九話 《始まりの始まり》
あっけなく試合が終わり、俺たちは観戦席の方へと呼び出されていた。
観戦席といっても、安全を考慮して、完全に演習場から隔離されているのだが。もはや、観戦室といった方が良いか。
ここにいるのは、第七部隊全員と聖の双子、瑞希さん、そして学園長。
おそらく、第一部隊の連中は医務室に運ばれたのだろう。鈴音ちゃんはともかく、シルヴィアと桜華さんは確実に仕留めるからな。
「さて、両部隊とも良い試合だった。そう言えばさっきまで一緒に見ていた女生徒がいたが、試合が終わるなり出て行ってしまった。轟くんを熱心に見つめていたようだが...」
轟は首を傾げている。
まぁいい、と 学園長は一つ咳払いをする。
「それはそうと、第七部隊の諸君、おめでとう。それほどの実力を持ちながら最低の部隊と呼ばれているのは何なのだろうね?」
「何を今更言ってるんですか。知ってるんでしょう?知ってなかったらこんな試合組みませんよね、学園長?」
俺の一言に学園長は、ほう、と呟き肩をすくめた。
「そこまでお見通しか、さすがは牧野くん。私の子供たちを相手にあそこまで戦っただけはある。いや、あのまま戦わせていたら、負けていたのはおそらく戦たちだろう」
「いえ、それはどうでしょうか。一対一であるならば確実に俺が勝つとは思いますけど、ニ対一ですから。でも、戦たちは二人で戦わないと意味を成しませんからね」
「まぁそこは双子の宿命というところだろう。いや、普通の双子ならいざ知らず、完全な双子である戦と剣は、君も言ったとおりシンクロすればするほど手強くなるぞ」
「完全な双子?」
その言葉が妙に引っかかった。
「おっと、口が滑ったようだ。これ以上は我が子が不利になる。まぁ、次の戦いを楽しみにしておくがいいさ」
すると、唐突に桜華さんが口を開いた。
「それで?何の用なんですか?試合後に招集はあっても、試合直後なんてのは珍しいじゃないですか」
基本誰に対してもフレンドリーな桜華さんが敬語になるのは少し、いやかなり珍しい。それも学園長の独特な雰囲気の為せる技なのだろう。
「そうだな、疲労している体に無理はさせられない。手短かに済まそう」
学園長は1つ咳払いをした。
「第七部隊の諸君。それに第一部隊、聖戦、聖剣。空都政宗くん...は医務室か」
先ほどまでの柔らかい声ではなく、威厳のある声音で名前を呼ばれ、自然と背筋が伸びる。
「諸君らに《メシア》で新たに構成しようとしている新部隊、《キャリアー》に入隊してもらいたい」
「ちょっと待ってください、学園長!」
声を上げたのは瑞希さんだった。
「彼らは実力を持っているとは言え、まだ学生、子供です!そんな彼らを前線に置くなんておかしいです!」
対し、学園長は眉一つ動かさない。
「そんなことは分かっているとも。承知の上で頼んでいる。神々は近いうちに襲撃してくることを既に明らかにしている。今のうちに少しでも戦力を確保したいのだ」
その一言で部屋の中が一気に重苦しい雰囲気になる。
俺たちは文字通り進化した。トランサーという超常の存在に。トランサーとなったことでいろんなことができるようになった。
ただそれは人類だけのものだ。
人類の進化は人類の発展に大きく貢献したが、それは同時に自然界の均衡を破壊する事に繋がった。
生命体誕生から何億年と見守ってきた神々は突然進化した人類に対し、世界のバランスを守るために人類の粛正を開始した。
「そんな...。前の襲撃から五年も経ったのに、また何で...」
「私は学園長だから言っているのではない。ましてや《メシア》の上部だから言っているのでもない。私は、一人の人間として、諸君ら一人一人にお願いしたい。強制はしない、降りたければ降りればいい。ただ、これだけは約束してほしい。今戦わずとも、いずれ世界中のトランサーが戦いに駆り出されるだろう。その時は、必ず...必ず世界のために戦ってくれると」
そう言って、学園長は瞼を閉じた。俺たちの答えを待っているのだろう。
世界を救う?世界を守る?くだらない。そんなもののために俺は戦ってやるものか。
「俺は世界を救うことができるほど強くない。でも、だからって目の前で苦しむ人を見過ごすことはできない。俺はやります。人類のためとか、世界のためとかじゃなくて。俺は俺のために戦います」
俺ははっきりとそう告げた。
「俺も行くぜ」
轟が一歩前に出る。
「詳しいことはよく分かんねぇ。でもこれだけはわかる。神様を倒さないと俺たちがやられるってことだけは。それなら行ってやるさ。そんで、サクッと終わらせて、また平和な世界を取り戻すんだ」
轟もまた、確固たる信念を持ったトランサー。口では上手く言えなくても、心の中にちゃんと想いを持っている。
「仕方ないですね、兄さんたちは」
「本当ですね。そんなこと言われたら、同じ部隊の人間として引き下がるわけにはいかないじゃないですか」
「まぁそこが良いんだけどな」
俺は背を向けつつこう言った。
「みんな、俺と轟の馬鹿に付き合ってくれ」
桜華さんたちは声を揃えてこう言った。
『もちろん』
我ながら良い仲間を持ったもんだ。
「双子はどうするんだ」
双子に問いかける。
「決まってるだろ、牧野くん」
「もちろんついて行くよ」
『だって聖義坂の子供なんだから』
どうやら双子の気持ちは俺たちと同じのようだ。
突然、観戦室の入り口が開いた。
「話は聞かせてもらった」
入ってきたのは空都だった。
身体の至る所に包帯を巻いており、足取りもふらふらだが何とか近くまで歩いてくる。
「神々だと?笑わせるな、もとよりそんなものは眼中に無い。俺が戦うべき相手は雨音轟ただ一人。その邪魔をしようものなら神だろうと容赦はしない。逆に俺が、所詮は傍観者に過ぎない神を屠ってやろう」
これで全員か。
全員が意思を示し、学園長がゆっくりとその瞼を開く。
「皆、ありがとう。これからは君らとは生徒と教師の関係ではいけないな。お互い戦士だ」
学園長の言葉が不思議と心に響く。
「いやなに、学園をやめて《メシア》に入れというわけでは無い。ここは皆の日常なのだ。いつも通り過ごしてもらって構わない。ただ、その時が来たら共に戦ってくれるか?」
「何度も言わせないでください。俺たちは戦います」
俺がそう答え、学園長は満足そうに頷いた。
「そうか。では共に戦ってくれ。同志たちよ」
俺たちは戦おう。信念のために。
『我が魂に誓って』
読んでいただきありがとうございます。
とりあえずこの九話で一区切りつけようかと思います。
何だかいろいろと端折った感が満載なんですが。
まぁ、真の敵は神様でした!という感じです。
それはそうと、どうでしょう。読み辛くないですか?
自分的には、「ここ、こんな風に描写してちゃんとイメージできるか?」「ここの設定分かり辛くね?」と言うように四苦八苦している次第であります。
近いうちに設定などを纏めたものを書きたいと思いますが、いつになるかは決めてません。本編を書きつつ、ちまちま設定を出していく、というように進めたいとは思っております。
それと、分からないことがありましたら感想にて聞いてくだされば、ネタバレにならない程度にお答えいたしますので、そちらもどうぞ。
いきなりですが、これまでで好きなシーンは二話 《日常》でのポーカーのシーンです。
特に轟くんの台詞、「永時、ポーカーしねーか?」は友人に弄られて以来気に入っております。
さて、明かされた真の敵。それは神々。
これから本気出す。と永時くんたちも燃えております。
九話ではイメージと違い、シリアスな感じになってしまいましたが、本当は最初の頃のように楽しいお話です。
というか永時くん以外のメンバーの戦闘を書いてみたかったり、もっとラブコメシーンを書いてみたかったりします。
まだ本編は始まったばかりだ!
長々と失礼しました。
これからもどうぞよろしくお願いいたします。