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十四話 元獣は意図せず王子を拉致る

今回は少々短め


「グハッ!」


 相手を殺そうとして振るった刃が赤く染まる前にそれを持つ二人は二つの毛皮の横から、その柔らかさとは反比例した力強さによって二人は左右同時に吹き飛ばされた。


 意識外からの攻撃を視線のみを動かして認識し、振り返ることなく邀撃したヒデに誰もが絶句した。今度は抑え込んでいた兵士達が瞠目する。みんなが絶句していたために兵士達の力が緩んでしまった。その隙を逃さず腕から脱出するためにヒデは自分の体を固定している四人を腕力と脚力のみで振りほどく。


 技術も何もないただの力比べで、大の大人四人がたった一人の少女に敗れた。

 それだけで相当の力を有しているのは分かる。普通の人間ならば有り得ない。魔法を使えばできる可能性があるがそれを使っている様子はない。あまりにも人外過ぎる。


 だがその時、振りほどかれた者の一人の体でヒデの視界が覆われる。


 決定的なチャンスを逃さず、エルクは前に出していた手を掴み引き寄せると同時に足をけりバランスを崩し、ヒデを片手でそのまま引き寄せ背負い投げの要領で背後の瓦礫だらけの床にたたきつけた。


「ッ!」


「……ニヒ」


 床にたたきつけられる寸前、二本の柔らかい尾を使い衝撃を全て吸収したためにヒデ本体には全く衝撃や痛みは伝わらず、それに瞠目したエルクの顔を逆さまに見ながらヒデは笑い尾を伸ばして手を掴まれたまま、まるで時間が巻き戻るようにして位置に戻ったヒデはエルクの真似をした。


「なに!?」


 突如として浮遊感にとらわれたエルクの体は軽々と持ち上げられ床に叩きつけられる。


「ごふぅっ!?」


 背中から襲ってきた衝撃に意識が再び失われそうになる。


 もう何度も意識を失いかけたか覚えていない。だが、ここで意識を失うわけにはいかない。戦わなければ。倒さなければ。


 一種の強迫観念に駆られることによって見開かれたエルク目に映ったのは今まさに踏みつけようとしている足だった。


「ふん!」


 体を横に転がして踏み潰されることを避けたエルクは急いで立ち上がる、と同時にエルクの腹に蹴りが入った。


「うぐ!」


 ギリギリで剣を盾代わりにすることができたエルクだが衝撃を全て受けきれるほどではなかったためにそのまま後ろへと吹き飛びヒデはそれを観察していた。


「変。やっぱりは人間とっても変わってる。強い奴と弱い奴がとても分かり辛い。もうちょっとわかりやすくは……ならないよねぇ」


「クッ…‥この……」


「もうよい!」


 誰もかもが絶望しすでに嬉々として殺戮の場に身を投じることを覚悟していた全てを薙ぎ払うかのように一人の青年の凛とした声音が皆の熱を冷ましつくした。


「王子殿下! いけません! ここは私に……」


「もうよいといっている。これ以上お前達が傷つくところを私に見せるでない」


 優しく子供を窘めるように言い聞かせるように、満身創痍の隊長に上からものを言う。


 それはとても高かった。床に這いずる形で上を眺めるようにしているにしては、目の前の少女の姿はあまりにも高く聳えていた。


「お兄様……」


「大丈夫だよセレス。陛下、私に少々の暇をいただくこと、お許しください」


 兄を心配する妹。そして、自分が死ぬかもしれないというのにその瞳から決意以外をすべて排除したかのような力強い眼力を王子は持っていた。


「……よかろう。ただし、帰ってこなければ、お前の王位継承権をはく奪する。つまり、次期王は第一王女のセレスか、今隣国に留学生として行っている第二王子となる。分かっておるな?」


「はい。問題はありません陛下。私は必ず帰ってまいりますので」


 王都王子は形式美を気にしてお互いに返事を返す。


 苦渋の選択。王は自分の息子が死んでしまう可能性に嘆き悲しむ。


 王の責務には跡継ぎを作るというものがある。しかし、それでも王はたった一人しか愛さず、抱くことはなかった。子供も今いる三人のみ。


 出来れば遊んでやりたいと思ったが仕事が忙しく構うことができなかった。恐がっている時に一緒にいてやることができなかった。もっと普通の家族のように、自らが愛した者と共にその愛の結晶を見守り続けたかった。


 気が付けば後悔ばかりが悪目立ちする。今まで後回しにしてきた後悔が今この時になってやってきた。


 誰もを欺く仮面を被った親子の会話にエルクは長虫を噛み締めた。


 殺らなければならない。だが、いくら思っても自分よりも高い場所を知った体は言うことを聞かない。主人のために戦はなければならない。だが、想いは力に変えられなかった。


 口から血を流しながら目を瞑っているエルクの横を王子は悠々と毅然として歩き、ヒデの前までやってきた。

 

 最強の存在。何を考えているのか全く分からない。分からないというだけでも恐怖心が産まれる。だが、王子は凛としてその最強の前で立った。


「さて、侵入者君。君はいったい何が望みだ? 私を攫って、何がしたい?」


 相手を威嚇しないように怒らせないようにできる限りの笑みの厚皮を顔に張り付けた時代の象徴は、目を逸らすことなくヒデの瞳を覗き込み、その裏にいる者をも見透かそうとするほどに鋭かった。


「あぁ、あなたが王子様かぁ。ちょっと待って」


 そう言うとヒデは王子様に背を向け数歩歩くと口に手を持っていった。


「ネネちゃ~ん、ターニャちゃ~ん。お待ちかねの王子様だよぉ」


「は~い!」


「やっとあえる~!」


 二人を呼ぶヒデに対してその二人はが元気よく返事をすることに王子は若干の恐怖を植え付けられたが、それを必死に表情に出すことはなかったが、周りの死屍累々の兵士、騎士、更には貴族や国王などは目から血が出ると思うばかりに睥睨していた。


「彼女達は?」


「は~い、では自己紹介をしましょう。私はヒデ」


「私はターニャっていうの! 王子様!」


「ネネは、ネネだよ! 王子様!」


 二人が容姿相応な反応を示す眼下に立つ幼女を見て苦笑した。


「ねぇ、約束通り二人を王子様に会わせてあげたよ。嬉しい?」


「うん! ありがとう! お姉ちゃん!」


「ありがとう!」


「ああ……ああ! そうだよ! 私は、その顔が見たかったぁ!」


 彼女は笑った。楽しそうに笑って嬉しそうに笑って母親のように娘のように姉のように妹のように満面の笑みで笑いを作って二人を抱き上げてぐるぐるとその場で踊った。


 ネネとターニャを抱き上げて笑いながら踊るさまは戦闘によって瓦礫が散乱しその意味を成さなくなった倒れた両扉を背景に飾った主役は俗世とは別離した溌剌とした笑顔を周囲に振り巻き、散布された笑みを受けた周囲は現状をしっかりと理解していたにもかかわらず不相応に見惚れた。


「さて、二人とも。王子様に会えたことだし、もうそろそろ帰ろっか。レティ達に何にも言わずにきちゃったから帰らないと……叱られるかも」


 途端に顔を青くするヒデにターニャとネネは同じように顔を青くした。


「私もお母さんに叱られちゃう。叱られちゃかなぁ?」


「ネネも……ネネも叱られちゃうのかなぁ」


 ヒデの言葉に二人は明らかに動揺し顔を青ざめた。


 あからさまに体を震わせ始めた二人と悪鬼の如き力を見せつけた獣が体を震わすレティという存在に周囲は焦慮する。


「じゃ、帰ろっか」


「うん!」


「りょ~か~い」


「ちょ、ちょっと待ってくれ!」


 今まさに帰ろうと踵を返した三人を止めたのはヒデの最も近くにいた第一王子だった。


「君達は私を、私達を殺しに来たんじゃないのか? いったい何が目的でここに来た?」


「目的って、私はただターニャちゃんとネネちゃんが王子様に会いたいっていうから会いに来ただけなんだけど?」


 素直に言われたその言葉で誰もが唖然として口をだらしなく開いたまま閉じることをしばらく忘れた。足元の二人は周囲の反応を困惑したように眺めている。


「で……では、なぜ城の兵士を全滅させたのだ?」


「なぜって、王子様に会わせてって言ったら会えないって言われて、それを無視していこうとしてきたら襲ってきた。で、それを返り討ちにしていたら皆がわらわらときたからみんな返り討ちにしただけ。だから、私は悪くない!」


「悪くない!」


「悪くない! 悪くないかなぁ?」


 腰に手を当てふんぞり返りながら無罪を自信過剰気味に堂々と発言したヒデにつられてネネも同じようなポーズをとりターニャはいつも通り疑問のようにな言葉を口にする。


 この時のヒデに対しての周りの印象は幼い子供となった。


「それじゃ、かーえろっと!」


「ちょ! だから待ってくれと!」


「……え?」


 肩を掴もうとする手を伸ばしたそれはしっかりとヒデの肩を掴んだ。それと同時に王子との姿と三人の人の形が一瞬ぶれるとそこには大理石で作られた床が先ほどまで四人がいた場所の床のみが土に変わっていた。


「お……王子が攫われたぁ!」


 だが、そのことに気づくのは騒ぎを聞きつけた国王の王妃が現れ場の熱気が冷めるまで気づかれることはなかった。


 王子が攫われるという前代未聞の出来事、しかしそれを公開することは王族に汚点を残すことになり、一般市民に対しての面目が経たなくなる。更にはよからぬ輩が攫われた王子に手を出す恐れがあるために、情報規制が敷かれた。


結構頑張って細かく描いてみた戦闘がやっと終わった!

かなりしんどかったぁ

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