサファイアなどの宝石も付けられており、本当に王族が持つような豪華さだった。


 それを唐突にヒデが持ち上げると鞘を抜き鈍く光る刀身をむき出しにすると、何を思ったのかいきなり剣を上段に構え、振り下ろそうとしている。


「っておぉい! ヒデ! 踏みとどまれぇ!」

「えい!」


 気の抜けるような掛け声で振り下げられた刀は持ち主の手を離れ一直線に飛んでいった。


 ヒデが向いていた方向が村人達がいた方向だったために殺害を用途に作られた武器は回転しながらその本文をまっとうするかのように村人に襲いかかった。


「ひぃいいい!」


 悲鳴を上げながら剣が飛んでくる直線上にいる者達は飛び退いて回避する。剣はそのまま飛び続け村を囲う柵に当たる。


 そこで止まると誰もが考えた。ヒデさえも思っていた。


 だが、剣は何の抵抗もなく策を切り裂き奥の森の中にある木の一本に切れ味がない鍔まで突き刺さり停止した。


「なんて切れ味だ」


 あまりの出来事と、眼前にある剣の切れ味でみんなは驚嘆してもしあれに当たっていたらと想像して身震いしている。しかし、よくわかっていない子供とヒデは剣の切れ味がここまでの物なのかと目をキラキラと輝かせている。


 先端の尖った物は、他の物体に刺さる。それが面になったものが剣などの刃物である。刃物は鋭利で、自身よりも柔らかい物質に適切な角度と十分な力で触れた場合で物が切れる。


 切るというのは人の手が加わってこそ起こりうる減少。しかし、眼前の光景は剣だけがひとりでに切り裂いた。


 普通の鉄や銅などでは絶対にできない。それを可能とするのは世界最固と言われる『ダマスカス鋼』『アダマンタイト』もしくは『ヒヒイロカネ』以外にあり得ない。


 『ダマスカス鋼』には独特な模様があることで特定しやすい。よって、あの剣は残りの二つのうちのどちらかということになる。


 つまり、あの件はその三つのうちのどれかということになる。この三つはとても価値があり一介の貴族や冒険者、ましてや村人など絶対に手に入ることのない物。実質それらを武器としてできるのは偶然洞窟などで手に入れたか、金に糸目も付けずに買った大富豪のみ。


 もしあの椅子に座っている少年が偶然にもあの二つのどちらかを手に入れて無理矢理豪華にした可能性がある。


 しかし、あの鞘の宝石や装飾を見た目から判断して本物のように見える。そして少年が来ている服も相当な物。ならばかなり裕福な家庭であると予想できる。もしその様相が当たっているならば王家の真似をして詐欺を働く必要がない。


 これは大富豪が糸目をつけずに買った場合にも言える。


 つまり、今迄対応していた御方は庶民とはかけ離れている者であり、お金を稼ぐ必要があまりない者ということになる。


 リルは錆びた歯車のようにゆっくりとぎこちなくギデとエル、そして正座をしているレティを見ると、全員が顔を青くしていた。


 次にしなくてはならないことをアイコンタクトだけで通じ合った四人は同時に頷く。


「すいませんでしたぁ!」


 四人は同時に少年の前に行き額が陥没する勢いで地面に叩きつける。因みにこの時レティは本日二度目の土下座であった。

予定通りに王子様の内心焦り的な感じが出せたと思っています。


結構難しい

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